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勘違いの承認欲求

『写真を撮ってもいいですか?』
そう遠慮がちに聞いてきたのは、私を担当する美容師さんだった。


カット・カラー・トリートメントの施術を終えてすっきりとした私の髪形を彼女の仕事用インスタグラムに載せるために写真を撮ってもいいか、という確認だった。

もちろん!どうぞ!
と愛想よく返し、パシャリパシャリと撮ってもらう。

後ろや横、斜めからと様々な角度で。動画も撮られた。
即答したものの、初めてのことで私の表情は少しこわばっていた。


今はSNSで集客する時代。
表参道の激戦区で働いているこの美容師さんも、SNSの広報活動に力を入れている。長い労働を終えて帰宅してからも記事を作成したり音楽を選んで投稿しているのかと考えると、少しでも協力したい気持ちだった。


数日後に担当の美容師さんのインスタが更新され、私の髪形も投稿されているのを見つける。

カットモデルさんみたいに素敵にとってもらえて、嬉しい。
気を良くした私は、自分のストーリーにもその記事を投稿する。
いつもと違う雰囲気の私を誰かに自慢したくて、夫くんや姉に写真を送った。


少し経つと、その投稿にいくつか「いいね♡」がついた。

私の写真の投稿で、普段よりいいね数が減ったらどうしよう…
不安になった私は、その日何度も美容師さんのインスタを覗きにいった。

まだ他の投稿よりもいいねが〇件少ない…
全然のびていないかも…
とハラハラする気持ちで、いいねが増えていないか何度もページを更新する。

結局、次の日にはいいね数が過去の投稿よりも増えていて、一安心した。


その2か月後、私はまた美容室に髪を切りに来ていた。

前回と同じように施術が終わると『写真を撮ってもいいですか?』と美容師さんから聞かれたので、もちろん!と返した。
前の投稿は保存数が過去イチだったらしく、美容師さんに感謝された私は得意げになっていたのだ。

帰宅後、今回の投稿はどんな風に編集されているのか、何件いいねがつくのか。
そんなことが気になって、まだかまだかと心待ちにした。

お、今回は動画なんだ。
待ちに待った投稿は、太陽光が当たって髪色がきれいに映っている。
投稿された動画を見て満足した私は、また自分のインスタのストーリーにそれを載せた。

それから、美容院に行くと撮影され、投稿のいいね数を見張ることが習慣になった。大勢の人からいいねされるのが嬉しくて、途中から美容院に通う理由の1つに加わったほどだった。



そして現在。
前回の美容院でもいつものように写真と動画を撮影された。しかし、それから2週間以上になるがまだ投稿されていない。

私の写真が映えていなかったのかな。
美容師さんが忙しいのかも。
以前の私の写真が再投稿されていたりするから、単に良く撮れなかったのかもしれない。

こんなことをモヤモヤと考えてインスタを開いたり閉じたりを繰り返していたが、しばらくしてやっと気づいた。

私、なにか勘違いしてないか?


最初は頑張っている美容師さんに協力したいと思って始めたことなのに、今はもう私の承認欲求を満たすために写真を撮ってもらっている。

美容師さんの活動を応援することを忘れて、他の記事といいね数を競って一喜一憂していたのだ。

自分のアカウントならまだ知らず、それも他人のアカウントで、、、


それに気が付いて、いたたまれない気持ちになった。
自分がある種のモデルのような気分になっていたことも、他人のアカウントで自分の承認欲求を満たそうとしていたことも。
あああ、穴があったら入りたい…

SNSで承認欲求を満たすキラキラ女子の話はよく聞くが、まさか私も同じ道を辿っていたとは。


そんなことがあって、羞恥心でムズムズしたのでnoteで昇華させることにした。
もう少し私に謙虚な気持ちが身につきますように。アーメン。


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