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政教分離ってなんだろう?宗教者が調べてみた。

都知事選を終え、小池都知事の再選が決まりました。過去最多22人の候補者がそれぞれに公約を掲げた中、圧倒的多数を獲得しての当選でした。

今回に限ったことではありません、選挙の度に僧侶目線として考えさせられることがあります。それはずばり、

・政教分離とはなにか

ということです。

今回の選挙でも公明党が「小池氏を実質的に応援」との声を上げました。
公明党は公式で党員数が44万人(全国)と明らかにしています。都道府県ごとの数字は出ていませんが、東京都の人口が全国の11.05%にあたることから、単純計算で48,606票の組織票が入る計算になります。
もちろんこの全員が小池氏に投票するわけではないと思いますが。
ちなみに、今回第6位に終わった立花孝志氏のYoutubeのチャンネル登録者数(全世界)が46.5万人、都知事選での得票数が43,912 (0.7%)ですから、組織票だけでそれを上回ることを考えれば、非常に大きな数であると言えるでしょう。

さて、選挙云々は置いておいて、本題である政教分離について考えてみたいと思います。

憲法にはこのように書かれています。

憲法第20条
信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
3 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。


平たく言えば
「宗教団体が、国から特別優遇措置を受けること」はいけません
「宗教団体が、政治上の権力を行使すること」はいけません
「どんな人でも、宗教行事に強制的に参加されること」はいけません
「国自身が、宗教教育をすること」はいけません
「国自身が宗教活動行うこと」はいけません
と書かれています。

つまり、政治(国家)と宗教は別々であること(国家の宗教的中立性)を明らかにしています(政教分離の原則)。

国家と宗教が別であるとするなら、次にこの疑問が出てきます。

・政党=国家?
・与党=国家?

以下は公明党のサイトのQ&Aの一部を丸々転載したものです。
https://www.komei.or.jp/faq/
公明党と創価学会の関係は?政教一致じゃないの?

公明党は、1964年11月17日に、池田大作創価学会会長(当時)の発意によって結成された政党です。以来、創価学会の仏法の理念に基づき、「個人の幸福と社会の繁栄が一致する、大衆福祉の実現」「人間性の尊重を基調とした民主主義をつくり、大衆とともに前進する大衆政党の建設」を目指してきました。ただし、創価学会と公明党との関係は、あくまでも支持団体と支持を受ける政党という関係であり、「あらゆる階層のいっさいの民衆を包含しうる大衆政党」であると綱領にも明記している通り、公明党は国民全体に奉仕する国民政党です。
公明党と創価学会は現在でも不定期で「連絡協議会」を開催し、協議内容はマスコミ公開されています。
一部週刊誌等で「政教一致だ」とか「憲法20条に違反した関係にある」等の記事が掲載されることがありますが、全く的外れな批判であり、既に国会の論戦の場でも決着済みのことです。
憲法が規制対象としているのは、「国家権力」の側です。 つまり、創価学会という支持団体(宗教法人)が公明党という政党を支援することは、なんら憲法違反になりません。 国家権力が、ある特定の宗教を擁護したり、国民に強制するようなことを禁じているのが「政教分離」原則です。信教の自由、言論の自由、結社の自由--などが定められ、「政教分離の原則」が条文に記載されたのです。

つまり、公明党は創価学会という宗教団体の理念に基づき、また支持を受けている、即ち創価学会とは別個の団体である。従って公明党が政治活動を行うことは憲法違反には当たらず、既に国会の場においてもそれは認められた事実である、との見解が示されています。

創価学会の例だけ見ても仕方がないので、他の事例も紹介しながら考えていきたいと思います。

津地鎮祭訴訟


津市体育館建設起工式が1965年1月14日に同市船頭町の建設現場において行われた際に、市の職員が式典の進行係となり、大市神社の宮司ら4名の神職主宰のもとに神式に則って地鎮祭を行った[1]。市長は大市神社に対して公金から挙式費用金7,663円(神職に対する報償費金4000円、供物料金3663円)の支出を行った。
これに対し、津市議会議員が地方自治法第242条の2(住民訴訟)に基づき、損害補填を求めて出訴した。

公共施設の地鎮祭への公金の支出が憲法第20条に触れるのではないかという点が争われた事件です。
一審では原告の請求棄却、二審では原告勝訴を経て最高裁まで争われ、最高裁では


本件起工式は、宗教とかかわり合いをもつものであることを否定しえないが、その目的は建築着工に際し土地の平安堅固、工事の無事安全を願い、社会の一般的慣習に従つた儀礼を行うという専ら世俗的なものと認められ、その効果は神道を援助、助長、促進し又は他の宗教に圧迫、干渉を加えるものとは認められないのであるから、憲法二〇条三項により禁止される宗教的活動にはあたらないと解するのが、相当である。

との判決が出され、二審判決の市長敗訴部分を破棄し、原告の請求は棄却されました。

つまり、地鎮祭が特定の宗教に基づくものであるとの一応の理解を示しながらも、それがごく一般的な社会習俗に深く根ざしたものである場合には、宗教行為の枠組みを超えて受け入れられることは憲法違反に当たらない、との見解が示されたものです。
平たく言えば、宗教っぽく見えるけれども宗教にとどまらない活動なので行政が支出をしてもよい、という判決です。

一方、「これは宗教行為ではない」との指摘に対し、「これは宗教行為であるから(国家の制度である)税制上の優遇を受けてよい」との判決が出されたケースもあります。

回向院事件

東京都墨田区にある回向院では江戸時代には動物供養が行われていたが、現在お寺の施設内に設置された動物の遺骨を安置するためのお墓について、東京都墨田都税事務所が、地方税法348条2項3号および同法702条の2第2項により非課税の対象とされる「宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第3条に規定する境内建物及び境内地」には該当しないとして、固定資産税および都市計画税の賦課処分を行った事件。

これに対して一審では


東京地裁は、(1)動物の遺骨の保管や供養を行うことと、人の墓地の設置や法要を行うことでは、社会通念上、その宗教性についての評価には違いがあること、(2)Xによる動物の遺骨の保管行為が民間業者の行う動物霊園業と類似していることを挙げ、Xによる動物の遺骨の保管行為を固有の宗教目的活動と評価することは困難であるとし、したがって、当該ロッカー部分を、地方税法348条2項3号および同法702条の2第2項に規定する非課税対象には該当しないものと判示した(東京地裁平成18年3月24日判決)。

回向院はこれを不服として提訴し、上告。裁判所は一審判決を取り消し、回向院の請求を認容しました。なお、都税事務所はこの控訴審判決を不服として上告しましたが、最高裁はそれを受理せず棄却したため、本控訴審判決が確定しています。

以下はその内容


回向院は、江戸時代の開創以来動物の供養を行ってきたこと、回向院において動物の供養を行うことが世間一般に広く受け入れられ庶民の信仰の対象となってきたこと、回向堂および供養塔において動物の遺骨の安置をするとともに毎日勤行で動物の供養を行い、月1回あるいは年3回の動物供養の法要を行っていることから見れば、回向堂および供養塔は、本件ロッカー部分のみならず、その敷地部分も含めて全体が回向院が専ら宗教目的に使用する施設であって、その宗教活動のために欠くことができないものであるということができ、地方税法348条2項3号の「宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第3条に規定する境内建物及び境内地」に該当するものと認められる。
都税事務所は、人に対する供養と動物に対する供養とは社会的評価が大きく異なるとして、回向堂および供養塔は「専らその本来の用に供する」ものといえないと主張するが、回向院においては、江戸時代の開創以来動物の供養が長い年月にわたって行われてきたものであり、宗教活動が継続され、社会的にも定着して現在に至り、その間、地域住民からも動物供養の寺として厚い信仰の対象とされてきたこと、また、動物を供養するための宗教施設として回向堂および供養塔が建立されてきたことが明らかであり、回向堂および供養塔は、客観的に見て、その宗教性について社会的な認知が得られているということができる。また、回向院の使用実態については、寺の案内のしおりの記述や、これらの客観的状況から、特別に強制的な子細な調査をしなくても、客観的に判断することができるものである。

この事件をまとめた忠岡税務会計事務所のサイトによれば、


課税庁や、それを支持した第一審判決は、宗教法人が行う宗教行為について、そこに宗教性があるかどうかということまで課税庁が判断するものと考えた。しかし、宗教性の判断は税法がすべきことではないであろう。地方税法348条2項3号は「宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第3条に規定する境内建物及び境内地」を固定資産税の課税対象としないことを規定しているだけであるから、非課税の対象となるための基準はあくまで
(1)宗教法人であること、
(2)本来の用に供していること、
(3)宗教法人法3条に規定する境内建物または境内地であること
の3点である。課税庁がすべき判断は、本判決が採ったように、この3点について、該当性を事実に即してチェックすることによって、非課税の適否を判断するだけである。

上記2つの事件からは、宗教行為というものが以下に曖昧なものかを見て取ることができます。
・宗教行為であっても、それが社会通俗的に行われるものであれば国が予算を出すことが認められます。
・宗教法人は本来の用、つまり宗教行為を行うことに限って税制などで優遇されます。

では一体宗教とは何なのか、という根本的なところについても考えてみる必要があるでしょう。
Wikipediaにはこのように記されています。


宗教(しゅうきょう、英: religion)とは、一般に、人間の力や自然の力を超えた存在を中心とする観念であり、また、その観念体系にもとづく教義、儀礼、施設、組織などをそなえた社会集団のことである

私はこの記載に疑問を持っています。「人間の力や自然の力を超えた存在を中心とする観念」という部分です。ここは「自然など、人間の力を超えた存在を中心とする観念」と書き換えられて然るべきはないかと思うのです。なぜならば、仏教やキリスト教などのように特定の人物の出現、その思想から発生したものだけが宗教なのではなく、世界中にみられる山岳信仰やアニミズムなどのように、人間は自然や自然現象そのものにも宗教性を見出すからです。

さて、冒頭の憲法第20条と照らし合わせたときにこのWikiの後半、「教義、儀礼、施設、組織などをそなえた社会集団」に対しては政教分離を行うことができますが、前半部分の「(自然など、)人間の力(や自然の力)を超えた存在を中心とする観念」を宗教として見ると、20条をどう捉えるのかが難しくなります。

「(自然など、)人間の力(や自然の力)を超えた存在を中心とする観念が、国から特別優遇措置を受けること」はいけません
「(自然など、)人間の力(や自然の力)を超えた存在を中心とする観念が、政治上の権力を行使すること」はいけません

いかにも抽象的で理解困難です。
であれば、考えていかなければいけないことの本質は、宗教=宗教団体ではない、ということではないでしょうか。
宗教とはあくまでも個人個人が自分の心の中に住まわせている信仰であり、生活心情です。宗教団体そのものが政党となり政治を行うことは憲法で禁止されていますが、宗教をもった一個人が政治活動を行うことは禁止のしようがなく、一方で憲法は個人の信教の自由を認め、同時に参政権を認めています。つまり、「宗教」と政治を完全に分離することは不可能だと言えます。
しかしながら、宗教団体は同じ一つの理念の元に集った集団であるという性質上、「票」に直結しやすいと言わざるを得ません。組織票という言葉はまさにこれを証明するものでしょう。その仕組みがある以上、「宗教団体」と政治を明確に分離することもまた困難です。困難ではありますが、憲法という明らかな正義がそれを求めている以上、いかなる理論武装が可能であったとしても、政治と一定の距離を置くことは宗教団体自身が自覚するべき課題であり、知性を期待されるところであると考えます。

最後に、政教分離が行われる背景を端的に表していると解釈できる手塚治虫の「火の鳥 太陽編」から、火の鳥の言葉を引用します。
※ここで言われている宗教とは宗教団体のこと

「人間というのは何百年何千年たっても どこかでいつも宗教のむごいあらそいをおこすんです」
「宗教とか人の信仰ってみんな人間がつくったもの そしてどれも正しいのですから正しいものどうしのあらそいはとめようがないでしょ」
「悪いのは宗教が権力とむすばれてた時だけです」
「権力に使われた宗教は残念なものですわ」


以下参考文献

https://www.komei.or.jp/komeinews/p105824/

https://www.komei.or.jp/faq/

https://gyosyo.info/%E6%94%BF%E6%95%99%E5%88%86%E9%9B%A2%EF%BC%88%E6%86%B2%E6%B3%9520%E6%9D%A11%E9%A0%85%E3%80%813%E9%A0%85%EF%BC%89/

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B4%A5%E5%9C%B0%E9%8E%AE%E7%A5%AD%E8%A8%B4%E8%A8%9F#:~:text=%E6%B4%A5%E5%9C%B0%E9%8E%AE%E7%A5%AD%E8%A8%B4%E8%A8%9F%EF%BC%88%E3%81%A4%E3%81%98%E3%81%A1%E3%82%93,%E4%BA%89%E3%82%8F%E3%82%8C%E3%81%9F%E8%A1%8C%E6%94%BF%E8%A8%B4%E8%A8%9F%E3%80%82

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%97%E6%95%99

https://www.tadaoka.com/free3

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