やる気教室第1話 勉強時間30分未満は「えらい」?
わたしは成瀬波 成瑠(なせば なる)、高校1年生。
わたしにはある悩みがある。
それは、勉強のやる気がでないことだ。
勉強がしたくても、勉強に手をつけることができない……。
高校受験のときから、受験生なのに勉強にとりかかれなかった。
県で有数の進学校である、ここ岩晴(いわはれ)高校に入学してからも、勉強のやる気がでず、毎日でる学校の課題をこなすのすらままならない。
勉強したいのにやる気がでなくて困り果てたわたしは、いまこうして学校の相談室のまえに立っている。
(相談室に行くの、はじめてなんだよな……。うう、緊張する……。いったいどんなところなんだろう……。)
わたしは「welcome」と書いてある札が下げてある扉をノックした。
……しかし返事がない。
もう一度強めにノックしたが、やはり返事がない。
「welcome」と書いてあるのだから、入ってもよいということだろうか?
中でほかのひとが話しているようすもない。
わたしはおそるおそる扉を開けてみた。
そこには信じがたい光景が目に入った。
白衣を着た相談員の先生と思われるひとが、ソファにうつぶせになってスマホにのめりこんでいる。画面にはネット麻雀の対戦画面が映しだされている。
「はあ!!? リーヅモメンチンチートイドラドラ裏裏!? これはやってるだろ絶対!!」
わたしに気づいていない先生は、なにかの呪文を唱えて肩を落とした。
「クソッ、またラスかよ〜っ。あのトイメンがアガらなければ2位だったのに。よりによってなんでわたしが親のときに……」
そう言いながらこちらを向いた先生は、わたしと目があった。
「…………。」
「げっ」
わたしに気づいた先生は冷や汗を流している。
「あっ、お取り込み中失礼しました……失礼します……」
「あっちょっ待って! いかないでぇ! 先生ちゃんと仕事するから! 勉強の悩みでも人間関係の悩みでも痴情のもつれでもなんでも聴くから! ほかの先生がたに報告するのだけはやめてくれ! どうかっ!!!」
先生はわたしを引きとめて、床に膝をついて両手をあわせすがるようにわたしを見ている。
「そんなこと言われても……ここ、相談室ですよね? そんなところで堂々と麻雀やってるひとに相談って……」
「ウッ、生徒に正論を言われた……」
わたしは眉をひそめながら、不信感いっぱいの目で先生のことを見ていた。
「まあまあそんなこと言わずに座ってくれよ。悩みがあってきたんだろ?」
「いや、やっぱり帰ります。失礼します」
「あっ」
泣きそうな顔の先生を尻目に、わたしは相談室を出て扉を閉めた。
相談室から引き返す道すがら、わたしはため息をつく。
「はあ……せっかくやる気について相談できると思ったのになあ」
「ちょっと待った―――!!!」
突然、後ろから叫び声が聞こえた。
振り向くとさっきの先生が走ってこっちにむかってくる。
「うわあ!! な、なんですか!?」
「君、いま『やる気について相談したい』って言ったね?」
「言いましたけど……ていうか、どこから聞いてたんですか!?」
「そんなことより、やる気のことならこのもぐちゃん先生に任せなさい!」
そう言って、先生は仁王立ちで胸を張っている。
「もぐちゃん先生はやる気の悩みについては詳しいぞ! なんてったって、もぐちゃん先生は『やる気がでない人間のプロ』だからな!」
(「やる気がでない人間のプロ」……って、それはもぐちゃん先生もやる気をだせていないということでは……?)
「さあさあ、そうと決まればはやくはやく!」
「あっ、ちょっと……!」
言われるがまま、わたしはもぐちゃん先生に手を引かれた。
さきほどの相談室で、わたしともぐちゃん先生は椅子に座り向かいあっている。
「それで、成瀬波 成瑠(なせば なる)君だっけ? 具体的にはどういったことで悩んでるんだ?」
「はい。わたし……勉強しなきゃいけないってわかっているのに、勉強したいのに、やる気がでないんです」
「ふむ。量としてはどのくらい勉強してるんだ?」
「うちの生徒の1日の平均勉強時間は平日3時間・休日5時間ですけど、わたしは……どちらも平均30分未満です……」
「平均勉強時間30分未満? えらいじゃないか!」
「……先生、バカにしてます?」
「そんなことはないぞ。少なくとも、勉強時間が0じゃないわけだ」
「でも、その勉強時間も、学校の課題をやってるだけですよ? その課題も〆切までに出せないこともあるし……。課題やるのなんて当たり前ですよね? わたしはその当たり前すらできてませんけど……」
「いいや、当たり前じゃないさ。なるは課題に取り組んでがんばってるよ」
「もぐちゃん先生! わたしがこまってるの、わかってないでしょ! ほかのみんなは平日3時間、休日5時間勉強してるのに、わたしは全然勉強できないんです。課題もきちんと出せていないし……。みんながんばってるのにわたしだけがんばれていなくて……わたし、がんばれるようになりたいんです!」
「大丈夫、もちろんなるがこまっているのはわかってる。そうだな、順を追って話そうか。まず、平均勉強時間は無視したほうがいいぞ」
「どういうことですか?」
「平均勉強時間って結局、自分じゃない他人との比較だろ? ひとと比べてどうすんだ。自分には自分にあった目標があるはずだ。30分勉強できないひとがいきなり3時間勉強することを目標にするのは無茶だ。まず30分勉強することを目標にして、できたら自分をほめるほうが建設的で有意義だと思わないか?」
「いやでも、やっぱり普通と比べて勉強していない自分に落ちこむというか……」
「『普通より下だからダメ』というのも、平均勉強時間によって思いこまされているだけだ。なるはなるにできる範囲でがんばれば、それで十分よくやってるんだよ。
それに、『がんばる』の大変さはひとによってちがうんだ。10時間余裕で勉強できるひともいれば、歯磨きすら苦痛なひともいる。
表面的な数字には表れなくても、見えないこころの中で苦痛とたたかってがんばってるひともいるんだ。そのひとがどれだけつらいか、どれだけ苦労して勉強に向きあっているかわからないのに、がんばりを勉強時間という目に見えるものさしで比べようという発想自体がナンセンスだ」
「それとつぎに、できない自分を責めることはやる気をだすうえでマイナスにしかならない。できない自分を責めたところでやる気がでた試しがないだろ?」
「そう言われても自分を責めずにはいられないです……。『ちゃんとしてよ、わたし!』って。でもたしかに、それでちゃんとできたことはないですね……」
「自分を責めても自分のことをきらいになるだけだ。やる気の基本のき。できないことを責めず、できたことをほめるんだ」
「でも、もぐちゃん先生……」
「ん? どうした?」
「わたし、やっぱり自分のことがいやなんです。先生には課題をやってこなくて叱られるし……。友達にも、『また課題サボったの?』『もうちょっと頑張りなよ』って言われるし」
「はあ……先生がたも、叱れば問題が改善すると思いこんでる。がんばれなくてこまっているひとに必要なのは叱責じゃなくて問題解決だ。
それにその友達もチクチク言ってきてムカつくなあ。まあ、高校生だから無知で幼くてもしかたがないが。なる、叱られるのも小言を言われるのも気にしなくていいぞ」
「いえ、わたしがわるいんです。わたしががんばらないから。友達に聞いたんです、『どうすればやる気がでるの』って。そしたら友達は、『やる気がなくてもやってる』って答えました。結局、やる気を言い訳にして怠けているわたしがいけないんです」
「なる、それはちがう! なるは怠けてなんかいない!」
「もぐちゃん先生……?」
「いいか、これはもぐちゃん先生がいのちをかけて保証する! なるは絶対、怠けてなんかいない!」
もぐちゃん先生はいままでになく真剣な表情でわたしに訴えかけている。もぐちゃん先生は本気みたいだ。
「そもそも、やる気を意志の問題にしてはいけないんだ。やる気がでないのにはちゃんとしたメカニズムがある。なるがもしがんばりたいのにがんばれないのなら、それはなるが怠けているからじゃない!」
「やる気がでないメカニズム……?」
「そうだ。なる、やる気がでないとき、こんな状態に心当たりがないか?」
「これ……! わたしのことだ……! すごくわかります……!」
「こういう症状がでているとき、脳が不具合を起こしているんだ。怠けているんじゃなくて、脳がやる気をだしにくい状態になっているんだ」
「さて、じゃあやる気がでないメカニズムについて話していこうか。
やる気がでない原因には
の3つがあるんだ。
まずはそのうち、1と2について解説するぞ」
~次回へつづく~
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