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式場選びの前に知っておくべき、ブライダル業界のこと

去年の一大行事の一つが結婚式場選びだった。去年の8月に婚姻届けを提出したあと、早速式場選びに取り掛かった。

メーカーの調達(サプライヤを選定して価格交渉して材料・部品を買い付ける職種)の夫と、コンサルティングファームで働いていた私は、まずは業界構造の把握から入った。3か月くらいかけて7か所見学して比較し、お互い納得できる式場を選ぶことができた。

この過程がめっっっちゃ楽しかったんだけど、同時に
ブライダル業界はとても特殊で、ゼクシィに乗せられて選ぶと納得できる選択にならなくない?と思うので、知っておいたほうがいいと思う気付きをまとめておきたい。

ビジネス特性:繁閑差が大きく、リピーターがいない

1.繁閑の差が大きい
1年の中で稼働に大きな偏りがある。人気なのは、春・秋シーズン。平日に挙げる人はかなり限られる。仏滅は避けたいという人も多いだろう。

なので、式場としてはいかに閑散期の稼働を埋めるかが争点となる。「ジューンブライド」が、梅雨時の需要を獲得するために広められたというのは有名なお話。

2.リピーターがいない
結婚式は基本的には1人1回しか挙げない。2回以上やる人も同じ会場は選ばないだろう。

また、招待されたゲストが式場のサービスにとても満足したとしても、「友人と同じ会場は避けたい」という気持ちが働き、ポテンシャル顧客とはなりづらいだろう。

そのためリピーターへの訴求施策や友人紹介キャンペーンが使えず、常に新規顧客開拓となる。しかも相手は結婚式未経験なので、知識がほぼゼロの相手に対して、存在を知らせ、競合との違いを示さなければならない。

ゆえに、とにかく広告を打って人を集めて、現地にやってきた人と確実に契約することが超重要。一方で、ほかのサービス業(飲食・ホテル・レジャー施設等)に比べ、一旦契約した顧客に対してサービスで満足させようというモチベーションは沸きづらいといえる。

業界内パワーバランス:メディアが圧倒的に強い

ブライダル業界の商流は以下のようなイメージになっている。
※CRAZY WEDDINGやスマ婚などのプランニング特化の会社や、ブライダルローンの会社もあるけど割愛

ブライダル業界プレーヤー

この中で一番パワーを持っているのは、ゼクシィをはじめとしたメディア・エージェントである。前述のとおり、広告宣伝がとにかく重要であるなか、結婚式場側は規模が小さいプレイヤーがたくさんいる状況で、力が弱い。新郎新婦にリーチするには、大手メディアに頼るしかない。

エスクリ_ブライダル業界市場シェア

※エスクリのIR資料より

近年のトレンド:成約数が減り、組単価が上昇

成約数の減少
少子化、生涯未婚率の増加、さらに結婚しても結婚式はしない人の割合が増え、式場の成約数が減っている。

この状況下でますます「とにかく稼働を埋めたい」モチベーションが強化される。

一組当たり単価の上昇
初婚年齢が上がることで、必然的にゲストの年齢も上がるので、おもてなしを重視して組単価が上がる傾向にある。

正確には、一組当たり人数は減っているが、それ以上にゲスト1人あたりにかける値段(特に食事)が上がり、1組当たり価格としては上昇、という状況。

ちなみにこの辺は、テイクアンドギブニーズのIR資料やリクルートブライダル総研のデータがとても興味深いです。

結婚式場の社内KPI

式場として売上を上げるためにモニタリング対象となるKPIは、以下のように分解できる。

結婚式場KPI

推測だけど、集客数・成約数・ゲスト1人あたり単価というKPIをそれぞれ違う部署が追っているのでは。
(理屈上は1組あたりのゲスト数を増やすことでも売上は増えるが、式場側がいじりようがないので割愛)

トレンド的に「稼働率を上げろ」プレッシャーが強まっている中で、

マーケ:ゼクシィにいくら払ってもいいから集客したい
営業:来場した人は、ディスカウントしてもいいから絶対に成約させたい

というモチベーションになるのは間違いない。

そしてプランナーは最終的な組単価を上げること、特に、営業が成約した初期価格からの上げ幅が期待されているのでは、と思う。

よく噂で聞く「当日成約で50万値引きしてもらったけど、結局当初の見積もりよりも100万円値上がりした」という話は、このKPI設定のいびつさから来ているのではないかと推察。

リーズナブルな式場の条件

上記を把握した上で、なるべくリーズナブルに結婚式をするには、どういう式場を選べばいいのか? わたしたちが考慮した点をまとめていきたい。

1.稼働率が高い
同じ質のものをリーズナブルに実現するには、1組あたりに荷される人件費・設備費・広告宣伝費などの固定費をいかに減らすか。
一つの手段は固定費償却の分母を増やすことである。

この点では、基本的に土日しか稼働しない専門式場・ゲストハウスよりも、同じ設備・スタッフを平日も稼働させられるホテル・レストランのほうがよい。
専門式場が全部悪いわけではなく、企業向けのパーティーなどで平日稼働できているところもある。

見積もりを比較した結果としては、稼働率の低い会場では、会場費が高いのはもちろん、それ以外の料理・装花・ヘアメイクなどのサービス料も割高であり、費用全体に薄めて影響していると思ったほうがいい。

2.広告を載せまくってない
1組あたりに荷される人件費・設備費・広告宣伝費などの固定費を減らすもう一つの手段は、固定費そのものを減らすこと。当たり前だが、シンプルに、大々的に広告売っていないところのほうがコスパがよい。

というのも、広告宣伝費の金額規模が本当に大きいから。ゼクシィの首都圏版掲載料は約100-300万円。これが毎月かかるので、ざっくり計算すると、
1組当たりの費用のうち数万円分はゼクシィ広告費だと思ったほうがいい。

3.リピーターを獲得したがっている
結婚式にはリピーターが基本いないが、結婚式以外のサービスでリピーターを獲得できる形態のほうが、契約後のサービス品質の高さは期待できる。ホテルやレストランがその筆頭である。
式を終えた後も接点を持ち続ける形のほうが、契約後の無理な値上げとかもしないだろうなと思う。

4.営業とプランナーを同じ人が兼ねている
「営業が値下げして受注して、プランナーが値上げする」といういびつな状況を防ぐ手段の一つである。
ただし、プランナーに求められる力量が高まりすぎるので、この形を取っている会場はレアだと思う。

リーズナブルな式場選びに必要な戦略

最後に、納得できる式場選びのために、見学にあたって準備しておいたほうがいいと思うこと。

1.査定力を養う
みんなのウエディング等に、見学時と最終の見積データがアップされているので、式場見学前に読み込んで、どの費目が上がりそうなのかを把握する。

料理に関して、試食した料理がとても豪華で美味しかったけど、見積もりには最安グレードの違うメニューで入っていた、という場合もある。
装花のグレードについても、展示や写真と同じレベルのものが、見積もり上の金額でできるのかはチェックしたほうがいい。

2.日程に柔軟性を持たせておく
何としても当日に成約させたい営業は、「早く決めないと希望のお日にちが埋まっちゃいますよ」が常套句である。
焦って決めないためには、できれば時期や日取りにこだわりがないほうがよい。

3.結婚式の意義・目的をすりあわせる
ここまで散々お金の話をしておきながらなんだけど、なるべくお得なところを選べばいいという類の買い物ではない。
そもそも、お互いにとって納得感のある選択とは何なのか?がすり合ってないと、合意形成ができない。そもそも結婚式を何のためにやるのかをよく考えると、自ずとどこでやりたいか、どこにコストの比重を置くかが決まってくる。

◇◇◇

「結婚式場を7か所見学した」という話をすると、「旦那さん、よく付いてきてくれたね!」とリアクションされる。どうやら世の中的には、結婚式は女性の憧れの実現に男性が付き合わされるイベントらしい。

でも式場見学は全部楽しかった。1か所ごとに3時間くらいかかるけど、普段なじみのない業界の話を聞けるし、行くたびに目的のすり合わせが深まるし、タダで美味しいものも食べられて、良いデートだった。

あまり乗り気じゃなくても、業界理解から入ると結構興味深いと思うので、参考にしてもらえると嬉しい。

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