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#013 本屋、本読む『おもたせしました。』前編

Radiotalk『架空の本屋ラジオ』
#013  本屋、本読む 『おもたせしました。』前編 ←ここから聞けるよ!

『架空の本屋ラジオ』第13回、お届けいたします。
いらっしゃいませ、ごきげんよう、えまこです。
ちょっと間があきました。

今日はマンガのご紹介をしたいと思います。

ちょっと前に、ツイッターでこんな収録したいなーってことを呟いてるんですけど、改めて申し上げます、若干めしてろ気味です。
おなかの都合とご相談のうえで聞いてくださいますようお願いいたします。

少し前なんですけど、ツイッターで「宇宙船サジタリウス」っていう言葉がトレンド入りしていました。
これ別に知っている言葉とかではないんですけど、見覚えだけあったんですね。
で、なんでトレンドに入ってるのかっていうのを、呟いている人たちのツイートを見に行ったんですけど。
いろんな人が話してるんですが、その中に「ラザニア」って単語が混ざってたんですね。
料理のラザニアです。
ミートソースとかホワイトソースとかと、平べったい板状のパスタがミルフィーユっぽい感じに重なって、見た目はグラタンみたいな感じのお料理。
あれですね。

この「宇宙船サジタリウス」と「ラザニア」っていう二つが出揃ったとき、見覚えがあるっていうことには確信が持てました。
でもどこで見たかはまだこの時点ではわかんないんですよね。
なんだっけってしばらくモヤモヤと考え続けて、あっと思い当たった、また出てきたのが『アルトゥリ・モンディ』っていう単語でした。
これはイタリア語だそうです。
発音がこれで合ってるかはわかりません。
で、この三つが出揃ってやっと「あ、あれだ、『おもたせしました。』に出てきたやつだ!」それで合点がいきました、すっきり。

というわけで、今日ご紹介しますのは、
著者・小沢高広さんと妹尾朝子さん、お二人・ご夫妻によるマンガユニット、『うめ』さん。
お花の梅でしょうか?
新潮社のバンチコミックスから発行されています。
タイトル『おもたせしました。(マル)』、全三巻・完結済みの作品です。

この『宇宙船サジタリウス』っていうのはアニメのタイトルらしくて。
調べましたら、1986年から87年にかけて放送されてたものらしい。
自分では見たことなくて、知らなかったんですけど。
このアニメには原作があって、それがイタリアの物理学者さんのアンドレア・ロモリさんが描いたSFのマンガ『アルトゥリ・モンディ』です。
これが、結構アニメになるときに脚色されてて、ストーリーとかは日本独自のものにかなりなってるようなんですけど、登場人物の一人が「ラザニアが大好き」っていう設定があるそうで、これはこのまんまアニメになったみたいです。
なので、このアニメを見て「ラザニア」を連想するっていう人がいっぱいいるらしい、っていう。

トレンドに入ったのは、著者のアンドレア・ロモリさんが、イタリアにお住まいなんですけど。
日本のファンに向けて、イラスト付きの日本語のツイートを発信したということがきっかけみたいです。
新型コロナウイルス、いまイタリアが本当に大変な状況のようなんですけど、自宅で元気にしていますよっていう呟きでした。
ファンの皆さんもそれを受けてすごい盛り上がったということのようなんですけど。
でも、30年とか昔のアニメのタイトルがトレンドに入るっていうのは、本当に、すごいたくさんの人にとって思い出深い作品ってことですよね。
無事の終息を、本当に、心から願うばかりです。

では、話が戻りまして。
要するにこの『おもたせしました。』に「ラザニア」と『宇宙船サジタリウス』『アルトゥリ・モンディ』が出てくる、っていうことなんですけど。
『おもたせしました。』の主人公は女性で、たぶん20代後半ぐらいだとと思うんですけど。
名前が轟寅子(とどろきとらこ)さん。
彼女のお仕事が、作中で「こういう仕事です」っていう職業名とかが描かれてないのでちょっと説明しにくいんですけど、「本に関わる、なんかいろんなことをする仕事」、と思います。
で、その仕事のボスが彼女の叔母さんの「さくらちゃん」。

たぶんなんですけど、お客さんたち・依頼人たちからさくらちゃんに本に関する相談がいくんだと思うんですよね。
「こんな本を探してるんだけど」とか「仕事用の資料がないかな」とか、ちょっと難しそうな問い合わせに感じますが。
たぶんさくらちゃんが「オッケー☆」って言って探します。
本当にそんなこと言うかはわかんないんですけど、そういうノリに見えるんですね、さくらちゃんが。
で、国会図書館とかに探しに行ったり、古い文献を持ってる人に借りに行ったり。
商業出版で出てないような同人誌とか個人出版の本とかも探してくれるみたいです。
で、揃った本をご依頼のお客さんにお届けすると。
そういう感じじゃないかなと思います。
その業務の流れの中で、主人公の寅子さんは本をお届けに行ったりとか、探しに行ったり、借りに行ったり返しに行ったり……というふうに、相手先を訪ねて行くお役目みたいです。

この寅子さんなんですが、いつもきれいに着物を着ていて、めがね女子で可愛いんですけど。
で、本が大好き。
文学のうんちくとか雑学を豊富に持っている、そういう方のようです。
で、食いしん坊。
この食いしん坊があとですごい発揮されてくるんですけど。
お仕事であちこちお訪ねするときに、とっても凝った手土産を持って行きます。
だいたい食べれるもの。いや、必ず食べれるもの。
そのお土産を渡すときに、食いしん坊が出るのか、おなかが鳴ります。ぐぅ~。
で、相手の方が「おもたせですが」って言って受け取った手土産をすぐ開けてくれて、一緒に食べて。
で、さくらちゃんに怒られているみたい。
そういう一話完結のオムニバスで、続いているお話です。
ここは遠慮して帰ってこなきゃだめってことですよね(笑

このお話の面白いところっていうのが、すごい素敵な手土産がいっぱい出てくるんですけど、それらが実在するものらしいんですね。
実際にあるお店の、本物のメニューとか、お料理とか、商品とかがそのまま出てきます。
たぶん東京近郊が多いんだと思うんですけど、お住まいの方は、作品中に出てきたおいしそうなものを実際に買って食べることができると。
これは地方の民にはすぐに真似できないのでうらやましいですね。
いいなぁ~。

そして、一緒にその手土産を味わいながら、相手の方と寅子さんが会話を繰り広げるんですけど。
これがこの作品のもうひとつの魅力で、寅子さんの文学に関するうんちくとか雑学とかが炸裂します。
そこまでの会話の流れとか、相手の方の現状とかから、連想する作品とか作家さんのエピソードとかがいっぱいあるんでしょうね。
もう、流れるように語られます。
作品の一部が暗唱されたりとか。

この作品のテーマが『手土産×文学』ってなってます。
それが本当に、すごく心地よく展開されてるというか、知ってる人とか知識を持ってる人がひけらかしてるふうではなくて、本当に、好きな人が好きなものについて語っている、好きなものを食いながら、おいしいお酒を飲みながら。
本当に、本の好きな人・おいしいものの好きな人にはなかなかたまらない空間ですね。

このラザニアのエピソードは、単行本の一巻めの八話めに出てきます。
手土産としてラザニアを持ってくんですけど。
で、おもたせですがって食べるんですけど(笑
味わいながらお話していると、相手の方がラザニアの思い出話をしてくれる。
それが「アニメに出てくる」っていう話なんですね。
「こういう感じのアニメで」ヒントはいろいろ出てくるんですけど、タイトルが出てこない。
これがあれです、『宇宙船サジタリウス』ですね。
それらのヒントを聞いて寅子さんも、タイトルは出てこないけどなんか心当たりがあるなぁ、あれ、あの、あの、ってなって出てくるのが、原作のほうの『アルトゥリ・モンディ』。
日本で知られてるのはアニメのほうなのに、寅子さんはイタリアの原作のほうを思い出しちゃう。
噂に聞いてた通りの人だね、変わってるねって言われて。
それが誉め言葉になっちゃうみたいな、おちゃめな寅子さんですが。

こういう、私が「連想ゲーム的な考え方」って常々呼んでいるんですけど。
本屋の仕事に役立つ考え方だなって思っている、そういうこれと、寅子さんのやってることっていうのが、すごく似て感じます。
その場の会話とか、食べているものとか、相手の状況とか仕事のこととかを聞きながら、頭の中にいろいろ浮かぶわけですよね。
機械検索にはかけられないヒントから記憶と印象の深い森を抜けて辿り着く先が本、っていうのを見ているとあーなんか、、同じようなことやってるな、と思います。

文学ってときどき、読まず嫌いみたいな、敷居の高さみたいな、そういうものを私は感じてしまうほうなんですけど(笑
興味を持つための入口っていうのが、これぐらい気楽だったり身近だったりしたらいいなぁっていうふうに思います。
特に食べ物と関連づいた文豪のエピソードとかを目にすると、同じ人間だし、好き嫌いがあったり、普通に暮らしてたんだよなーっていうのが……
こういう、日常とか生活のあたりで、格調高い・手の届かない感じのしてた世界への入口がパッと開かれると、ハードルがガクーッと下がったというか。
その人がどういうことを感じて、何を書いてどういう作品を生み出したのかっていうところに、ちょっと触れてみたいような、興味がわいてきますよね。

そういう力にも満ちた作品なので、おなかがすくと同時に本が読みたいっていう気持ちもわいてきます。
そういうのが、私が好きなものがてんこ盛りだからっていうのもあるんですけど、すごい心地のいいお話です。

今回のご紹介は前後編にしたいと思います、ので……
後編に続くっ

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