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生活費を占める大きい支出は? 家計集計の記録から考える

 みなさんの生活費の中で一番大きな支出は「住居」にかかわる費目でしょうか。大学生のいる場合は、教育費が家計全体の3分の1を占める家庭もあるでしょう。婦人之友社の「家計簿をつけ通す同盟」の記録から支出の多い費目を振り返ると、社会保険料と税金の変遷が見えてきます。

生活費の支出ランキングの変遷

 戦後の超インフレ下で「家計簿をつけ通そう」と雑誌『婦人之友』読者を中心に発足をした「家計簿をつけ通す同盟」。その74年間の記録を見返すと、集計をはじめた1947年の純生活費合計は3,811円。そのうち食費は1,878円で断トツの1位です。エンゲル係数は49%です。
 生活費の上位を占める費目5つを、社会保険費の集計が記載されるようになった1957年から2020年まで表で見てみましょう。下の表は支出額が多い順に費目を並べたもので、1段目が一番多い費目です。1980年まで食費が第1位をしめています。

家計簿をつけ通す同盟74年(給料生活者)の記録から

 1964年に東京オリンピックが開催されました。昭和30年代は、生活の安定の基盤として「自分の家を持ちたい」という人が増え、住居・家具費の支出額は第2位となりました。1972年には支出の第1位になり、しばらく住居・家具費と食費が抜きつ抜かれつ1位を争う時期があった後、1981年以降は長い期間にわたって住居・家具費がほぼ第1位です。

 食費は次第に順位を落とし、代わって上昇してきたのは教育費です。大学進学率は1960年代に約1割だったのが、1980年代から高度技術者など大卒者の需要が高まり、2009年以降には5割を超えました。このような社会背景を反映した数字でしょう。
 教育費の内訳の3割ほどが「遊学費」。これも金額を押し上げている一因となっています。

少子高齢社会を背景に、社会保険費が増加

 表を見ると、2005年頃から社会保険費の上昇が目につきます。家計簿をつけ通す同盟の集計の記録では、社会保険費は2003年に第3位となり、2013年に第2位、2015年、2017年、2018年と第1位となっています。

 実際、社会保険料の従業員負担分は上がり続けています(下表)。厚生年金の保険料にいたっては、2004年から17年にわたって毎年0.177%ずつ引き上げられています。

『婦人之友』2018年12月号「親子で考える 膨らむ社会保険料のゆくえ」より

 社会保険料が増大する背景とは? 『婦人之友』2018年12月号掲載の「親子で考える 膨らむ社会保険料のゆくえ」の記事の中で慶應義塾大学経済学部教授・井手英策氏(財政社会学)は、「年を追うごとに暮らしが厳しくなる。増税なんてとんでもない。(略)この納税者の心理を示しているのが社会保険料の増大です。」と指摘しています。日本の、先進国の平均的な税や社会保険料の負担よりも軽い現状に触れながら(ちなみにEUに加盟している国は、消費税を最低でも15%にすることが義務付けられています)、「社会保険料の場合、払える人たちが得をするしくみです。僕は貧しい人も一緒にみんなで税を払い、お金持ちも含めてみんなの暮らしを保障しあう『頼りあえる社会』をみなさんに提案したいと思います」と仰っています。

年代によって異なる、支出の順位

「家計簿をつけ通す同盟」の集計の話に戻ります。2020年の集計を年代ごとに見てみると、年代によって支出の順位が異なることがわかります。
 1984年と比べても、住居・家具費社会保険費が家計の多くを占めるように変化したことがわかります。

家計簿をつけ通す同盟 2020年の家計集計(給料生活者)
家計簿をつけ通す同盟 1984年の家計集計(給料生活者)

 家計簿をつけていると、社会情勢の変化が家計に表れることがわかりました。家計簿をつけている人は、ぜひ、集計を活用して「わがやの支出費目ランキング」を作って、支出に占める割合にも注目してみてください。家計の目を通して社会を見つめ、社会の目で家計を見つめると、新たな発見があるかもしれません。

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