みかん
みかんがそこにあってよかった。
テーブルのうえのみかんは緑の目玉をあちこちに向けて、どこからでも僕のことを見ていてくれる。近づけばわかるでこぼこの肌は、そんなことを気にさせないほどのきれいな橙色で、なんだかとっても力のこもった果物に思えた。
みかんには、ほかのどの果物にもない肌のいびつさがあって、みかんはぜったいに色々なことを乗り越えてきたことがわかる。それも、自分だけの力で。
僕は手を伸ばすだけでみかんを手に取ることができる。
手に取った皮の厚いみかんはなんとめくりづらいこと。あまりにも分厚い皮で自分を守っているもんだから、中の果肉を傷つけてしまった。
それがとてもめんどうになった僕は、いつしかそういうみかんをもう食べなくなった。残ったみかんは、どれもぎっちりとしたパンパンのものばかり。
なにも不自由のない暮らしのなかで、冬になればみかんがそこにある。
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