見出し画像

苗字を変えてみて思うこと

父と母が結婚したのはもう30年以上前。

当日、父は博士課程の学生、母は放射線技師として病院に勤務していた。
職場である程度キャリアを積み始めていた母は、苗字を変えたくなかった。父は、母の意を汲み賛同した。

しかし、父の両親はそれを許さなかった。渋々、父方の姓を選ぶことになった。

当時は、職場で通称として旧姓を使うことは認められなかった。母は使っていた名札も名刺もすべて新しい名前に変えることになった。
取引先の人から「〇〇さん(母の旧姓)ってお辞めになったんですか?」と言われたとき、旧姓で積み上げてきた自分のキャリアが無になったように感じたという。

◇◇◇

それから時代は変わり、旧姓の通称使用も一般的になり、夫ではなく妻の苗字を選ぶ人も増えた。
それでも、いまだに夫婦どちらかは苗字を変えなければならない。

わたしは昨年入籍し、夫の姓になった。
わたしと夫の姓どちらをとるかという点については、夫の姓のほうがレア度が高かったし、夫が姓を変えた場合の周囲への説明コストを鑑みても割りに合わないと思い、あまり迷わなかった。

ただし、夫婦どちらにせよ、苗字を変えることは、心の底から面倒で、デメリットが多すぎる。実際に体験した違和感、不満を書いておきたい。

1. 苗字を変える手続きの煩雑さ

筆頭は圧倒的にこれ。

まずは新姓での戸籍を持って警察署に行き、免許証を手続き、それから職場に届け出て健康保険証の手続き。
わたしの職場の場合、「次の給与振り込みまでに銀行口座の名義も変えないと、振り込みがエラーになる」と言われて、急いで給与口座の銀行へ。
銀行口座の名義を変えると、引き落としを紐づけているクレジットカードの名義変更も必要になる。大概、平日日中に電話をかけて、手続きに必要な用紙を送ってもらい、本人確認書類のコピーを同封して返送するというステップ。

思い出して書いているだけで疲れてきた。このほかに、パスポート、マイナンバーカード、保険、確定拠出年金、携帯電話、マイレージカードなど。私はクレジットカード好きで、7枚ほど持っていたので、ますます面倒だった。Trelloでリストを作って進捗管理した。いまだに優先度の低いものは未着手になっていて気が重い。世の中の結婚した人たちは全員この作業を乗り越えたなんて信じがたい。

手続きのために有給を2日使うはめになったので、選択的夫婦別姓にしてくれないなら「苗字変更手続き休暇」を作ってほしい。

我が家の場合、外出を伴う手続きは夫がすべて付いてきてくれた。これを苗字を変える側の妻または夫だけで行うと不公平感が強まり、不仲リスクになると思われる。

完全に余談だが、何から手を付けていいかわからずテンパっていたとき、ゼクシィの付録の「結婚の手続き届け出 やることひと目でわかるシート」がとても役に立った。
入籍に際してテンションが上がってamazonで買ってみたものの、予想の3倍ほどの厚みと重みに引いてしまい、ほとんど開かないまま床に置かれ、たまに足の小指に当たり涙目にさせてくる障害物と化していたが、この手の情報はプロに任せるに限る。

2. 苗字が二つになることのややこしさ

職場では通称として旧姓を継続使用している。突然クライアントに「苗字が変わりました」とか報告するのもめんどくさいし、そもそも新姓で呼ばれてもピンとこないと思う。転職後もそのまま使うつもりである。

一方で、源泉徴収票や会社経由で申し込んだ健康診断の案内は、新姓で届く。「この書類のサインは旧姓と新姓、どちらで書けばいいんだ…?」ということが起こる。

また、プライベートで「店の予約、どっちの苗字で取ったっけ?」事件が頻発する。
食べログや一休のアカウントは旧姓のままになっていたりする。電話で予約を取るときにも、「夫婦で行くから新姓にしておこう」と思ったり、「新姓で名前呼ばれてもピンとこなくて気付けないから、旧姓にしておこう」と思ったり。結局店についてから両方名乗ってみることになる。

小さなことだけど、1と違って、このデメリットは一生続く。

3. 今まで使っていた苗字が非公式になる寂しさ

多くの子供の名前は、苗字とのバランスを考え、姓名判断の本を熟読して、親や周りの大人が心を込めてつけたものだと思う。わたしの名前も、両親曰く、「画数的には天下を取れる」とのことだった。
それが結婚によって苗字と名前のバランスが崩れてしまい、ちょっと残念。

職場での苗字を変えないことにしたのも、元の名前を気に入っている、というのも理由の一つだ。旧姓をもじったあだ名で呼んでくれる人もいる。
苗字が変わるまで、考えたこともなかったけど。

1と2に比べるとやや感情的な話だが、これまで名乗ってきた名前が公式なものではなくなることへさみしさを感じた。

◇◇◇

女性ばかりが不利だとか、旧姓も使いたい、とかそういうことじゃない。要は、人生の途中で苗字を変えるのデメリット多すぎでは?という話だ。

政府は住民票やマイナンバーカード、免許証への旧姓併記を進めているが、上記の問題の解決にはならない。

夫婦同姓にすることに対して「家族の一体感」などのメリットを掲げる人もいる。確かに、夫婦を企業だと考えるなら、同じ屋号を掲げる意味はあるのかもしれない。
メリデメ両方考慮した上でメリットが大きいと思う夫婦だけ、同姓にすればいいと思う、というのが「苗字が変わる」を体験した上での意見。


※欧米人と議論してみた編


※選択的夫婦別姓に関心がある方、ぜひこちらのnoteも!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?