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書評とかレビューとか

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2018年9月の記事一覧

活字の中を釣り巡る フライフィッシング的読書ガイド

『FlyFisher』2014年11月号掲載 ※書籍情報は掲載時のものです 『ヘミングウェイ釣文学全集〔上巻・鱒〕』 (文藝春秋) ヘミングウェイの釣文学と言えば『老人と海』『大きな二つの心臓の川』が有名であるが、本書に収録の『最高の虹鱒釣り』『二十ポンドの鱒との激闘』の二作に興奮しないフライフィッシャーはいないだろう。カナダでの虹鱒釣りを記したこの二作は、巨大な虹鱒とのパワフルな激闘がヘミングウェイらしい荒々しい文章で記されている。 エサに飛びつく虹鱒の水柱。そして二フ

「後悔」と「言い訳」の釣り文学/『FlyFisher』2014年11月号

『FlyFisher』2014年11月号掲載  釣りに行く時はタックルと一緒に本を持っていく。実用系の本ではなく、随筆などのいわゆる釣文学と呼ばれる本である。 では釣場で読むかと言えば十中八九読まない。 文字を追うより魚を追っていた方が楽しいからだ。しかし、夕闇が迫り、浮かべたフライが見えなくなるのを合図に納竿し、テントの中でページをめくるのだ。一日を眠りにつくまで釣りに浸れる幸福感は格別なのである。 お酒が飲めない僕にとっての睡眠導入の役割も否定はできないが。 今回、釣

本の匂い

仕事をしていて、ふと本の匂いに気付く時がある。 当たり前になりすぎて忘れていたあの本の匂いだ。 新しいバイトを採用する。 勤務初日、バックヤードで挨拶の仕方、タイムカードの押し方、返事の仕方、接客用語、と笑顔の作り方を教える。 店内に入り、売り場の説明をする。 雑誌とはなにか、月刊誌と週刊誌の違い、ムックと雑誌の違い、新書は新しい本のことではないということや、文芸と人文書の違い、フィクションとノンフィクションの違い。平積み、面陳、POP、著者別五十音や、出版社別、ジャン

目的はひとつ|私は本屋

 書店員として働き始めたとき、僕は漫画ばかり読んでいた。ほぼ全雑誌をチェックし、給料のほとんどを漫画に費やし、会社に給料を返しているといっても過言ではなかった。そしてコミックを担当していた。コミックの知識では勤務先の店、いや会社でだれにも負けないと自負していたし、陳列やPOPもこだわりぬいていた。当時の店ではコミックを担当できるのは僕しかいなかった。  そして別の店舗へと異動になった。担当は学参と専門書。コミックの担当ではなかった。担当を指名した当時の上司であった店長を恨んだ