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「きょうだい」として生きる

「きょうだい」とは、なんらかのハンディをもつ人(障害児・者/難病児・難病患者等)の兄弟姉妹の総称として使われる言葉で、1963年に設立された「全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会」の略称を「きょうだいの会」としたことから、ハンディをもつ人の周囲での使用が進んでいる。
私も、この「きょうだい」の1人である。

私には4歳上の姉がいる。姉は3歳で知的障害および自閉症と診断された。原因は不明。
小学校2年生から高校3年生まで養護学校に通い、現在は市内の福祉作業所に勤めており、パンやスコーンを作ったり、カフェで接客をしているそうだ。
言葉は「あー」「おー」「ママ」「パパ」など数語しか出ない。学習能力に関しては、自分の名前をひらがなで書くことや線をなぞったり簡単な図形を模写したりすることができる程度である。
しかし、「部屋の電気消してジャンパーを着て、玄関に降りておいで」や「ドレッシングと醤油とって」など日常生活におけるある程度複雑な会話を理解することができる。家族の使う寝具や食器を持ち主の場所に並べたり、食事が終わったら食器をシンクにさげたりといった気遣いを母の指示がなくても行う。
いくつか独特のこだわりを持つが、それらは随時変化する。イレギュラーな予定や初めての体験にも事前に説明しておけばパニックを起こすことは少ないので、自閉傾向は強くないと言えるかもしれない。
身体的な障害はなく、むしろ手先は器用で、小学校から中学校くらいまでは刺繍に熱心に取り組んでいた。
高校2年生のときに初めてのてんかん発作を起こし、現在はてんかんを押さえる薬を服用中。
同じ養護学校や作業所に通う人には叫んだり走り回ったりする人も多いが、姉はおとなしく、一見すれば障害者には見えない。物を壊したり大声を出したりするようなことはなく、家族で遠くに旅行に行くこともできる。

このように姉のことを説明してみたが、実際、何を説明したら姉のことをわかってもらえるのだろうといつも思う。
一般の人が思っているような「障害者」のイメージと合うところ、そぐわないところなどを意識して説明しようとしてみるが、うまく伝わらず、実際に姉に会ったことがないと、いや、実際に一緒に暮らしてみないとわからないだろうな、と思う。そもそも一般の人が思う「障害者」って何なのだろうとも思う。
友人と話していて兄弟姉妹の話題になると、話題を変えようとしてしまう。同情されたり、気まずい空気にしてしまったことが何度もあるからだ。しかし、普通の兄弟ってどういうものなのだろうと気になるので、他の人の話は聞いてみたい気持ちもある。
姉妹で旅行をしたなどと聴くと、うらやましく思ったりする。しかし、このように「普通の兄弟」をうらやむ気持ちがあるからといって、現状に不満があるとか大きな問題を抱えているわけでもないし、そう思われるのは嫌だと思う。姉の話をするのは気が進まない反面、隠し事をしているような後ろめたさもあるし、親しい人には話してみたいという気持ちがある。

◇◇◇

上記の文章は、私が大学時代に書いた卒業論文の「はじめに」から抜粋したものである。

研究内容は、3名のきょうだいにインタビューを行い、彼らの経験・語りを通じて、障害者の「きょうだい」であることがどのような影響を与えるのか、きょうだいたちにとって同胞(障害児・者の兄弟姉妹)の「障害」はどのようなものなのかを分析・考察したものである。

インタビューの中では、
・幼少期に親戚などの周りの大人に「えらいね」「がんばってね」など言葉をかけられたこと
・小学校での作文の課題で同胞をテーマに選び、先生から評価されたこと
・同胞に対する周りの目が気になりだして徐々に友達を家に呼びづらくなったこと
・中学のクラスで「シンショー」という悪口が流行ったときに居心地が悪かったこと
・彼氏や彼女ができたとき、同胞について伝えるのが怖かったこと
などが、「きょうだい」としての経験として語られる。

一方で特徴的なのは、エピソードに登場するのは親戚や周りの友人ばかりで、同胞がほとんど登場しないことである。
絵本に落書きされたことも、一緒に留守番したことも、ある家の兄弟姉妹のエピソードにすぎない。そこに「障害児の問題行動にきょうだいが苦労する」「一人で留守番ができない同胞にきょうだいが付き合わされる」といったように「障害者ー健常者」のフレームをあてはめるのはいつも第三者だ。私たちはいつもそれを恐れ、拒みながらも、フレームの再生産に加担してしまう。

◇◇◇

姉の存在が私の人生に与える影響は大きい。
研究という形で自分の経験を整理したことで、フラットに「障害」のことを考えられるようになった。
そしてこの卒業論文執筆から6年ほど経ったいま、仕事としても、この「障害」という概念に向き合ってみようと思っている。

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