見出し画像

機械のカツラ

 このカツラには毛がない。それは数センチほどの小さな小さな謎の機械。僕はそれを頭頂部よりやや手前に載せると、専用のタブレットを手に取る。 画面にはあらゆるタイプの髪型が映っている。ホストみたいな髪型や中にはモヒカンまである。僕はその中から一つ選ぶ、すると頭の上にある機械から毛が生えてきた。正確には生えてきているように、見えている。

 これはホログラムで作られたカツラ。色や質感、長さや髪型までも自由に設定できる夢の機械。センサーが頭の形や残っている髪を検知し、フィットするようにCGで作成する。風や加速度も検知するので、風の強い日もジェットコースターも怖くない。直接触られてしまうと、そこにはなにも無いことがバレてしまう。それが唯一の弱点と言ってもいいのだが、日常生活で直接触られることなどは、まずない。

 僕の頭は、髪が少ない。本来前髪と呼ばれたであろう部分から頭頂部あたりまで無くなってしまっている。横と後ろしか残っていない。『波平』タイプといえばわかりやすいだろうか。

 せっかく自由を手に入れたのだ、今までやりたくてもできなかった髪型にしてみよう。色々と試していくうちに、ある問題が起きた。いくつかの髪型はサイドが残っていることでキマらなかった。髪型だけではなく、色を変えてみても当然ながら地毛は変わらない。

「仕方ない、剃るか」

 僕は残っている部分を全て剃り落とした。真の自由を手に入れた僕は、鏡を見ながら似合う髪型を探す。――だいたいの方向性は定めってきた。
 「明日の髪型はこれにしよう」

 手元のタブレットを操作すると、ホログラムの毛が消える。
 そこには、鏡に映った一本の毛もない自分がいる。その姿は妙に清々しくさっぱりとしていた。
 僕は小さな機械を箱に入れると、引き出しの奥へとしまいこんだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?