最近笑っちゃった話

『今から帰るよ！！』

大きな声がいきなり後ろから降ってきた。

びっくりして私はキョロキョロと振り返る。
どうやら、バス停で私の後ろに並んでいた女性が電話を始めたらしい。
それにしても声量が大きく、バス停中に響き渡っている。

『あんたは散歩に行ったの？』

話している女性は5,60代のマダム。
不可抗力で会話が耳に入ってくるので、電話の相手を推測してみる。
この親しげな会話、電話の相手はきっと自宅にいる旦那さんかな？

『ちょっとエコーかかって聞こえるんだけど、今トイレに入ってるの？』

なんと、びっくり。
旦那さんトイレから電話しているの？
っていうか、ここでそれを聞いてしまうのですか、マダム。
あなたの大きな声が、バス停で並ぶ10人全員の耳に届いていますよ。

『言わないってことはそうなの？』

旦那さん、恥ずかしくて答えなかった様子。
それをにこやかに問い詰めるマダム。
さながら犯人を尋問する警官のよう。

楽しんでいるところすみませんが、こんな公共の場で深掘りしないであげてよ。
恥ずかしがっている旦那さんを想像して笑ってしまいそうになる。

『あら〜！ゆっくりしてくださ〜い！
　は〜い、ゆっくりしてくださ〜い』

旦那さん、トイレの中だと遂に自白した模様。
顔は見えなかったけどマダムの声が喜んでいるのがわかる。
旦那さんがトイレにいるとわかったマダムは、満足したのか電話を切った。

トイレにいると自白させられた旦那さんを不憫に思うと同時に、
こんな冗談めかしたやりとりを数十年添い遂げているであろう相手と変わらずできる関係性っていいなあ、と少し憧れた。

いや、それにしても私はいったい何を聞かされたの？

思い出すと笑っちゃう。
そんな梅雨の昼下がりのできごと。