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大江戸おサボり物語

お台場の大江戸温泉物語が9月で閉館するという。

惜しいことだが、今さら行くことはない。なぜなら、もうさんざん行ったから。しかも就業時間中に。

あそこは、私の代表的な「サボり場」であった。私はずっと左遷されていて仕事がなかった。だから会社に行ってしばらくすると、早めの昼飯に出るふりをしてゆりかもめに乗り、大江戸温泉物語に行く。

平日の昼間は客も少なく、館内ものんびりしている。ひと風呂浴びたあとはそばか何かを食い、気が向いたら甘いものを食べて、その後は大広間でダイノジになって寝る。それで3時ころまでねばり、会社に戻るとすぐ帰宅準備だ。

もちろん毎日というわけではない。多い時で週2回くらいか。やはり天気のいい日だ。お台場周辺の遊戯施設をのんびり回るのもいいが、大江戸温泉物語がいちばん手軽で落ち着けた。

退職して、もうクビになる心配がないから、こういうことが書けるのはありがたい。

大江戸温泉物語ができるまでは、新宿に出て、グリーンプラザによく行った。24時間営業の大サウナ、グリーンプラザは、1980年代~2000年代の東京の「サボり場」代表格であったろう。たしか大沢在昌とかの新宿ものにもよく出てきた。ホモのハッテン場とも言われたが・・・

ところで、東京駅地下にも温泉があった、ことを覚えている人はどれだけいるだろう。1990年代まではあったのではないか。とはいえ、東京駅の中なのに、施設の老朽感、場末感がすごくて、私も数回しかいかなかった。黒い水着を着たおばあちゃんたちのぎこちないマッサージを受けた・・・あれは、私の前の世代のサボり場だったのだろう。

ある天気のいい日、会社の近くで昼飯を食ったあと、することがない。そうだ箱根に行こう!と思いつき、ホワイトボードに「直帰」と書いて会社を出た。小田急新宿駅でロマンスカーの切符を買って、うきうきしながら座席につくと、まだ出発していないのに、その座席がぐらぐらと揺れ始めた。何だ、と思ってホームに出ると、駅全体が揺れているように感じる・・・2011年3月11日14時46分、東日本大地震だった。

その日、交通はすべて止まって、私は家に帰れず、新宿で夜を明かすしかなかった。しかし、シェルターとなるべき世界随一の乗降客数を誇るJR 新宿駅は、よく知られるように、その日はシャッターを下ろして客を締め出しやがった(あのJRへの恨みは一生忘れない)。街をさまよううちに自然に足が向いたのはグリーンプラザだ。

しかしグリーンプラザの前に来ると、入口のところで客とスタッフが押し問答をしている。入れろ、という客に対して、店側は「エレベーターが止まったから無理だ」という。「階段があるじゃないか、泊めろよ」という客をシャットアウトして、グリーンプラザもシャッターを下ろしたのだった。

そのグリーンプラザも今はない。東京駅温泉もとっくにないが、今度は大江戸温泉物語も閉館するという。

職場で干されている、仕事のない、居場所のない、かつての私のようなサラリーマンは、今どこをサボり場にしているのだろうか。あ、リモートワークだから関係ない?

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