見出し画像

(連載小説)「殺人一首~岡部警部補シリーズ~」第1話(全3話)

とある日の事だった。小学教師で小倉百人一首の女性頂点である「クイーン」を3年間君臨している女性・藤山真帆は競技かるたの会場にいた。
彼女は、とてもプライドの高い人物であり、かるたに関しては知らないことはないくらいの、知識をもっている。
この3年間はかるた界の頂点として、地位を守ってきたが、当然お金は稼げないため、小学教師をしながら生計を立てている。現在は準決勝を行っており、これに勝てば決勝戦だった。4年連続クイーンを維持できる大事な局面だった。
でも今回の挑戦者はあまり強くは無く、自分は次々に手札を取ることが出来、余裕で勝つことが出来た。
でもいつもより長く感じたが、こんなの楽勝の一部だと考えており、その後の取材でも男性記者が

「今回の挑戦者である、山口選手との勝負どうでしたか?」

自分はそんな酷な質問よく出来るなと思いながらも、自信を持って堂々と

「そうね、一言楽勝。でもあの子は伸びるわ。また私の挑戦者として来ると思うわ」

そのまま記者の質問をかいくぐって、控室に戻っていった。
でも実は一つ心残りがある。それは今回の決勝戦の相手・佐山美優だった。彼女は驚異的な強さで、次々と相手を倒していき、今では次期クイーンとまで言われているほどだ。自分にとっては最も脅威を感じている敵である。
でもなんとか自分に自信を持っており、こんなところで負けるわけにはいかないと思っていた。
控室に戻ると、師匠である元名人・植木が待っていた。自分は笑顔で

「あぁ植木先生」

「あぁごめんね。ちょっと腰を痛めてしまってね、試合を途中で抜けてしまった」

自分にとっては唯一の師匠であり、かるたを教えてくれた恩人である。それだからこそ、無理はしてほしくないと思い

「大丈夫ですか?無理はしないでください。もうお年なんですから」

「馬鹿野郎。大事な教え子の試合、見に行かないとバチが当たる」

自分は少し笑顔になり

「先生」

すると植木が立ち上がり、自分に近づいてきて

「さっき、テレビに例の挑戦者が出ていた」

自分はすぐに察しがつき、どうせあの小娘かと思いながらも

「あぁ、佐山選手ですか?」

植木が少し重い顔をしながらも

「どうだ。勝てそうか?」

植木が危惧するのも無理はない。それくらい今回の敵は強いからだ。最初に佐山を見たとき、自分も脅威を少し感じたほどだ。
でも自分は笑顔で

「当たり前ですよ。このまま5年10年でもクイーンの地位守って見せますよ」

植木は安心したのか、少し笑顔になり

「良かった。安心した」

その日の夜の事だった。自分はとある人物の家に行くために、車で都内某所の住宅街に向かった。
少し夜遅かったため、周りの家の電球はほとんど消えていた。でもそれでよかった、自分はメディアには顔を知られている。それは一番避けたい事だったからだ。
自分は恐る恐るマンションをエレベーターを上がりながら、目的地のインターホンを鳴らした。すると目的の人物が家から出てきた。

その人物は・・・佐山美優だった。

佐山は笑顔で

「どうぞ」

実は佐山と自分は大学の同期であり、同じかるた研究会に所属していた友人同士だった。彼女は弁護士をしており、地位も確立していた。
部屋に入ると、そこには高い壺や掛け軸など、弁護士で稼いだろうものが目に付く。自分は少し真顔で

「凄い稼いでるみたいね」

「何それ、嫌味?」

少し笑顔で言う佐山。自分は本当は嫌味のつもりで言ったつもりだが、どうでもいいやと思いながら

「ごめんね。急に電話なんかしちゃって」

2人は座り、佐山が淹れたコーヒーを飲み始める。佐山が少し笑顔になり

「ううん。丁度良かったの。私も大事な話があるからさ」

「え?そうなの?」

「うん。先にいいかしら?」

佐山は少し重い顔をしたため、自分は不安そうな顔をしながら

「いいよ。何かしら」

「ありがとう。あのね、真帆ちゃんが最初にクイーンを勝ち取ったクイーン戦を調べてみたの」

「え?」

これはマズい事だった。自分にとっては華やかしい記憶だったがそれと同時に黒歴史でもあった。忘れたいことだった。
すると佐山は重い顔をしながら続けて

「新山智子。覚えてるでしょ?」

体が動揺していたのがすぐわかり、額には少し汗が出始めていた。この名前は一切聞きたくない名前であり、思い出したくもない名前だった。
自分は少しとぼけながらも

「知らないわよ」

「そんなわけないわ。真帆ちゃんが当時のクイーン戦の決勝相手で、あなたが金を渡して、わざと負けた人。いわゆる八百長ってやつ」

自分は動揺していた。確かにあの日、初めて決勝戦まで行けてクイーンまで間近の状況だった。絶対に負けたくないがために、つい犯してしまった不正だった。
その後、新山はすぐに百人一首の世界から離れていき、音信不通状態までなっていた。本当は忘れたかった事だったため、動揺しながらも

「そ、そんなこと、あるわけないでしょ」

「自分ね、新山さんに会ってみたの」

「え?」

会ってみた。
たった5文字のワードで完全に心臓を掴まれるほど、動揺が襲った。まずいと思っていたが、佐山は続けて

「そしたらね。見事な返事が返ってきたの、八百長に応じたって」

「一体何が目的?」

佐山は一体何を考えているのか。
大切な友人をこういう形で裏切るだなんて正直失望していたが、そんなことどうでもいい、まずは彼女の本心を知らないとと思っていると、佐山が立ち上がり

「話は簡単よ。私に次のクイーン戦勝たせて」

「何言ってるの?」

この女正気か。大事なクイーンの防衛を掛けているのに、逆八百長とは。確かにこれはどちらにしろ不利である。
もしこれを拒めば、佐山はマスコミにきっとばら撒くに違いない、逆にこれを呑めば、クイーンの称号は無くなる。
どちらにしろ自分はクイーンの道は無くなる。そう思い、少し考えていると、佐山は微笑みだし

「いいんだよ。マスコミにこれをばらまいても、そしたらあんたはクイーンどころか、百人一首の世界までいられなくなる。面白いわね、これが天罰よ」

自分はいつの間にか手に、熊の置物を持っていた。
これは殺せって合図かしらと思い、佐山が奥でコーヒーを淹れている隙に、頭目掛けて振り下ろした。
佐山は倒れこみ死亡した。これでクイーンの座は確実、心の中は笑みしかなかった。
自分はすぐに自殺に見せかけようと思い、死体を力を振り絞り、ベランダから落とした。
時間は午後10時、自分は偶然付いていたパソコンを使い、偽の遺書を書き、テーブルの上に置いた。印刷機とパソコン電源で命拾いするとは思いもしなかったが、すぐに家を後にして、なんとか気づかれずに自分の家に戻った。
そこから百人一首を並べて、練習を始める。少しでもアリバイを作るためであった。

これで藤山真帆の完全犯罪は幕を閉じるはずだった。あの女が来るまでは・・・

~第1話終わり~

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?