どうせ「頂上」
「どうせ」という言葉は、世界のリアルを教えてくれる。僕にとっては「どうせ」と「死ぬ」はペアみたいなもんだ。
ちょっと前まではこのペアが嫌いだったんだ。だってこのペアには、どうせ勝てないじゃないか。僕のストロークもバックハンドも、すべて打ち返される。八百長したって勝てやしないんだ。
そんなんだから僕はつい、この試合の手を抜きそうになった。どうせ負けるならいいやってね。でも、僕のペアは違った。この試合をやけに盛り上がって、楽しんでいたんです。
どうやら彼曰く、どうせ負けるのならば、普段やらぬような技まで試せるいい機会らしいのです。あんな技やこんな技。それら全部が試せる。それって「どうせ負ける僕ら」の優先特許なんだって。
そっかあ、彼は勝ち負けではなくてゲームそのものを大切にしているんだな。「どうせ」に縛られちゃうのは結果だけなのかも。
それを聞いて以来、僕はこのダブルスが楽しいんだ。僕らは弱小ペア。でも楽しくやっています。どうせいつかは辞めちゃうし。
高校では登山部に入ります。登山は闘う相手もいないしね。なによりも、頂上がちゃんとある。山に頂上がなかったら、誰も登りたがらないんじゃないかな。そこに山があったとしてもね。
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