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(短編小説)「発達の天使達」

とある日の事だった。今回の主人公である杉田夫婦はいつも通りの生活を送っていた。
夫である杉田正道は大手貿易会社の営業部長を務めているエリートだ。妻である杉田絵里は専業主婦で、今年3歳になる大事な一人息子・翔太を立派に育てており、至って普通の家庭暮らしを過ごしていた。

昼過ぎ、この日は絵里の妹である裕理が遊びに来ていた。
裕理は明るい女性で小学校教師。今年2歳になる娘と最近生まれたばかりの息子さんと4人暮らしだ。自分にとっては唯一相談できる味方だった。
テーブルでたわいもない話をしており、

「ねぇ最近、そっちどう?旦那さん」

絵里が少し微笑みながら聞くと、裕理が

「うーん。普通かな、相変わらずタバコよく吸うのよ。子供の前でも」

裕理が心配そうな顔をしながら、近くで翔太と一緒に遊んでいる娘を見ていた。

「え!?子供の前で吸うの!?信じられない」

「しょうがないよ。ヘビースモーカーだから、今さら辞めろって言ったって無理な話、だから外で吸ってっていつも言っているんだけど、たまに破るときあるから、その時はぶん殴ってる」

裕理が微笑んだ。自分は心配性な性格のため、少し不安そうな顔をしながら

「気を付けて、肺やられたらおしまいだからね」

「分かってます」

絵里は必死に遊んでいる翔太を見る。翔太を見ているといつも笑顔になっていき、ある意味心の支えかもしれない。そう思っていると、裕理が

「そういえば、翔太君って何歳だっけ?」

「あぁ、先月で3歳になったけど?」

「3歳児検診行った?」

「そういえば行ってないかも」

裕理は少し驚いた顔をして

「ダメじゃないの。市役所からはがき来てる?」

「来てると思う、ちょっと待ってね」

絵里は近くの棚を開けて、探し始めてからしばらくして

「あった」

3歳児検診用のはがきを裕理に見せた。何せ杉田家族は1年前までアメリカで暮らしており、この3歳児検診のことをあまりよく理解しておらず、はがきも棚にしまい込んだままだった。
すると裕理が

「明日時間ある?」

「明日なら大丈夫だけど」

「行こう。早く行かなきゃ、これ義務だから、私が予約しとくから」

「あぁ分かった。予定に入れとくね。ありがとう」

裕理が何故か心配そうに翔太を見つめていた。その顔は一生忘れなかった、今後の自分たちに大きく関わるからだ。

夜・正道が帰宅してきた。翔太が笑顔で

「パパー」

と正道に抱きついた。彼は翔太を抱きかかえて

「おっいい子にしてたかぁ」

だが翔太は何を話さなかった。でも正直言うとおかしいと思ったことはなく、単なる無口な子だと思っていたからだ。
そのため絵里は笑顔で

「今日は元気に遊んでたもんね」

と言うと、少し翔太は笑顔になっていた。
夕食を済ませ、翔太も寝た頃、絵里はリビングで一人酒を飲んでいる正道に今回裕理とした話をすることにした。

「え?3歳児検診?そんなのあるんだ」

「まぁニューヨークから越してきて、今の日本の状況とか分からないから、そういう検診があるなんて思わなかったわ」

「俺も知らなかったなぁ」

絵里が正道にビールを注ぎながら

「とりあえず、明日裕理と一緒に行ってくるわ」

「分かった。気を付けてな」

見ての通り、夫婦関係は良好であり、結婚10周年で一度も喧嘩はしたことのない。いわゆるおしどり夫婦だ。
しかし、そんな関係が崩壊寸前になろうとは、まだこの2人は知る由もなかった。

翌日朝・なんとか予約が取れて、近くの保健所に行くことにした。
男性医師・倉田が担当してくれて、翔太に笑顔で接しながら、検査は順調に進み、結果を待つことにした。
そして診察室にて翔太を傍で遊ばせてから、絵里と裕理の二人で倉田から話を伺うことにした。

「検査の結果が出ました。お子さんは自閉症スペクトラムです」

「え?」

絵里は衝撃だったのか、少し目を見開きながら固まっていた。しかし裕理は納得の顔をしながら

「やっぱりそうですか」

裕理は何を言ってるんだ。そう思いながら絵里は

「裕理、何言ってるの?」

すると裕理は少し真顔で

「私、気づいてたんだよね。だって私の友里子は2歳なのに、あんなに喋ってるし、でも翔太君は何も喋らない。それどころか、行動がまだ幼稚だった。だからおかしいって少し思ってたの」

少し裕理は泣きながら言った。裕理が泣くのはあまり見た事がないため、少し驚きの表情になりながら、絵里は倉田に

「治るんですか?その自閉症っていうのは」

倉田は少し戸惑いながらも

「あぁ、いえ。この病気は発達障害と言って、脳の発達が遅れていますので、単なる体の病気ではありません。これは、一生付き合うことになります」

「え?どういうことですか。うちの息子はどうなるんですか?」

少し語尾を強めていった。それもそのはず、自分の息子があまり聞いたことのない、病気だったということが分かったからだ。
一生付き合うは、つまり治らないということだ。絵里は少し動揺していると

「療育をしなきゃいけないの。そうしなきゃ翔太君、どんどん発達が遅れちゃうの」

それを言われた絵里は少し怒り口調になりながら

「よくそんなこと言えるわね。療育?発達?それが何よ、うちの子は何も悪くないの!!」

と言って診察室を飛び出していった。あまりにもショックだったのだろう。絵里は誰もいない廊下でただ泣いていた。泣くしかなかった。ただ・・・
すると後ろから裕理が近づいてきた。

「お姉ちゃん」

絵里は振り返り、泣きながら

「どうなるの?翔太は?」

「大丈夫。私とお姉ちゃんが守れば、きっと素敵で良い子になるわ」

裕理も涙目で言った。絵里はただ号泣するしかなかった。
それをそっと抱きしめる裕理、一緒に泣いてくれたのだ。その頃、倉田はただ一人で遊んでいる翔太に

「何してるの?」

すると遊んでいるとジェスチャーをした翔太。それに倉田は笑顔で

「そっかぁ、遊んでるのか。楽しいかい?」

頷く翔太。倉田は頭をなでて

「良い子だなぁ。今お母さんと叔母さん、ちょっと大事なことしてるから、後で来るからね」

笑顔で頷く翔太。すると絵里と裕理が戻ってきて、倉田は少し心配そうな顔になり、絵里に

「大丈夫ですか?」

「はい。あの、この子が将来、元気な子になれるような、そんな育て方を教えてください」

倉田は笑顔で

「はい。分かりました」

絵里の中でも決心はついていた。発達障害だからと言って翔太を捨てるわけにもいかないし、そんなこと思いたくもない。だから自分はこの子を守るって、決めた。切り替え方が早いと思われるかもしれないが、早くないとこの子に申し訳ない、そう思ったからだ。
夜・少し遅い時間に正道が帰宅した。既に翔太は寝ていたが、自分はこの話をするために、リビングで待っており、正道が入ると驚きながら

「びっくりした。どうしたんだよ」

「大事な話があるの。座って」

「あっ、分かった」

何事か全く理解できずに座る正道。絵里は真顔で

「今日、3歳児検診行ってきた」

「どうだった?」

「うん。結果だけ言うと、あの子は自閉症スペクトラム障害。いわゆる発達障害っていうもの」

「発達障害!?」

一瞬正道が戸惑いの顔を見せた。確かにそんな顔をするのは当然な話、絵里は何も驚きの顔も見せなかった。
すると正道は続けて

「まさか、そんなはずはない」

「診断結果出てるの。お医者さんからそう言われた」

正道はまだ整理が付けていなかったのか、少し唇を震えながらも

「そ、そっかぁ」

そのまま席を立ち上がり、寝室の方に向かって行った。自分は少し正道に冷静にさせる時間をあげようと思い、止めなかった。
でも正直、自分は不安な気持ちで一杯でもあった。決心はついたが、やはりどこかこの先どう育てればいいだろうという不安もある。
次の日、まるで神様のいたずらのように、翔太の症状が明るみに出てきた。絵里は洗濯物を庭に干していると、翔太がおもちゃを投げてきて

「こら翔太、何してるのよ。ダメでしょ」

と言うと、翔太は少し戸惑った顔をして、自分を傷つき始めた。絵里は慌てて止めるが、今度は自分を叩き始めてきた。
これは危険だと思いながらも、必死に止めた。

「翔太!やめなさい!!」

すると翔太は今度は泣き出した。まるで赤ん坊のように大声で泣き始めた。自分はなんとか抱きしめながら

「大丈夫、ごめんね」

今度は優しくただ翔太が泣き止むよう、強く抱きしめた。

ある日には裕理が遊びに来た際、翔太は近くにあったコップを割りながら遊んでいた。
絵里は本気で怒ろうとすると、裕理が少し大きな声で

「翔太君、これは危ないの。ダメでしょ、痛いことになるよ。嫌でしょ?」

すると翔太が少し下に俯き始めた。裕理は少し笑顔になりながら

「大丈夫?どこも怪我してない?」

翔太の手を見ると、確かに傷だらけだった。裕理は慌てながら

「大変。お姉ちゃん、絆創膏と消毒液持ってきて」

絵里は慌てて2つを持ってきた。それにしても、裕理の対応で前はあんなに暴れていたのに、今回は冷静になっていた。
少し気になりながらも、翔太と裕理の2人の子供が寝ている間に、話を聞こうと思い

「ねぇ、もしかしてどこかで勉強した?」

コーヒーを渡す絵里。

「何が?」

「いや、翔太のこと。私だとあんなに暴れるのに、裕理だとすぐに冷静になった。なんでだろうって思って、少し気になってね」

すると裕理が微笑みながら

「今ので分かった。もしかしてお姉ちゃん、翔太のこと凄く怒ってない?」

「なんで分かるの?」

裕理がコーヒーを口に入れてから

「私ね、最近神様のいたずらか分からないんだけど、半年前に学校に新しく特別支援学級が出来たのよ。そこに私移動になってね。そこは発達障害やコミュニケーション障害を専門とした学級だから、私もたくさん勉強しながら発達の事を学んでたの」

そんなこと一切知らなかった。小学校教師だとは知っていたけ、まさか発達障害を専門の学級に行ってたとは思いもしなかった。
すると裕理は続けて

「それで、私から少しアドバイス。怒るときは優しく怒るの。あまり酷く怒ると、萎縮しちゃうから。それだけは気を付けて」

「う、うん」

少し思った。きっと私は普通の子供と同じように叱り、育ててたかもしれない。でも悪い意味ではなく、この子は違う。
自分が考え方を変えなければ、この子も変わらない。そう思っていた。

別の日には療育のために倉田がいる病院に向かった際、倉田と少し話が出来ることになり、診察室ですることにした。
倉田が笑顔で

「どうですか?最近の翔太君は」

「あぁ、少し楽しそうに送れてます」

「そうですか」

すると、隣で遊んでいる翔太を見ながら、倉田は少し苦い顔をしながら

「でも、腕にアザがありますね」

「中々、自分を傷つけるときに止められなくて、心配そうに見てるだけなんです」

絵里が少し苦い顔をすると、倉田は

「そういう時は、怒ってください。このまま大人になった時も傷つけることが習慣になってしまうと、あとで困ってしまうので。でもその後は優しくしてください、あまり怒り過ぎると萎縮しちゃうので」

「分かりました。あの先生」

「はい?」

少し絵里は戸惑った顔になりながら

「私、やっぱりどう育てたらいいか分からなくて。この子は幸せになれるのかなって思ってしまって」

「杉田さん。それは翔太君が決めることです、幸せの有無は。それに私たちはアドバイスしか出来ません。この世に完全な特効薬はありませんから。でも杉田さんの育て方一つで、きっと翔太君は立派な大人になりますよ」

そう言われ少しホッとしながらも、笑顔で

「ありがとうございます」

帰り道、手を繋ぎながら必死に歩いている翔太を見て、絵里は

「ねぇ翔太。こんなお母さんだけど、翔太のこと凄く好きだからね」

すると翔太は笑顔で頷いた。なんて可愛い子なんだろう。そう心の中で思いながらも、夕方で赤く染まっている空を見上げながら、道に帰るのであった。

その日の夜。正道が少し不機嫌そうに帰ってきた。自分はリビングで迎えると

「どうしたの?」

「今日社長と話をしたんだけどさ。やっぱり翔太がうちの会社で働くのは無理なのかなって」

「どういうこと?」

「いや、いずれ翔太はさ、うちの会社で働いて俺が社長になったら、あいつは後継者になれるだろ?でも発達障害ってことは、中々会社にも就職が出来ない。悔しいんだよな」

それを聞いた絵里は、少し顔色を変えて

「それって本気で言ってるの?この子の心配より、会社の心配なの?それに障害の子供は、会社に就職できないって決めつけるの?」

「だってそういうことだろ」

「分からないじゃない!そうやって、発達の子たちを差別している人たちがいるから、いつまで経ってもこの世は変わらないの。何も出来ないって誰が決めつけたのよ!」

黙り込んだ正道。絵里は続けて

「発達の子も、必死に生きてるの。みんな希望を持って必死にこの世の中を渡り歩こうとしているの。そんな子たちに目を向けてあげないでどうするの」

すると正道は何かを言おうとしたが、そのままリビングを出ていった。自分も少し興奮したところもあったが、これくらい言わなきゃ、考え方は変わらない。そう思っていた。
そこから正道はあまり自分に話しかけなくなった。食事もすぐに済ませ会社に行ってしまう。
恐らく昨日のことが原因だろう。でも自分は真っ当なことを言っただけだ。
今日も療育のために病院に行くことになったが、裕理が丁度休みだったため、車で連れて行ってもらうことになった。
車内で昨日の話をした絵里。すると裕理は

「そうなんだ。まぁ男達はそうだよ。全く時代の流れについていけてないのもあるし、変なプライド持ってる人多いから」

「そうだよね。でも私の言ってたこと間違ってたかなって思って」

裕理は笑顔で

「そんなことないよ。お姉ちゃんは真っ当なことを言っただけだよ。あまり思いつめちゃだめだよ」

そう言ってくれてホッとしたのか、絵里は笑顔で

「ありがとう、裕理」

療育を済ませ、家路に着く絵里達。すると近所に住んでいる中年の女性が近づいてきて

「あら杉田さん。久しぶりだわね」

「あっ丸山さん。お久しぶりです」

この人はあまり近所でも評判の悪い女性であり、嫌がらせや暴言は当たり前で、自分もあまり関わりたくない人物だった。
丸山が笑顔で

「翔太君だっけ?」

少し不気味そうな笑顔で言ったため、絵里は戸惑いながらも

「えぇそうですけど」

「あら、聞いたわよ。発達障害なんですって。可哀想だわね」

「え?」

少しその発言に疑問に思いながらも、聞き返すと

「何も喋れないし、この先不安よね。でも私の家に何の迷惑もかけないでちょうだい。私迷惑かける子大っ嫌いだから」

すると裕理が凄い剣幕で

「何それ、発達の子は迷惑かけるって言うんですか」

絵里が止めに入るが、丸山は少し怖がりながら

「あら何よ。これだから最近の若い子は教育がなってないっていうのよね。あのね、発達障害の子はね、施設に入れた方が良いわよ。その方が翔太君のためにもなるわよ」

裕理が完全に怒った顔になりながら、近づこうとすると絵里が

「あの、余計なお世話です」

「はい?」

「この子が迷惑をかけようとしたら、私が注意します。決してあなたにご迷惑はおかけしません。それに、発達障害だからと言って、簡単に子供を手放すわけにはいきません。私が立派に育てますから、あなたにとやかく言われる筋合いはありません。教育がなってないのはどっちでしょうか。簡単に差別する人は、この世のクズですよ。いずれ見捨てられますよ」

絵里は怒りを抑えていたせいか、少し笑顔になりながら言った。
丸山は怒りのあまり

「なんですって。この無礼者!」

と言って家に帰っていった。裕理は少し笑顔になって

「お姉ちゃん、やるじゃない」

「こんなこと言わなきゃ、誰も変わらないわ」

「さすがお姉ちゃん」

絵里は笑顔に戻って

「コーヒー飲んでいく?」

「もちろん」

その日の夜。リビングで正道に少し気になった事があったため、久しぶりに話をすることにした。

「ねぇねぇ」

「なんだ?」

まだ不機嫌そうにしている。あまり引きずられるのは嫌いな性格だったが、それを堪えながら

「今日ね、丸山さんから酷いこと言われたの」

すると正道は少し驚きの顔をしながら

「え?丸山さんが?嘘だろ」

動揺している正道を見て

「やっぱりね。あなたが話したんでしょ。丸山さんに」

「い、いや、俺はたまたま話の流れでそうなっただけだ」

「なんで余計なこと言うの!おかげであの人から嫌ほど言われて、施設まで入れろって言われた!どういう気持ちか分かる?酷いほど悔しいの!!」

絵里は少し泣きそうな顔になった。それもそのはず、一番関わりたくない人から余計な事を言われて、挙句の果てに施設まで入れろと言われたのだから。
正道は悪かったのか、少し恐縮しながら

「悪かったって、まさかそんなこと言われるなんて思ってなかったんだよ」

「私の気持ちなんて考えたことないでしょ!あなたはたくさん仕事してビール飲んで終わりかもしれないけど、私はたくさん家事や子育てをしなきゃいけないの!!それも少しは考えてよ!」

すると正道は怒りの表情になりながら

「そんな言い方は無いだろ!俺だってお前らを育てようとして頑張ってるんだよ。それくらい分かってくれよ!」

「何よ。逆ギレ?ふざけないでよ!!だったらあなたが言われてみなさいよ。自分の一人息子を施設に入れろって言われたんだよ、どんな気持ちか分かるでしょ!!」

すると翔太が起きてきたのか、少し泣きそうになりながらも、正道に抱きつこうとした。すると正道が

「邪魔だよ!!」

と言って突き放した。すると近くのテーブルの角に頭をぶつけて、倒れてしまった。それを見た絵里は

「翔太!」

と言って抱えるが返事はない。それどこか血が溢れ出ていた。絵里は慌てて

「救急車呼んで!!」

正道も慌てながら

「わ、分かった」

そのまま緊急搬送されたが、命に別状はなかった。そのまま少し入院することになり、待合室で待つことにした。
すると裕理が慌ててかけつけて

「何事なのよ」

絵里が少し落ち込みながら

「この人が、翔太を突き飛ばしたんだよ」

正道は黙ってうつむいたままだった。すると裕理が怒りながら

「何黙ってるのよ。何か言いなさいよ!」

「事故なんだよ。口論してたらつい突き飛ばしてしまった」

裕理は少し声を荒げながらも

「そういうこと聞いてるんじゃないの。普通言わなきゃいけないことがあるんじゃないの。本当に男ってそう、いつも自分のことばかり考えてる。これが無事で済んだけど、もし死んでたらどうしてたつもりなの?ついで済むことなの?」

「もういいよ」

そう言ったのは絵里だった。少し落ち込んだ表情だったが

「正道さん。翔太が無事に戻ってきましたし、これからは私たちできちんと育てようよ。立派な大人になるためには、私たちが変わらないといけないの。本当に難しいことかもしれないけど、翔太がこの先の未来、立派に生き抜くためにも、私たちがちゃんと育てないと、あの子は野垂死にしてしまう。それはあなたも私も嫌なことだから、お願い。私の願いを聞いて」

本来は怒りたいところだったが、翔太も無事なことだし、あとはこの子の未来のためにもちゃんと考えなきゃいけないと思い、出た言葉だった。
3人は翔太がいる病室に行くと

「パパ・ママ」

と言っている翔太がぐっすりと眠っていた。
どうやら寝言のようだったが、絵里が泣きながら

「初めて、パパ・ママって言った」

「そうだな」

泣きそうになっている正道。今日の満月はいつもより綺麗に見えていた。

ここから先どうなったかは、あなたの想像にお任せします。
この家族がどうなり、翔太君がどう育っていったのかは、ご想像にお任せします。

こんなにテンポのいい物語は、現実にありませんがこれもいい見本になればいいと思い、書きました。

またこの家族にお会いしたら、こう声を掛けてください

「頑張ってくださいね」

と・・・

~終~

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