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藤谷文子「逃避夢/焼け犬」を読んでみた(庵野秀明「式日」の原作)

藤谷文子は1979年生まれ。
「逃避夢」読みは「とうひむ」。
「逃避夢」は脱稿が1999年10月29日らしいので、作者が20歳を迎える直前まで執筆していた。
藤谷文子がゲストっぽく出演した1999年「ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒」と同じ年。
で、2000年12月庵野秀明監督で「式日」として映画化。
出版は、2001年10月22日発行。
庵野秀明の企画用メモ(庵野秀明展の図録)に、「99.9.29.」とあるので、脱稿前にして出版前の小説を、庵野が読んだんだろうな。
本のあとがきに、「何とか形になるよう、好んで、応援して、手助けしてくださった人達がおりまして」とあるので、そうっぽい。

藤谷文子はスティーヴン・セガールの娘ということは有名だが、ちょっと調べただけでも、父セガールは日本において重婚したり新宗教に入信したりした上で離婚したとかの乱倫ぶり、母美也子も何だか胡乱な感じ。
と、ひどく失礼な表現をすれば叩けば埃が出そうな出自。
1993年14歳で三井のリハウスガールになったのを皮切りにして、1995年から5年ほどの間に、「平成ガメラ」で演じたり、水着グラビア多数だったりと、アイドルから俳優への道を辿っていた。
庵野(1960年生まれ)が、三石琴乃(1967年生まれ)林原めぐみ(1967年生まれ)宮村優子(1972年生まれ)に袖にされた挙句、「平成ガメラ」関係者の美麗な女優に半ば下心で近づいてみたら、意外やアーティスティックな女優だったと判って奮発したのか、は定かではないが……というか邪推たっぷりだが。

ちなみに、中島らも(1952年生まれ)は晩年、藤谷文子、本上まなみ(1975年生まれ)を寵愛していた。……らもさん、こういう顔が好きだったんだろうな。
http://ramohada.ties-p.com/33.php
で知ったが、藤谷文子がらもに本を送る→らもが拘置所から手紙「子供の目のうちは石ころも大きく感じるんだ。きみはそのまま生きていくと十年ももたないぞ。これを読んでください」と同封されていたのが「全ての聖夜の鎖」(らも25歳の自費出版)だったという挿話。
エモすぎて涙腺がおかしくなりそう。

脱線してしまった。
さすがに自伝小説ということはないだろうけれど、出自やキャリアと無関係でもないだろう。
勝手な印象でしかないが、この小説を書いて出演することで何かしら吹っ切れたのではないか。
清算、片を付ける、吐き出す、次に進む、といった印象を持つ小説と映画。
今や落ち着いてロサンゼルスに住み、「町山智浩のアメリカの今を知るTV In Association With CNN」で堂々と落ち着いている人に、こんな過去作があるのは、感慨深い。
セミナー、セラピー、自己治癒としての小説とか映画って、やっぱりいいな。

で、内容について。
正直いって文体は稚拙。でも渾身の表現だとは思う。
小説と映画の相違点に注意しながら読んだが、まあまあ似た筋書きだった。
たまたま並行してスティーヴン・キング「シャイニング」を読んで、あー確かにキング、キューブリックに切れて仕方ないわと思ったものだが、要は作品の核心を蔑ろにするかしないかで原作者の気持ちは動くのだろう。
もちろん本作の場合は共同制作の側面もあり、庵野の藤谷に対する好意もあっただろうから(邪推)状況は異なるけれども。
以下、映画とは違う点を箇条書き。

・名前と年齢がハッキリしている。人物設定もやや異なる。映画でいう彼女は、平岡純18歳。男=カントクは、小倉舞32歳。純は2年前に死んだ姉の恋人である三宅通33歳の部屋から、小倉舞の部屋へ。出会いは映画と似ているが、互いの名前が男みたい、女みたい、と笑い合う。
・純の父は純13歳のとき酔って死んだ。
・舞の職業は、バーのフロアマネージャー。
・もちろん舞台は宇部ではなく、都心部。
・列車の幻想を引き起こす(気味の悪い)車の男は、映画では唐突だが、小説では、純が男が本を万引きしたのを目撃したという挿話へ(芥川龍之介「三つの宝」なんでピンポイントでそれ?)。
・浮浪者のおじさん。
・母との関係は基本路線は同じだが、展開が異なる。母が頭痛薬を一気飲みして入院。舞の車で迎えに行き、母子喧嘩→母ナイフで刺す→舞母を殴る→純朦朧という、救いのない展開。

なんでも映画パンフレットにはこの小説が掲載されているらしい。
この原作小説の単行本は古書でプレミアがついている。
私は地元の図書館に、近隣の市の図書館から取り寄せしてもらって、読んだ。
「焼け犬」という短篇も収録されていて、僕(植戸)、高鉾(タカホコ)、エニコという少女の関係を描いた、なかなか独特な作品だった。

ちなみに、庵野秀明展の図録に載っている企画書やメモ、一読してみたがかなり面白い。
原作→企画やメモや脚本や→映画、の過程をもっとじっくり吟味してみたいと思っている。

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