たっこ

アート業界の隅でいろんな人生に出会っています。フリーランス。 好きな食べ物は、生牡蠣…

たっこ

アート業界の隅でいろんな人生に出会っています。フリーランス。 好きな食べ物は、生牡蠣、柿、馬刺し、鶏刺し、あん肝、だし巻き、ナポリピッツァ、茗荷。こうして見ると居酒屋メニューばっかりだなあ。お酒はそこまで強くないけど、人と飲むのは大好きです。

最近の記事

こころのなかに空席の椅子を置く ー『プリズン・サークル』の上映イベントから

 舞台上に椅子が6脚置かれている。  登壇者が緊張した面持ちで座るなか、そこには誰も座っていない空席の椅子があった。  「自分がここに座っているつもり聴いてください」  打越正行さんは、そう語り、アフタートークがはじまった。  2月。厚手のコートとマフラーで着こむなか、東京・町田市にある和光大学人間科学科の主催で映画『プリズン・サークル』の上映イベントがおこなわれた。  『プリズン・サークル』とは、TC(Therapeutic Community)という更生プログラムを行

    • ベランダで人生は交差している

       その家のベランダには、雨の日でも洗濯物が干してある。  しかも布団やリビングマットといった大物ばかりで、ベランダの柵をこえて、だらーんとかけられているものだから、いつもびちゃびちゃになっている。  ひとの家を直視するのはよくないと思いつつ、お隣のアパートの部屋なので、玄関に立つたびに視界に入ってしまって、やきもきする。  小雨ならともかく、台風くらいの大雨のなかでも布団を干したままだったときは「なにか事件にまきこまれたのかな…」と不安になった。でも部屋のあかりはついていて

      • 浮標を見つけて、2023年

         近所は新築戸建の建設ラッシュ。この一年で10軒くらいの立派な一軒家が解体されて、新しい家になった。築35-50年くらいの家が並ぶエリアだから、高齢になって家を売るひとが多いんだと思う。  一軒家が取り壊されたあとは、ほぼすべて二軒の3階建戸建になった。千鳥の大悟が、相席食堂かなんかの番組で「太2と細3」って言ってたっけ。妙に印象に残っていて、3階建戸建を見るたびに、心のなかで「細3」って唱えている。  解体の現場では、どこの国の言語か分からない言葉が飛び交っている。解体業

        • マニュキア、珈琲豆、ルーティーンのある人に憧れる

           生活にルーティーンがある人に憧れる。  いつも場当たり的に生きていて、忙しなく生きている気がする。  そういえば、義理のおばあちゃんと訳あって半年だけ同居していたとき、彼女は毎日おなじ朝ごはんを食べていた。牛乳入りの珈琲、トースト、塗るチーズ、シーザーサラダ、薄切りのハム。用意する方としてはすごく楽だったけど。  睡眠重視、朝ごはん抜きでドタバタと家を出ることが多いわたしからすると、とても丁寧な暮らしだなあと思う。  インスタで「#丁寧な暮らし」と調べると、それはそれは

        こころのなかに空席の椅子を置く ー『プリズン・サークル』の上映イベントから

          ミモザへの視線ーー「壁をこえて対話するために」

          築38年の家で暮らしている。 2年前に引っ越してきたのだが、そのときにはすでに庭の木が数本枯れていた。木にも寿命があるんだな〜と実感する。シロアリの巣になってしまうと困るので、がんばって根元から引き抜くことにした。 数ヶ月に及ぶ格闘の末、木はすっぽりと抜けた。 しかし今度は困ったことに、道ゆく人の視線が気になるようになってしまった。庭の隣は空き地になっていて、その奥に道路がある。その道路と家の床の高さが一緒で、外の人と目が合ってしまうのだ。 庭には灰色のブロック塀がある。

          ミモザへの視線ーー「壁をこえて対話するために」

          ダイニングテーブルと暗闇

          23歳まで過ごした実家を思い起こすとき、真っ先に思い出すのはダイニングテーブル付近の光景だった。 そのテーブルには、大量の書類が置いてあった。 レシート、ファックス、葉書、ダイレクトメール。さまざまな種類の紙が、山のように積み重なって机を覆い隠している。下にいくほど年単位で古くなり、地層のようになっていた。テーブルの下にも紙がたくさんあって、足を伸ばすことはできない。 天板には、ほんの少しの余白しかなかったので、とくに食事のときは苦労した。お皿が置ききれないときは書類の山に

          ダイニングテーブルと暗闇