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あなたはいくつ印刷するべきか?

どうも角刈書店の理性ことふわふわです。

ボードゲームを個人で作り始めてまる三年が経ちゲームマーケット出展も2018年秋から数えて、だいたい7回ぐらいになりました。シリーズものを含めると合計8作品を印刷してきました。過去8回にわたって「一体いくつ印刷すればええんじゃ…!助けてくれ〜〜〜!!」と叫んできたのですがノウハウも溜まってきたので叫び方を共有できればなと思っています。

ちなみに角刈書店は一度だけ初めて出展する方の生産数の相談にのってほしいと言われてお話ししたことがあるのですが、角刈書店を知る製作者の友人からは「生産数を相談する相手間違えてるでしょw」と言われてました。実際自分も「角刈書店は生産数を相談するのには適してないと思います。」とお伝えしてからお話しさせていただきました。何故かというと基本的に印刷数多めなんですよね。

今まで作ったゲームで輸送トラブル以外の問題で在庫切れを経験したのは3作品だけです。それ以外は在庫が切れたことがない状態です。売り切れることがある程度正しく生産数を読めているとするならば、角刈書店は失敗続きです

角刈書店が作った作品で初めて在庫切れを経験したのは2020年秋リリースの不謹慎王で、それが5作品目なんですよね。2018年秋に初めて作った花と吹雪の初版はまだ倉庫にたくさんあります。作り始めて2年経ったところでようやく作りすぎない事に気を配れるようになったのですが、その結果正しい印刷数を読み間違えて欲しい人がいるのに届けられないという状態を数週間引き起こしてしまいました。角刈書店の生産の歴史を紐解くと作り過ぎorビビり過ぎの二つにカテゴライズされてしまうんですね。そんな日々反省をしている角刈書店なのですが、反省から役に立つこともあるかもな〜という気持ちで筆を取らせていただきました。

この記事ではあなたの状況を鑑みて何個印刷すべきですね!という提案をしたりはしません。タイトル見ると、印刷数を教えてくれそうですよね。タイトル詐欺ですいません!実際に何個刷るべきかはケースバイケースです。ただ、ワンチャン判断に役立つかもしれないな〜ぐらいの情報をまとめられたら嬉しいなという気持ちです。

究極の答えは42

銀河ヒッチハイクガイドに登場するフレーズで「生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答え」という言い回しがありDeep Thoughtというスーパーコンピューターが750万年かけて導き出した答えが42です。

究極の疑問の答えは42なのですが、印刷数とは全く関係ないですよね。ボードゲームの印刷数は予算、需要、ポテンシャル、景気、湿度、風水など諸々を考慮して決められるものであり、正しい答えが存在しない難しい疑問ですね。

何故印刷数を決めるのは難しいのか?

* 過去に印刷してる方にとってこのセクションは読み飛ばしても大丈夫な情報しかないので読み飛ばすか薄目で読んでください!

いくつか難しさの要因になっていることがあると思います。

  1. 印刷費用が高い

  2. ゲームの販売価格が高すぎると売れなさそう

  3. 置く場所が必要

  4. 需要がどれほどあるのか読むのが難しい

シンプルに考えるとこのぐらいでしょうか。これは一個一個考えると何となく解決できそうな気がしますね。

1.印刷費用が高い

これは内容物にもよりますが、「え?こんなに高いの???ゲムマ全出展者赤字で出してたん????」みたいな気持ちになることもあるんじゃないかと思います。ただ費用が高いことだけが問題ならば予算の許す範囲で印刷するだけで、この問題は解決できちゃいますね。つまり印刷数の答えは予算の許す範囲ってこと…?ではないですね。他の要因を考慮しないといけないんですよね。

2.ゲームの販売価格が高すぎると売れなさそう

「売れなさそう」と少々歯切れが悪いのですが、実際高いと売れないかどうかは難しいですよね。ゲームマーケットではそこまで値段を心配しなくても良いんじゃないか説もあるし、ターゲットによっては値段がシビアなこともあるかもしれません。

ゲームの価格は多くの人を悩ませているんじゃないかと思います。予算の許す範囲で少数で印刷した時に内容物が多いゲームだと一個当たりの印刷費用≒売値になってしまうケースもあると思います。原価は三割を目指すと良いなんて言われていますが、原価を三割として売値を決めるとめちゃめちゃ高いゲームが出来上がってしまうこともありますよね。でも一般的な委託販売は販売価格の七割での委託なので、販売価格の七割が原価を超えてしまっている場合はゲームを委託し、委託先で売れても赤字という辛い状況になってしまいます。問屋さんなど買取をして販売してくださるところはさらにもう少し低い割合での買取なのでやはり原価が高いものは厳しさがありますね。

赤字は絶対に出してはいけないというわけではないのですが、常に赤字を出し続ける構造にしてしまうと長く続けていくことが難しくなってしまうかもしれませんね。

でも安心してください。これにもゲームの価格を下げる解決方法はあります!先に販売価格を決めてしまえば一個当たりの原価の予算が決まります。原価を抑えるために仕様を許す範囲で変更したり、大量に印刷することで目指した原価に到達することができるわけですね。ありがたい!!
この解決方法にはほんの少しだけ問題があるのですが、一個当たりの費用が下がっても印刷数を増やすと全体のコストは上がって1.の印刷費用が高い問題が再燃するのと、印刷数を増やすと3.置き場所の問題が出てきますね。

3.置く場所が必要

家に置けば良いのですが、実は意外に知られていないんですけど家のスペースって有限なんですよね。費用を抑えるために印刷数を増やしたりしても、しなくても家のスペースはどんどん減っていきます。不思議〜。
これももちろん解決できます!倉庫という魔法の言葉がありそれを唱えるとたちまち家から在庫が消えて置き場所に困らなくなります。ただし呪文詠唱の代償として固定費を払うことになります。一ヶ月なら許容できるかもしれないのですが、それが未来永劫続くと想像するととても辛い。

お気づきでしょうか….?1〜3の問題はお金を無尽蔵に使えれば解決できてしまうんですね。印刷数の悩みは石油王がいれば全て解決するのかもしれませんね。究極の答えは42ではなくて石油王なのかもしれない。

4.需要がどれほどあるのか読むのが難しい

ここでついに石油王でも解決できない問題が出てしまいましたね。
作ったゲームを買ってくれる人や遊んでくれる人が何人いるのか分からない状態で生産数を決めるのは本当に恐ろしいですね。どれほど調査したところで何人いるかみたいなデータを出すことは非常に難しいのですが、予算を確保し、場所を確保し、原価率を計算したところで生産数が需要を大幅に上回ってしまうと減らない在庫がたくさん出来てしまってとても辛いですね。あれ目から汗が出てきたな。これに関しては1~3で出していたなんちゃって解決策も思いつかないですね。

つまり複合的な問題で印刷数を決めるのは難しいってわけよ

1~4の問題が複雑に絡み合って印刷数を決めるのは非常に難しいですね。悩み過ぎてついつい六面ダイスを振って、出目かける50~100するのが良いんじゃないかと思い始めてしまいます。
ダイス以外にも印刷数を決める方法はあるので、心を入れ替えてもうちょっと役に立つ話をしますね。

どう印刷数を決めるか?

これは無限の可能性があるかと思うのですが、ゲームができあがったあと、印刷数を決める際にどんなことを考慮するかということをまとめます。

値段をざっくり決める

完成したゲームを見る前に値段を決めることは難しいのですが、角刈書店は「このゲームだったらいくら払いたいか」と「ターゲット層はどれぐらい払ってくれるか」を考えますね。角刈書店が作るものは基本的に自分がターゲットに入ってくるのですが、自分で払いたくない価格帯のものはターゲットは買わないと思っています。

これを何のためにするのかというと、発売価格が決まると生産原価の予算が決まるからです。実際原価が予算に収まるかどうかはゲーム次第で難しい場合も多いのですが、指標になりますね。

販売経路をざっくり決める

どこで販売したいかを決めると期待して良い上限が決まりますね。何回もゲームを作っている方は過去に販売したゲームの販売先から販売経路を決めているかと思うのですが、新しくゲームを作る場合でもどこで売るのかは可能な限り目星つけておいた方が指標になります。

これはラディアスリーの中村さんに教えてもらった方法で角刈書店は最初何も考えずに印刷数を決めてたのですが、予め問屋さんや委託先を確保してから印刷すると最初にどれぐらいの個数がお店にお願いできそうかがわかりますね。

角刈書店の場合はゲームマーケットでしか売ることを考えてないのに1,000個印刷するのはかなり無謀でした。もちろん無理じゃないかもしれないのですが、二日間でその量を捌くのは本当に難しいですね。2018年秋の初出展後に委託先や販売先を決めてamazonでも発売を開始したり、問屋さんとお取引をさせていただけるようになりましたが、ある程度の量を印刷するならどう販売するかをざっくり決めておかないと在庫との長い共同生活が始まってしまいますね

実際どれぐらい欲しい人がいるのかは出してみないと分からないところもあるので、それほどシビアに計算する必要はないのですが、販路を確保できた方が安心することができますね。

見積もりをめっちゃ見る

工場を探すのはとても大変なので、そこは見つかったという前提の話です。まずは見積もりを頼みますよね。工場によって最低印刷数が変わったりもするので(1)最低印刷数、(2)販売経路を加味して印刷しても良いと思ってる数、(3)これは多いけどワンチャンいけるかもしれないぐらいの数量の3パターンぐらいお願いすると良いと思います。いただいた見積もりを見てざっくり決めた値段から割り出した予算に収まるかどうかがわかりますね。収まったらもう印刷数は決まったも同然、全然収まらんという場合は値段や販路、もしくはゲームの仕様を調整して予算内に収まる方法を模索します。

工場によっては見積もり何回もとるの勘弁して欲しいというところもあるので、どのぐらいの確度で見積もりをお願いしているのかや、ここの仕様は変わるかもしれないぐらいを伝えておいた方が安全かと思います。

どのぐらいのリスクを取るかを決める

頒布物を印刷するのは基本的にリスクが伴いますね。いくら販路を確保できたとしてもどれぐらい販売が見込めるかの想像をするのはとても難しいですよね。

長年やっている方々はこのぐらいはいけるという感覚があるのかもしれないのですが、角刈書店は未だに五里霧中で来年も再来年もずっとずっと五里霧中って感じです。そんな五里霧中書店がどうやって生産量を決めるかというとこのぐらいまでならリスクとして受け入れるということを考えて決めますね。

どうしても一個も売れない可能性が存在してしまうので、本当に一個も売れなかった場合死なないか、100個売れないと死んでしまう場合はどうやって100個売れるようにできるか、もうちょっと印刷数増やしてもええんじゃないか?など考えたり、迷ったり、Twitter眺めたりして決めます。

角刈書店はまだまだ活動を始めて日が浅いので、目標としてる値段で販売できるように生産するためには売れるかどうか分からないものを多めに生産しなければいけない状況もあったりします。まぁ常になんですけど。

ガムトーク

例えばガムトークというカードが60枚入ったガムぐらいの大きさの話題提供ツールがあるのですが、これの定価は700円(税込770円)です。これを原価三割で作ろうとすると210円なんですよね。印刷費が210円に収まったとしてもそこにアートワーク代や輸送費、関税(海外生産なので)、倉庫費などを加わってくるので理想は全て含めて210円なんですがそれは非常に難しい。でも原価が高すぎると販売を問屋さんや委託先にお願いするのが非常に難しいので原価は下げたい。定価を上げると原価の予算が確保できるが、サイズ感と内容的に値段は変えたくない。そうなると生産個数を上げて原価を下げるという選択肢を取ることになるのですが予測がなかなか立てられないので

(1)売れるかわからないけど売れたら利益が出て次の印刷費が確保できる程度のリスクを取る

(2)初版はギリギリ赤字にならないけど売れても次の印刷費用が利益で確保できないラインのリスク

(3)全く売れなくても大して赤字ではないけど、全部売れてもほんのり赤字ラインのリスク

のような選択肢が見えてくるわけですね。リスクとリターンのバランスが取れてくるのでゲームっぽくなりますね。そこからどのぐらいのリスクなら取っても死なないかなということを考え、どれぐらいのリスクを取りたいかを決めますね。ちなみにガムトークの一つ前に作った2019秋の新作Super Susuru Soupは(1)のリスクを取る選択肢を選びめちゃくちゃ在庫が余るという結果に落ち着いています。リスクをどう受け止めてどう向き合うかが大事ですよね。あれまた目から汗が出てきたな。

2019秋 Super Susuru Soup


既に印刷してる人に相談する

どれぐらいリスクを取るかを決めると書きましたが、めちゃめちゃ悩んでしまってどうしても決めきれないこともありますね。そういう時は諸先輩方に相談したりします。特に初回は物凄く難しいですよね。初回以降も難しいわけですが、初回は特に指標がない状態で決めるのが本当に難しい。

勝利条件と敗北条件を決める

実はこれが最も重要じゃないかなと思っています。何を目指すか、何を一番避けたいかによって今まで書いた印刷を決める上での難しさが気にしなくて良いものになったりします。

例えば勝利条件がゲームマーケットで売り切りたいであった場合にはあまり思い切った数を印刷しない方が良いし、長い時間をかけて頒布したいと考えているのであれば少し多めに刷ることも検討できますね。

もしも敗北条件が活動限界が来てしまうことの場合に100個売れなかったら活動限界のような条件はリスクが高いように思えてしまいます。角刈書店はそういう状況に陥ったことはないですが一個も売れない場合はどうなるかを想定して、それによってすぐに活動限界が来ないようにできる部分は調整したりしますね。

勝利条件が友達と自分のゲームで遊びたいの場合はわざわざ印刷しなくてもテストプレイキット一つでどうにかなってしまう場合もありますね。

在庫がめちゃめちゃ残っていることは失敗か?というと(勝利条件にもよりますが…)全然そんなことはないと思います!その在庫とどう向き合うかが重要ですよね。

勝利条件が在庫切れを起こさないだともう予算の限り全力で印刷するだけなのである意味楽ですね。

全国のショップで売って欲しいみたいな勝利条件を設定すると流通をある程度見越した数を印刷しなければいけないので、多少リスクを取らなければいけないこともあるかもしれません。

2020秋 不謹慎王(フキンシンキング)

偉そうなことを書いてしまい恐縮なのですが、2020秋に出した不謹慎王という大喜利ゲームは(毎度のことながら)どれぐらい欲しいと思ってくれる人がいるか分からなかったのと何度も連続してリスクは取れないしゲームマーケットに来る人がどれほどいるか分からないかったので赤字にはならないけど全部売れてもほぼトントンの印刷数で初版を印刷し、結果初めて売り切れを経験してしまいメールで土下座する日々を過ごしました。2020年秋に作った5つ目の作品でようやく作りすぎないことを覚えたかと思ったら品切れになって取引先に迷惑をかけてしまい、ゲムマでもずっと土下座してた気がします。初めて再印刷したのも不謹慎王でした。不謹慎王の再印刷はできたのですが、一度売り切れてしまった後に再び商品をとある大型家電量販店で再販をお願いしようとしたら品切れしない数を確保できてるかのチェックをされるようになってましたね。品切れによるペナルティがあったわけではないのですが販売側からすると品切れしない製品の方が推しやすいですよね。それ以来なるべく品切れ起こさないように一層気持ちを引き締めて、結局品切れが起きたり印刷しすぎたりしてます。もしかして印刷下手くそか???


印刷数決定の鍵は「受け身」と見つけたり

いらすとや 受け身

受け身
柔道で、投げられたり倒されたりした際、けがをしないように腕で床を打ったりして衝撃をやわらげて倒れる方法。

goo辞書 https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E5%8F%97%E8%BA%AB/

意外に知られていないのですが、柔道で最初に習うのは受け身なんです。柔道は練習で投げられるので、怪我をしないようにまずは受け身を取れるようになってから投げ技を教えてもらえるようになります。怪我覚悟で投げ技を覚えることを何よりも優先する場合は受け身を覚えなくて良いわけですが、そんな人はまぁいないですよね。多分そんな危ない人に教えてくれる人もいないですし。

印刷をする上で目指すもの(勝利条件)避けたいもの(敗北条件)があるときに、まずは敗北条件を達成できないように受け身の準備をしておけば勝てないかもしれないかもしれないけど、負けはしないわけですよね。

敗北条件は在庫切れかもしれないし、経済的負担が大きすぎて活動できなくなることかもしれないし、部屋のスペースの恒久的な圧迫かもしれないですが、まずは敗北条件を達成する可能性を極力減らし、万が一敗北条件を達成しそうになってもそのダメージを分散できるような受け身の取り方を考えると、リスクと向き合いやすくなり印刷数を決めやすくなるのではないかなと思いました。

ゲムマで売り切れなくてもその後の販路があることだったり、家に置けなくなっても新しいメンバーの家に置けるようになったり人によって受け身の取り方は様々ですね!

角刈書店の敗北条件は一個も売れないことではなくて活動ができなくなることに設定していて、一個も売れなくても死なないように考えたりします。ただし一個も売れないゲームが複数回続くと経済的にはもちろん、メンタル的にもやられてしまうと思うのでそうならないように全力で避けるのですが、最悪のケースを許容することで、落ち着いた気持ちで印刷数を決められる気がします。その結果印刷数多めになって経費が嵩んでるので落ち着きすぎているとも言えますね。

初めから長く続けようと思っていたわけではなく、最初は何も分からなかったので「この打席が俺のプロ野球生活最後の打席…!命を燃やせ!!!!」という野球やったことないのにプロ野球選手の気持ちになって全力で生産してたわけですが、毎打席命を燃やすと流石に燃え尽きちゃうなと思い、どうやったら続けていけるかなということを考えるようになりました。原価が下がることはありがたいのですが、それよりも再印刷の手間をどう減らすか。どうやって発送作業の手間を減らすかを考えて大枠の予算を決めて無理なく続けていくにはこのラインさえ守れていれば良いというところを決めたりしますね。

いかがでしたか?

印刷数決めるの難しいですね。目的と予算と世界ボードゲーム時計の針の位置と気温、湿度、流行り、ダイスの出目などさまざまな情報を考慮すると良いと思うのですが、考慮する項目が多すぎると結局人間にとって意味のある選択ではないのである程度絞って最終的にダイスのみが残ったりすることもありますかね。分からないですね。

長々と駄文を書いてしまい恐縮ですが、少しでもお役に立てることがかけていたなら嬉しく思います。ありがとうございました!


くりごはん


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