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家計の基礎として「収入一年分の準備金」を

 羽仁もと子は、『羽仁もと子著作集』(婦人之友社刊)の中で、「家計の基礎として、1年分の収入を用意しておきたい」と書いています。現在はコロナ禍、そして失業や減収など不測の事態になった場合にも、こうした準備金があると、慌てずにゆとりをもって対処できるはずです。

「現在の収入の一年分を準備して持っていれば、私たちはその金額で現在の一年を暮らしていきたいと思います。」

 すなわち去年の収入で今年暮らしていくというのと同じことになるのです。商売をしているならば、去年一年の純益から割り出した金額で、今年の生活の標準をさだめ、今年の純益の精算ができたところで、また来年の生活費を、そのうちできめるということになるのです。 
 月給取りは、いつどういうことで、自分の位置に変動があるかもしれません。それだのに、月々たしかに月給が取れるものとして、まだ取らない先の収入をあてに、予算をつくるのは不安心です。去年中にすでに受け取ってしまった収入だけの金額で、今年一年の生活法をたてるようにしていれば実に確実なものです。

 また一時職を失うことがあっても、一年分の生活の保証はあるわけになります。そういうわけですから、どうしてもこうしても新家庭をもつ人は、収入一年分の用意はしなくてはならないと思います。

 もし一年間全然収入がなかった翌年は、もちろん食べずにいるわけにいきませんから、やむを得ず現在の収入によって生活していくにしても、一年間の収入をいつも準備金として持っていることを原則としていれば、できる限りの節約をして、だんだんに準備金をつくっていくように、いろいろな工夫も努力も克己もする気になるものです。そうして、まず一と月分をのこし得たならば、その家では去年の収入で暮らすことが出来ないけれども、前月の収入で今月暮らすことが出来るようになったのです。さらにまた克己して、いま一と月分をあまし得たならば、二ヵ月前の収入で暮らすことになり、事情によって幾年かかるかしれませんが、とにかくだんだんに三ヵ月分の準備金はある、半年分の準備金があるというふうになっていくでしょう。新家庭でなくても、今までよい準備のできていなかったお家では、克己してまず先月の収入で今月暮らすところからでもはじめていきたいと思います。

羽仁もと子著作集 第9巻『家事家計篇』第1章 家庭経済の出発点と到着点

一喜一憂しないために

 新型コロナウイルス感染拡大は、働く場に大きな影響を与えました。2020年、就業者数は8年ぶりの減少で、前年に比べ48万人減少しています。正規か非正規かで、増減を見ると、正規の職員・従業員数は、前年に比べ36万人増加(男性・3万人増、女性・33万人増=医療・福祉関連)。飲食・宿泊業は非正社員が多いこともあり、非正規の職員・従業員数は75万人減少(男性・26万人減、女性・50万人減)。一方で、新型コロナウイルスの感染問題を機に、「ギグワーク」(ネット経由で単発の仕事を請け負う)が、増えているのは、こうした減収を補おうとする一面もあるのかもしれません。
 コロナ禍や大震災など、予測できない事態に見舞われても慌てないためには、貯蓄は大事ですね。

 2021年10月20日公開の記事は、「預貯金を予算にとりましょう」です。こちらも合わせてお読みいただいけるとうれしいです!

羽仁もと子とは、どんな人?

 1873年、青森県八戸生まれ。1897年、報知新聞社に校正係として入社。その後、日本初の女性記者として、洞察力と情感にあるれる記事を書く。同じ新聞社で、新進気鋭の記者だった吉一と結婚。1903年4月3日、2人は「婦人之友」の前身、「家庭之友」を創刊。創刊号の発売前日には長女が誕生し、自分たちの家庭が直面する疑問や課題を誌面に取り上げ、読者に呼びかけ響き合っていった。1930年に読者の集まり「全国友の会」が誕生した。最晩年まで婦人之友巻頭に友への手紙を書きつづけ、そのほとんどが著作集全21巻に収録されている。
 婦人之友では、2021年1月号より、森まゆみ氏による「羽仁もと子とその時代」を連載中です。

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