見出し画像

営利と職人の、工場制手工業と家内制手工業のコントラスト/『フォードvsフェラーリ』【ネタバレ感想】

※この感想にはネタバレとなる部分に触れている箇所があります。

アメリカの名門自動車メーカー「フォード」は実用的な大衆車を製造販売していたが、戦後のベビーブーム世代が成人すると巨大なマーケットになることを見越してフェラーリのようなスポーツカーをラインナップにする戦略をとろうとする。そのためにはカーレースで勝利しなければいけない。カーレースといえば本場欧州。欧州といえばル・マン24時間耐久レース。そこで圧倒的強さを誇るフェラーリに勝つためにフォード社は唯一アメリカ人でルマンで優勝した元レーサーでカーデザイナーのキャロル・シェルビー(マット・デイモン)に白羽の矢を立てる。そしてシェルビーはイギリス人の粗野なエンジニアでレーサーのケン・マイルズ(クリスチャン・ベール)を引き入れるが・・・。

事前に音響設備が良い劇場で観たほうが良いとアドバイスをもらっていたので、TOHOシネマズ新宿のIMAXレーザーで観てみました。

12chのリアルサウンド
針が床に落ちる小さな音から、お腹に響くような火山の噴火音まで、独自に設計された12chサウンドシステムがリアルに再現。これまでにないほどパワフルで臨場感あふれるサウンドが体感できます。

僕と同い年のクリスチャン・ベールということでなぜこうも人生が違ってしまったのかと『太陽の帝国』からずっと思っていたことを今回は胸の奥にしまいこんで7000回転の先までクリスチャン・ベールと突き抜けてきました。
 レース映画といえばスティーブ・マックイーンの『栄光のル・マン』という映画がありまして、レース好きのマックイーンの肝いりで作られたこの映画は純粋なレース映画として必見なのですが、『フォードvsフェラーリ』ではそこに営利と職人の、工場制手工業と家内制手工業のコントラストが重なりドラマに厚みが増しております。
 例えば車を売るための広告としてレースを見ている経営側と、勝負事として勝利を目指す現場のレーサーやエンジニアたち。またとても印象的に描かれているのがモノづくりの思想。映画に登場するフォード社長の祖父であるヘンリー・フォードが開発したフォードシステムと呼ばれる生産方式は、流れ作業による組み立て工程の簡略化と単純作業による精度の向上を図り今日の工場生産の元となった画期的な発明で、これらは熟練工が必要ないために多くの雇用を生みだしました。
対して映画で描かれるフェラーリの工場(あえて“こうば”と言おう)は、エンジンやシャシーをそれぞれ一人の職人が組み立てていくシーンが映されます。
アメリカの合理主義を象徴するフォードの工場制手工業と、職人の国イタリアを象徴する家内制手工業(宮崎駿の『紅の豚』でも描かれたアレです)。
車の製造方法にどちらが良いかということではなく、そんなモノづくりの思想のコントラストが素直に面白い。
 結局レースで勝てる車を作り出すのは現場の熟練した人々なのですが。

 印象的なシーンはマット・デイモン演じるシェルビーがフォード社長を説得するためにル・マンで使用するマシンGT40マークⅡに社長を乗せて空港をかっ飛ばすシーンです。
 そこでフォード社長は泣き出すのですが、「おじいちゃんに見せたかった」と泣くのです。
 ヘンリー・フォードはレースに興味を持っていたもののあまり良い結果がでずに早々にレースから距離を置いていたので、この孫のフォード社長の涙には、ぐっと胸にきます。
 
 そしてレース映画でもっとも重要なのは車ですよ。若気の至りで僕も昔はスポーツカーを乗っていた時があるのですが、シフトチェンジの快楽というのは病みつきになるものです。
 この映画では必ずシフトノブをガチャンコと入れ、アクセルを踏み込む描写があります。そしてカメラは車外から加速していく車を映し出し、エンジン音が甲高く吠えていく。
 アガります!!!!
映画ではエンジンの7000回転というのが一つのリミットのバーとなっています。
7000回転を維持すればエンジンは壊れずにゴールまで走り切れますが、それを超えてアクセルを踏むとエンジンに負担がかかり故障の危険性が増します。しかしトップを目指し、他者を抜くためにはその7000回転を超えなければいけない時があるわけです。
 この7000回転を超えるか超えないかがフォードの経営陣に於ける保守的な態度と、現場の人たちの勝負事にかけるチャレンジと重なり、アクセルを踏んで7000回転を突破するシーンで、
アガります!!!(2度目)

映画を後から冷静に考えると、フォードがスポーツカーを作るならフェラーリを買収しちゃえば簡単じゃん!とエンツォ・フェラーリ翁に買収の話を持ちかけるが、「なんでもお金で買えると思うなよ小童!(意訳)」と一喝され、しかもフィアットに出し抜かれた格好となったフォードが「じゃあ、レースでギャフンと言わせてやる!」とレース参戦を決意するのも、考えてみれば当たり屋の以外の何物でもなく(車だけに)、フェラーリも面倒くさいヤツに絡まれたなと映画だけ見ると同情してしまいます。もう少しフェラーリをカッコよく描いて欲しかったというのもありますが。

そしてキャストが素晴らしい。
中でもケン・マイケルズを演じたクリスチャン・ベールにこの映画は尽きますね(妻のモリー役のカトリーナ・バルフも魅力的)。泥臭さ、英国労働者っぽさ、しかしふとのぞかせる寂しげな表情。ケン・マイルズが登場しないシーンでも観客は常にその存在を気にし続けてしまうというのは最高なんじゃないでしょうか。
ああ、なぜ同い年なのにこうも僕と違ってしまったのだろうか・・・・。

ということで『フォードvsフェラーリ』は是非大きなスクリーンと大音響で見て欲しい映画です。

2020年1月14日鑑賞

画像1

マット・デイモンとクリスチャン・ベールが初共演でダブル主演を務め、1966年のル・マン24時間耐久レースで絶対王者フェラーリに挑んだフォードの男たちを描いたドラマ。ル・マンでの勝利を目指すフォード・モーター社から依頼を受けた、元レーサーのカーデザイナー、キャロル・シェルビーは、常勝チームのフェラーリ社に勝つため、フェラーリを超える新しい車の開発と優秀なドライバーの獲得を必要としていた。シェルビーは、破天荒なイギリス人レーサーのケン・マイルズに目をつけ、一部上層部からの反発を受けながらもマイルズをチームに引き入れる。限られた資金と時間の中、シェルビーとマイルズは力を合わせて数々の困難を乗り越えていくが……。シェルビーをデイモン、マイルズをベールがそれぞれ演じる。監督は「LOGAN ローガン」「ウォーク・ザ・ライン 君につづく道」のジェームズ・マンゴールド。
2020年1月10日公開
2019年製作/153分/G/アメリカ
原題:Ford v. Ferrari
配給:ディズニー


最後までお読みいただきありがとうございました。 投げ銭でご支援いただけましたらとても幸せになれそうです。