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書評とかレビューとか

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2020年1月の記事一覧

旧作も傑作も駄作も分け隔てなく、楽しそうに記事にする雑誌だった/『映画秘宝』休刊に寄せて

総合カルチャーサイト、リアルサウンドさんに『映画秘宝』休刊について寄稿しました。

読みたいと思った本が読めるようになる時代がこれからも続き、またこれからも続きますように/傑作バンド・デシネ『Rébétiko』(レベティコ)を翻訳出版したい!

 フランスの漫画(バンドデシネ)の翻訳で精力的に活動されている原正人さんがクラウドファンディングで『レディベコ』というバンドデシネの翻訳を目指しています(2/17まで)。 『レディベコ』はギリシャの下層階級に愛された音楽で、大戦前のアテネを舞台にレディベコのミュージシャンたちのどうしようもない日常の物語です。(詳しくはリンク先) 原さんとは私の前職の書店からのお付き合いですが、電車で1時間30分、駅から車で20分以上かかるところにある店まで来ていただき、私と二人で「海外コミッ

土とはまさしく、北海道で生きる人々のことである/【感想】『土に贖う』河﨑秋子

明治時代の札幌で蚕が桑を食べる音を子守唄に育った少女が見つめる父の姿。「未来なんて全て鉈で刻んでしまえればいいのに」(「蛹の家」)。昭和35年、江別市。蹄鉄屋の父を持つ雄一は、自身の通う小学校の畑が馬によって耕される様子を固唾を飲んで見つめていた。木が折れるような不吉な音を立てて、馬が倒れ、もがき、死んでいくまでをも。「俺ら人間はみな阿呆です。馬ばかりが偉えんです」(「うまねむる」)。昭和26年、レンガ工場で最年少の頭目である吉正が担当している下方のひとり、渡が急死した。「人

トリッキーで挑発的な構成で物語を読者に投げてくる/【感想】『嘘と正典』小川哲

零落した稀代のマジシャンがタイムトラベルに挑む「魔術師」、名馬・スペシャルウィークの血統に我が身を重ねる「ひとすじの光」、無限の勝利を望む東フランクの王を永遠に呪縛する「時の扉」、音楽を通貨とする小さな島の伝説を探る「ムジカ・ムンダーナ」、ファッションとカルチャーが絶え果てた未来に残された「最後の不良」、CIA工作員が共産主義の消滅を企む「嘘と正典」の全6篇を収録。奇想小説、歴史小説、そしてSF小説……ジャンルすべてを包含して止揚する傑作集の誕生。 小川哲の小説に出会ったの

私たちは人を想うとき、はたして正しく想えているのだろうか/【感想】『熱源』川越宗一

故郷を奪われ、生き方を変えられた。それでもアイヌがアイヌとして生きているうちに、やりとげなければならないことがある。北海道のさらに北に浮かぶ島、樺太(サハリン)。人を拒むような極寒の地で、時代に翻弄されながら、それでも生きていくための「熱」を追い求める人々がいた。明治維新後、樺太のアイヌに何が起こっていたのか。見たことのない感情に心を揺り動かされる、圧巻の歴史小説。 2019年に札幌の北海道庁旧本庁舎(赤れんが庁舎)に訪れた。その二階には樺太関係資料館があり、そこではかつて

こんな風に世界は終わる 爆音ではなくて、すすり泣きとともに/【感想】『映画と黙示録』岡田温司

核による人類滅亡、宇宙戦争、他者としての宇宙人(異星人)の表象、救われる者と救われない者、9・11という虚実の転倒と終末映画、そして、コンピューターやロボット、AIに支配される社会…。ホラー、パニック、アクション、戦争、SF、ミステリー、フィルム・ノワールなど、約250作を取り上げ、原典があらわすイメージ・思想と今日の私たちとの影響関係を解き明かす、西洋美術史・思想史家の面目躍如たる一冊。 「起こりうること」「間近に迫っていること」にとらわれて生きる私たち人間は、黙示録的な世