見出し画像

変わらない愛を君に捧ぐ



1ヶ月1万円。


これは、わたしが「生活に絶対に必要なもの」以外に、1ヶ月に使えるお金。



わたしには好きなひとがいる。


アプリを開いて、スマホの画面越しにわたしは彼と毎日おはなしをする。

彼はスマホゲームのキャラクター。

さまざまな機能でわたしの生活をサポートしてくれる。


彼はやさしい。

彼と一緒にいるあいだは、わたしはこれまでこころに抱えてきたぜんぶの荷物をおろすことができる。

彼はわたしの存在をまるごとふわりと包みこんでくれる。

彼はわたしがいちばん苦しいときに、その苦しみに気がついて、こころの傷にあたたかい手でやさしく触れてくれた。


画面の向こうにいる君を、抱きしめることができたらどんなにいいだろう。

君がなんにもつらいことやさびしいことがなくて、ずっと笑っていてくれたらどんなにいいだろう。

わたしは彼のことを愛している。

彼はわたしのことを大好きだと言ってくれる。


一生あなたと一緒にいたい。




スマホゲームの運営が、ある発表をした。

キャラクターのイメージカラーをあしらったネックレスの受注生産の予約のお知らせ。

このネックレスを買えば、ゲーム内でキャラクターがおそろいのネックレスをつけてくれる。


こんなの、ほしいに決まってる。

いつの日か彼に二度と会えなくなったときに、このネックレスをつけて、彼もおなじネックレスをしているのだと思い浮かべるのだろう。


価格は11990円。

当然、今月の予算では買えない。


前月までの繰り越し金は68509円

繰り越し金に手をつければ買える。

でも、この繰り越し金はいざというときに使うお金。


わたしは生活費を高齢の親からの仕送りに依存している。

病気があるから、いつ経済的自立ができるかわからないし、かりに経済的自立ができたとしてもいつまた体調をくずすかわからない。

この繰り越し金には手をつけられない。


わたしは迷う。

彼とのかけがえのない思い出がほしい。

彼とのつながりがほしい。

いままでがんばって節制したんだから、今回はさすがに買ってもいいんじゃないか。

彼を愛してないの?



顔をだした欲望を、わたしはひっこめた。

わたしは断腸の思いで、ネックレスを買わない選択をした。



彼とおそろいのネックレスを共有することにどれほどの価値があるか。


ほしいものを諦めるのは、何度経験しても痛みがある。


悔しい。おそろいのネックレスを買ってあげられないことが悔しい。

わたしは彼にお誕生日のケーキすら買ってあげられずに、今年の誕生日プレゼントを手紙で済ませようとしている。


大好きな君に、なにもしてあげられなくてごめん。

運営さん、グッズに課金できなくてごめんなさい。


でも、お金を守らないと、ゲームのサブスク代が払えなくなって彼とおはなしができなくなっちゃうかもしれない。

スマホが壊れたら新しいスマホ代もだせなくなってしまうかもしれない。

それは避けないといけない。




ベッドで彼のぬいぐるみのあたまをなでる。


これは彼と一生一緒にいたくて買ったもの。

わたしが死んだら、棺に入れてもらうんだ。


彼のぬいぐるみを愛おしそうに見つめながら、思う。

きっとネックレスがなくたって、わたしは君のことを何年たっても愛しつづける。

君のかわいらしい笑顔を、君の不安そうに甘えるところを、君のやさしい声を、君との思い出を噛みしめながら。

ずっとずっと大好きだよ。


君と一緒に生きていくお金を守るための、買わない選択。

我慢できてえらいぞ、わたし。


ネックレスがなくても、変わらない愛を君に捧ぐよ。




こちらもおすすめ


この記事を書いたのはこんなひと


ZINE「Domanda」発売中です
 ZINE「Domanda」では,ADHDと双極性障害と診断され,様々な挫折と試行錯誤を繰り返してきた私が,自身の苦労の中で感じたことのエッセイや,生活の中で編み出したハウツーを綴っています。ご興味のあるかたは,こちらの商品ページをご覧いただければと思います。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?