光の戦士たち(13)妻と娘はなぜ彼の元を去って行ったのか そして祭からの突然の電話【小説】
【登場人物】
祭あつし: 市役所勤務
館山敏宏: 市議会議員
館山は自宅のリビングで一人、重い身体をソファに沈めていた。
テレビにはYouTubeが映し出され、無機質な声がMMT(現代貨幣理論)について語っている。
彼の目はぼんやりと画面を追っているが、頭の中では別のことが渦巻いていた。
ビールを一口飲み、苦々しくため息をつく。
「どうしてこうなったんだ…。」
家の静寂が重くのしかかる。妻と娘が家を出てから、もう2年が経とうとしていた。
コロナ禍でのストレスから、感情を抑えきれなかった。あの日、自分が発した言葉が彼の家庭を壊したのだ。
「誰が専業主婦の面倒を見てると思ってるんだ!不満があるならお前が議員をやってみろ!」
その瞬間、妻の表情は凍りつき、娘は冷たい目で父親を見据えた。
そして翌日、二人は黙って家を出て行った。
あの時の言葉が、いまだに館山の心に鋭く刺さっている。
「言い過ぎた…。本当にバカだった。」
町はコロナの影響で活気を失い、昔のように飲みに行くこともなくなった。
夜になると、YouTubeが唯一の気晴らしとなり、日常の静寂が彼を包み込む。
館山は、かつて感じていた賑やかな日常を思い出そうとしたが、今の彼にはそれがあまりに遠く感じられた。
「どうしてこんなに静かなんだ…。」
彼はビールを飲み干し、画面を見つめ続ける。妻と娘がいない日常に、もう慣れたはずだと自分に言い聞かせるが、その空虚感は消えない。
「結局、俺が変わらなきゃいけないのかもな…。」
その時、スマートフォンが震え、彼の思考を遮った。画面を見ると、祭からの着信だった。
「祭か…。」
少し驚きながらも、彼は電話を取る。耳に飛び込んできたのは、祭の明るい声だった。
「館山さん!今夜、知り合いが新しく飲み屋をオープンしたんですよ。一緒に行きませんか?」
突然の誘いに戸惑いながらも、館山は努めて冷静に返した。
「仕方ないな。付き合ってやるよ。」
誰かと話すことがこんなにも心を軽くするとは思わなかった。
「まあ、たまには外に出るのも悪くないか。」
鏡の前でシャツの襟を整え、準備を始めた。
館山は、自分の中に芽生えた小さな希望を大切に抱えながら、夜の街へと向かっていった。
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