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【文楽】面売り

 2023年11月18日(土)、大阪の国立文楽劇場で文楽を見ました。メモを残します。

■2023年11月の文楽(国立文楽劇場@大阪)

 3部制でそれぞれの演目は以下のとおりでした。

  • 第1部:10時30分〜、『双蝶々曲輪日記』『面売り』

  • 第2部:14時15分〜、『奥州安達原』

  • 第3部:17時45分〜、『冥途の飛脚』

 今回、私は第1部だけ見ました。大阪で用事があり、国立文楽劇場に立ち寄った感じです。文楽鑑賞も細く長く続けて行きたいと思います。
 ここで、有名な作品である『双蝶々曲輪日記』の感想より先に、『面売り』の感想を書こうとする私は、ある意味変わっているかもしれません。

■作品『面売り』について

(1)作品の成り立ち

『面売り』は、昭和19年(1944)10月大阪四ツ橋文楽座初演、野澤松之輔の作詞・作曲による景事(舞踊性の強い演目)です。

プログラムより抜粋

 昭和に作られた比較的新しい作品です。また、戦前・戦中の作品ですが、明るく楽しい作品でした。時間は30分ぐらいです。プログラムで時々見かけていた野澤松之輔さん(1902―1975)は、三味線弾きの方で、『曾根崎心中』の復曲などで有名なようです。

(2)あらすじ

大道芸人のおしゃべり案山子の言い立てに合わせて、面売り娘が面を替えて踊るという趣向です。面は天狗、福助、ひょっとこ、おかめと替わっていきます。

プログラムより抜粋

 「おしゃべり案山子」という言葉を見て、初め私は、田んぼなどにいる「案山子」が動きだすのかな、と思っていました。実際は、大道芸人の男性で、喋るのを生業としており、喋らない「案山子」と、逆説的に言葉をかけているようです。
 その大道芸人「おしゃべり案山子」と、お面を売る「面売り娘」とが、講釈と踊りという形で、二人で一緒に商売をするという話です。

(3)「お面」の持つ意味

 「お面」は、天狗、福助、ひょっとこ、おかめと次々に替わっていきます。床本によると、天狗の面は、国の始めの「猿田彦」を表しているようです。

猿田彦大神(さるたひこおおかみ)はみちひらきの大神といわれており、日本神話における天孫降臨の際に、天照大神(あまてらすおおみかみ)の命を受けた瓊杵尊(ににぎのみこと)を高千穂へと導いたのが猿田彦大神です。

伊勢市観光協会のHPより

 他のお面も意味があるようですが、割愛します。作品を見て楽しんで下さい!

■気づき

(1)人形のかしら:「源太」について

 『面売り』の感想を書いている理由にもなりますが、今回一番印象に残ったのはここからです。
 人形のかしらは、おしゃべり案山子が「源太」で、面売り娘が「娘」でした。
 ここで私は「源太」のかしらに少し驚きました(新鮮さを感じました)。三枚目の「又平」などが使われるのではないかと思ったからです。

 二枚目の「源太」が、どういう場面で使われるか、まだまだ初心者の私は、きっちり理解していない所があるので、以下、慎重に記載します。

(「源太」は、)色気のある顔立ちのかしらで、元服後の青年から二枚目役まで、時代物、世話物を問わず使われます。品の良い顔つき、引きしまった口元が特徴です。

文化デジタルライブラリーのHPより

(「源太」は、)文楽の人形のかしらの一つ。「ひらがな盛衰記」の梶原源太景季からの名称で、二〇歳前後の二枚目のやつし立役を性根とする。目の動きがなく描き眉が原則。みずみずしい色気と気品をそなえたかしらで、「菅原伝授手習鑑」の桜丸、「冥途の飛脚」の忠兵衛など、時代物、世話物ともに広く用いられる。

精選版 日本国語大辞典より(ネット検索)

 「やつし立役」という言葉があり、更に追ってみます。「身をやつす」とも言います。

(「やつし」とは)和事の演技、演出の一種です。何らかの理由で高貴な身分の人物が落ちぶれた様子を演じるものです。元禄時代のお家騒動物の中に組み込まれて発達しました。みすぼらしい身なりと、元は立派な身分であることから自然と出る上品で柔らかなしぐさとの落差がやつしの面白いところで、演じる俳優には軽妙さとおかし味が必要とされます。代表的な役として、『廓文章』の藤屋伊左衛門などが挙げられます。

文化デジタルライブラリー・歌舞伎事典より

 私の頭の中で「源太」は、世話物で心中に向かって行くような男性のイメージが強く、そのため、今回の『面売り』で使われるのを意外性を持って受け止めたのだと思います。
 時代物ではまた違った側面が強調されるかもしれないので、今後も、もう少し注目して行きたいと思います。

(2)人形の足について(ネタバレあり)

 ネタバレありになってしまうのですが、「面売り娘」の人形に足がありました!女役の人形に足があるのは、初めて見たような気がします。

■最後に

 最後になって本当に恐縮ですが、おしゃべり案山子(かしら:源太)の人形の主遣いは吉田玉佳さん、面売り娘(かしら:娘)の人形の主遣いは吉田勘彌さんでした。出だしの鶴澤藤蔵さんの三味線も良かったです。
 また、写真は、tomekantyou1さんの「お面」の写真を使わせて頂きました。

 今回、「源太」のかしらを中心に『面売り』につい書いてみましたが、これからも新しい発見を大切にして行きたいと思います。
 最後まで読んで頂き、ありがとうございました。本日は、以上です。

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