敵意と憎しみの中に見え隠れする敬意 ビッグ・ノーウェア/ TRUE DETECTIVE

『ビッグ・ノーウェア 上・下』 
ジェイムズ・エルロイ/著 二宮磬/訳文春文庫(絶版)

「相棒もの」の小説でもっとも衝撃をうけたのは、ジェイムズ・エルロイの『ビッグ・ノーウェア』だ。本書は、《暗黒のLA四部作》の二作目にあたる。一作目の『ブラック・ダリア』、三作目の『LAコンフィデンシャル』は映画化もされ、特に後者は第七十回アカデミー賞において作品賞の最有力候補であった(『タイタニック』に獲られたけど)。「少年ジャンプ」のモットー「友情・努力・勝利」の少年漫画で育った僕にとって、〝相棒〟とは、友情という切っても切れない絆で結ばれているものであると信じてきた。しかしエルロイの作品に登場するバディは、あっさりと切れる。というか、はじめから絆なんてものはない。愛とか友情のような〝不確か〟なものを信じていては、暗黒のロサンゼルスでは生きていけないのである。バディとしてお互いを結びつけるものはひとつ、自分の利益のためである。だからこそエルロイの小説では、殺したいほど憎んでいようと、自分のためならばその人間と行動を共にする。そんな実利主義の人間たちの物語が、食うか食われるかの暗黒社会をくっきりと浮かび上がらせる。そして、そこにかすかに見える相棒への気遣いや敬意が、もう、なんちゅうか、こう、燃えるのです。ネタバレになるので詳しくは語れなくて悔しいが、この『ビッグ・ノーウェア』は四部作中でも白眉。エルロイ作品を読むなら、まず本作をオススメしたい(文春文庫版は絶版。現在は電子書籍で読めます)。

そんなエルロイ的バディを彷彿とさせたのが、アメリカのテレビドラマ『TRUE DETECTIVE/二人の刑事』(一四年)だ。

 ルイジアナ州の刑事であったハート(ウッディ・ハレルソン)とコール(マシュー・マコノヒー)が、十七年前に担当した殺人事件がもとで、再び事件の渦中に身を置くことになる話。相棒と良好な関係を築こうとするハートと、鬱陶しがるコール。そして徐々に関係が崩れていく……と、かなり僕好みのバディ的展開を見せてくれる。そしてルイジアナの沿岸部という、果てしなく広がる湿地帯の陰鬱な風土が、事件の真実を覆い隠す恰好の舞台装置ともなっているのが印象的。

 本作は一話一時間の全八話で構成されるドラマではあるが、これはもう「八時間の映画」と言ってよい大傑作である。

 余談だが、このドラマの制作総指揮、企画、脚本を担当しているのがニック・ピゾラット。作家であるピゾラットは『逃亡のガルヴェストン』という小説も書いている。

『逃亡のガルヴェストン』ニック・ピゾラット/著 東野さやか/訳
早川書房 ISBN:978-4-15-001847-4

 闇の仕事で生きてきたロイが癌がんの宣告と共に組織から追われるに身になり、なりゆきで出会った家出娘と逃避行を共にする。人生のどん底に落ちた中年と少女の〝相棒〟二人の、哀しくも一筋の希望を灯すラストが胸に詰まる傑作だ。

また『七人の侍』をアメリカでリメイクした『荒野の七人』のリメイク(ややこしい)『マグニフィセント・セブン』(来年一月公開)の脚本も彼が担当している。

相棒=バディ映画のツボは人それぞれ違う。僕はその友情や絆にではなく、敵意と憎しみの中に見え隠れする敬意に燃えてしまうのだ。 

2016年 フリーペーパー「映画の本棚 vol.2」掲載

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