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仕組み化の仕組み

はじめに

あらゆる業務や組織の中で、仲間と仕事をする際にはなんらかの「仕組み」と呼ばれるものが存在しています。

それは、制度、プロセス、ガイドライン、ルール、メソッドなどと呼ばれたりします。
また、私たちが向き合っている「プロダクト」「サービス」も顧客の課題を解決しながら、価値を創出する仕組みだといえます。

これらは常に新しいものが生まれ、改変され、さらにそれは設計者の意図を超えて変質したり忘れ去られたりするものです。

組織、集団がなんらかの問題に直面したときや、環境や構成員がかわるとき、仕組みは更新されます。

大きな組織、歴史のある組織ほど「仕組み」は多く、その定着も更新にも労力を要するようになります。

 私はIT業界でキャリアを開始したのは2006年ですが、その2年後の2008年に日本版SOX法が施行されました。
この影響から強制的に大きな仕組みの変化を当事者として経験することができました。

また、その後も所属組織の分離、統合や業務システム構築に関わる中で業務・組織の改善や仕組みの変革を生業として多く経験することができました。(もちろん殆どの事例では成功とは言い難く反省すべき点が多いです)

ここでは、私はそれらの経験から学んだ仕組み化の要諦についてまとめてみたいと思います。

同じような悩みを抱える皆さまの参考になるところがあれば幸いです


仕組みをかえるということはどういうことか

仕組みを変えようと言う場合、みなさんはどのような成果物を想像するでしょうか。
システム、ガイドライン、ルールブック、規定、マニュアル・・?

その対象者や用途によって様々あるとは思います。ただ初めに忘れてはならないのは私たちはプログラムではないと言うことです。スクリプトを書き換えればそのとおりにできるわけでもありません。

どこかに文書として記述して、読ませる。というだけでは大きな変化は得られません。仮にそれができたとしても、すぐに忘れ去られてしまうことは想像に難くありません。

「仕組み」を変えるということは組織の「人間」の振る舞いやありようを変えるということです。

仕組みを変えるときに生まれる反発

「仕組み」を変えようとする場合には、どんなに良いものであったとしても反発をうけやすいものです

これは、自らが慣れ親しんだ仕組みが変わるということに対しては誰しも、不安やストレスを感じるためです

とくに変更対象とされている既存の「仕組み」をつくった人。または、その「仕組み」によって満足する評価を得ている人はこの傾向が強く、誤った形でメッセージを伝えてしまうと、

「あなたの仕事のやりかたは十分ではない」
「こんな仕組みは時代遅れだ」

ということを言われているような感覚にもなりかねません。

あなたが「ちょっと太っちゃったんだよね。痩せたい」といった時

「なぜ、消費カロリーより摂取カロリーを多くしているの?
じゃあ、協力するから毎日、摂取カロリーを記録して報告してね!とりすぎてしまった時には理由と再発防止策もセットでね!」

と言ってくる友人がいたらどう思いますか。言っていることは一見合理的で正解のように見えます。

わかっているけどできないことあるよね

仕組みを創るとき、無邪気な向上心、善意、または綺麗な「あるべき論」を謳うだけでは難しい理由がここにあります。

あなたの目から機能不全となったように”見える”仕組みにも様々な要因や背景があることを想像することが大切です


よい仕組みとはなにか

仕組みには よい仕組み と よくない仕組み があります。
仕組みを改善するミッションを与えられた時にはまずこれを強く意識しましょう

そうでないと、どうしても仕組みをつくること自体が目的化してしまいます。
そうなると、自らの考えた仕組みに批判的思考を向けられなくなります。
そしてかえって状況を悪化させる仕組みをドヤァと作ってしまうことになります。

ドヤァ


「よくない」仕組みが作られるときの多くはこのようなパターンが多いのです。

そして、よい仕組みには次のような特徴があります

  1. 人を動かすにたる意義があり浸透している

  2. ロジック(論理)が成立している

  3. 仕組みを遵守するコストよりもメリットが上回る

  4. 自律的な改善が継続される

これらについて、詳しく後述します

人を動かすにたる意義があり、浸透している

仕組みが組織にいる複数の人間の行動を変えるというものであるならば、その対象となるみんなにその必要性が「理解される」必要があります。

なぜそれをする必要があるのか?

まず、この問いに答えられることが出発点になりますし、
そして次には
「いつ」「どうやって」「誰がやるのか」を含めて
それが関係者に浸透し、納得されていなければ、受け入れられなくなります。

そして、人は常に本音を表すとは限りません。
面従腹背であったり、面倒だから妥協をするかと言葉を飲んだ人が多いほど、仕組みを導入できたとしてもすぐに忘れ去られたり、省略や手抜きが発生するようになります。

  • 仕組みを作る(変える)ことが目的化していないか

  • その仕組みによって誰の課題が解決され、誰がインセンティブを得るのか(起案者である自分だけではないか?)

  • この仕組みを作る役割、そしてそれを伝える役割として自分が適切であるのか?

このようなメタ視点で批判的な検証を行なっておくことが、意義を伝え人を動かす際のコツです。

前述したように、変化には不安が伴うものです。
どんなに合理的な仕組みであっても伝え方次第で結果が大きく異なることは、企業活動に限らず、日常のあらゆるシーンで想像できるはずです。

ロジック(論理)が成立している

私たちの国にもある憲法、法律、条例、規則・・などの法体系と同様に
「仕組み」はそれ自体が、他の「仕組み」や「考え方」によって相互に影響しあうものになります。
上位の概念の制約を受けながら、下位の概念の制約となり、そこには論理的な矛盾がないようにする必要があります。

これが満たせないと、「従うことが難しい仕組み」になってしまいます

さらに、その枠の中で、新たな仕組みによって期待する効果を得ることができるというロジックが必要になります。

  • ゲームをやりすぎると教育上良くないので、長時間遊べないように規制する

  • 子供たちに刑務所の生活を見学させることで犯罪抑止にする

  • ノー残業デーを課して強制的に残業できないようにすることで、働き過ぎを減らし労働環境を改善する

  • 飲酒は健康に良くないので禁酒法という法律で飲酒を禁止する

これらはいずれも現実に誰かが考えて生まれた世の中の「仕組み」です。イメージとしては何となく期待するような効果が得られそうに見えますが、実際にはその根拠も弱く、実際の試行してみた結果は、皆さんもよく知るところでしょう

ロジックを成立させるためには、正しく検証を行うことが大切になります。
自身の考える望ましい仮説を追認したり、無理筋の飛躍があってはいけません。
将棋や戦略シミュレーションゲームを行うときのように、変化から連想される作用を洗い出して、筋の良い論理を構築する必要があります。

仕組みを遵守するコストよりもメリットが上回る

仕組みを作るときに、忘れがちになってしまうのがそれを維持するためのコストです。

  • 新たな構成員にも仕組みを教育する

  • 仕組みから外れているケースがないか

  • 期待した効果が得られているのか

  • 新たな問題が発生していないか

  • 死文化、形骸化していないか

など、仕組みを維持するにはコストが発生します。

これが、仕組みによって得られるメリットに見合わないコストとなるならばそれはよい仕組みとはいえません。

  • 想定外の事故の再発防止のため、レビュー者、チェックポイントをさらに増やす

  • FAXの誤送信を防ぐために、FAX送信の際には2人で指差し確認して行う

  • 企業のメール送信のセキュリティ対策としてPPAPをルールとする

  • ベルマークをあつめて学校に必要な教材を手に入れる

どれもよく聞く「仕組み」ですが、投じるコスト(手間)に対して得られる効果には疑問符がつくものたちです



自律的な改善が継続される

前述したように仕組みはそれ自体も常に変化にさらされます。そのため、改善を継続するということが仕組みの最も重要な点と言えると思います。

私のこれまでの経験でも、多くのケースでこれができていませんでした。
既存の仕組みに課題を感じ、仕組みを考えて展開する。
この一連の流れで、ほとんどすべての人は疲れ切ってしまうものです
仕組みを作ることが目的化してしまっているケースは特に顕著です

PDCAサイクルという言葉は、ビジネス上の常套句である一方で、実際にこれが、何回もサイクルしているケースをあまり見ることはありません。
誰かが長期間かけてPとDを実施し、それが徐々に忘れられ、当事者が退職などでいなくなった後に、また別の人間がその時と同じようなPDをゼロから行うのです。


PDCAまわってますか?


よい仕組みは展開時から自己を常に見直し、修繕し、ときには廃棄される仕組みが実装されています。

仕組みの起案者がこの仕組みは完璧であるという自信過剰バイアスがあると、この機能は実装されません。

不完全であるということを前提として、誰がこの運用を継続していくのか?ということは明示的にきめておいたほうが良いです。


よい仕組みをつくるために

最後によい仕組みをつくる上でのポイントを簡単にまとめてみます

良質な情報を多く集める

まず、最初にすることは良質な情報を多く集めるということです。

よほど特殊な状況でない限り、あなたが解決しようとしている問題の分析、研究、改善の取り組みも過去多くの人が経験しているものです。
とくに企業活動の組織内で起こりうる問題には共通点は多いものです。

ググり、本屋に行き関連する書籍や論文に目を通し、身近にいる詳しそうな人に話を聞きましょう


PPM Standards and Frameworks
https://hennyportman.wordpress.com/2013/11/16/ppm-standards-and-frameworks-qrc/

まず、業界標準的な仕組みや考え方があれば、それを把握するところからです。
それを実装した場合の成功したケース、失敗したケース、肯定的な論調、批判的な論調いずれからも学び得ることがあるはずです。

車輪の再発明をしたり、すでに世の中に存在するものの劣化版をつくることに時間を割いてはもったいないです。

”愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ”
オットーフォン・ビスマルク

誰が仕組みをかえられるのかを把握する

仕組みを考えることができる人と、仕組みをかえられる人は同じであるとは限りません。

集団の行動や振る舞いを変えるためには、仕組みの合理性だけでは十分ではありません。

権威、権利、信頼、伝える力を持っていて対象者の興味を惹き、行動をかえることができるのは誰かを見定めましょう

これらの力は「あなたがこの仕組みを考えて」と誰かから役割を付与されたからといって、身に付くものではないですし、「業務改善タスクフォース!」みたいなかっこいい肩書きだけで判断されるものではないです。


みんな聞いてくれ!

進歩ではなく進化させる

仕組み創りは継続的な取り組みです。恒久的にあらゆるケースに対応した完璧を目指すことは非現実的であることを忘れないようにしましょう。

人を動かす上では、「仕組みの改善」というようなこれまでよりも「良くなる」という期待値を持たせることは必要です。
ただし、それはあくまでも現状のある特定課題への適応という認識でいたほうが良いです。

「進歩」ではなくて、あくまでも「進化」。
先々に前提や環境がかわればそれが悪法ともなりうるという前提で仕組み自体に改善の仕組みを実装しましょう



ルール設計についてより詳しく知りたい方にはこちらの書籍がおすすめです

おしまい


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