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「許されようとは思いません」芦沢央

先日読んだ「悪いものが、来ませんように」が面白過ぎて、
しばらく芦沢央さんの作品にハマりそうな予感がしています。

「許されようとは思いません」は短編集で、やはりレビュー等の評価も高かったので購入してみました。全部で5つの短編が収録されていて、それだけでわくわくしてきますね。

というわけで、例によって以下は若干のネタバレを含む感想になります。
未読の方はご注意ください。



5つのお話の中で、一番印象に残ったのは「ありがとう、ばあば」
実力ある子役のマネージャーとして、孫娘の生活を管理する祖母が主人公のお話です。
主な登場人物は、祖母・母・子役の女の子の3人。
祖母と母は、女の子の教育を巡ってしょっちゅう対立しています。
幼い子供らしく自然に奔放に育てたい母と、芸能人として大成するようにきちんと管理していきたい祖母。

物語の冒頭は祖母が、雪の日のベランダに締め出される場面から始まります。女の子の仕事のために宿泊していたホテルの部屋で、ベランダに出たところを内側から鍵をかけられてしまうんですね。鍵をかけたのは女の子。

部屋は7階で、ベランダは海に面して見渡せる範囲に人影はなし。
雪の日の夜、高齢の祖母がそんな場所に締め出されたら死んでしまう。
祖母は最初、女の子はちょっとした悪戯で鍵をかけたんだと思い(というかそう思おうとして)、動揺を隠して鍵を開けるように言います。
が、女の子はその祖母の言葉が聞こえているはずなのに、一向に解錠しようとはせず、ただ黙ってこちらを見つめています。
寒さで命の危険も頭をよぎるなか、孫娘の真意がわからず追い詰められていく祖母。脳内にはこれまでの孫娘との記憶が蘇っていきます。

祖母の回想シーンで描かれる祖母と母の対立だったり、孫娘を無欠の女優に育てようとする祖母の言動を読んでいると、恐らくほとんどの読者はこの祖母に対して腹が立ってきます。なんでもっと子供らしく、伸び伸びと育ててあげないのかと。お母さんも、言いなりになってないでもう娘と祖母を引き離した方がいいんじゃないかと。そんな風に腹が立ってくる読者に、まさかの結末が待ち受けているんですね。短編らしい切れ味の鋭い作品でした。
構成を練り直して、孫娘が主人公の長編とか書いてくれたら最高に嬉しい。

僅か60ページくらいの短編で、そこかしこに伏線が散りばめられていました。伏線の張り方が巧いからこそ、最後の1行で衝撃と納得が同時にやってくる。作者も、自分で書いていてラスト1行に辿り着いたときは、心地よい満足感に包まれたんだろうな。

その他の4編に関しても、どれも面白かったです。
「姉のように」はミステリ色が濃く、こちらも最後に驚きが。
5つの作品の中で、短編という形式が一番合っているお話かなと思います。
表題作の「許されようとは思いません」は閉鎖的な村で起こった殺人事件の哀しい動機を探っていくお話。「絵の中の男」「目撃者はいなかった」もそれぞれ引き込まれるストーリーで、読み終えて大満足の短編集でありました。

2作続けて大満足なので、芦沢作品に対する期待度が途轍もなく上がっています。次は何を読もうか。本屋に行くのが楽しみです。

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