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中小企業の怖さ

先日、実家に帰省した。
62歳になる父は18歳から40年以上勤めた会社を早期退職するという。
冗談も交えながら父は、
「仕事がなくなったらなにをしようか考えている」
という。
私は父に、
「長いこと死に物狂いで働いたんだし、好きなことをしたら?」
などと軽く返した。

父は幼いころに兄を亡くし、本来は次男の立ち位置であるはずなのに長男としてそだてられてきた。
昔の詳しい話は父から聞くことはなかったが、その時代の長男の役割は重く、親からの期待も大きかったのだろうことは想像にたやすい。
ここからは勝手な想像も含むが、父の弟は大学も出ており、いわゆる”ガリ勉”タイプ。
父は逆に柔道など、スポーツに打ち込み、工業系の学校も出ている割と体力で乗り切るタイプであり正反対。
そんな父の兄弟関係はややぎくしゃくしているのが息子の私からも見て取れた。
祖母は大卒である父の弟に大きな期待を込めていたのかもしれない。

父は製本会社に現在まで勤めており、会社への愛、仕事人間っぷりは今までに類を見ない。
幾度となく転勤を繰り返し、私たち子供の反抗期を経て、現在までよく母と二人三脚でやってきたな、と思う。
二人三脚で、といえば母に怒られると思うが。
というのも父はほとんど家にいない印象しかない。
私の兄や弟がグレてしまって、問題を起こしたときも常に母が対応していた。
男三人の真ん中である私はさほど大きな”ワル”と呼ばれることを起こすことなく過ごしており、どちらかというと陰湿なタイプ。
母も男三人をこれまでよく育てたなと、親になった今になって関心する。

父の退職の話を聞いたとき、父が居ない席で母は、
「父さんはいままで会社に尽くしてきて、今の社長によくない扱いを受けていてかなりストレスを感じているとおもう。だから、完全に会社(仕事内容)からはなれたことで好きなことをしてほしい」
という。
なんだか、今まで父を擁護するような発言を聞いたことがなかった母からこのような発言を聞くと、私としては驚愕であった。
父は前社長に気に入られていたようで、ひいきにしてもらっていたとのこと。
それはそうだ。
父ほど会社に奉仕したものはいないと思う。
常に会社のことを考えていて、休日も仕事のことを頭に置いている。
休日なんてなかったのではないか、と思わせるほどだった。

そんな父が、早期退職して、好きなことをする、という。
その理由は、新しい社長と合わないこと。
前社長は父の勤労っぷりをしっていたためか、ひいきにしてくれたが、現社長にはそのようなことはなく、むしろ煙たがられるという。
そこまでの経営者側に豹変があっていいのか、と感じたが、そうなってしまったものは仕方ない。
仕事一本の父が、今までしていたことと全く関係のないことで年金に頼らず生きていく、ということはよっぽどの退職金がない限り不安でしかない。
医療者従事者である母は父が認知症にならないか、と不安がっている。
可能性はなくはない。
むしろならないでほしいと少し私もあせる。
今まで人生の9割といっても過言ではない仕事を無くしてしまった父のこれからの第二の人生をどう過ごすか。
そんな重たい問題に少し関わった。
父は
「どうしよう、なにがしたいのかな?」
と、自分のことなのに迷っている。
そのようなことをおそらくは今まで考えてもみなかったのだろうな。
私がちからになれればしてあげるつもりだが、私は今の妻のところに養子にいっている身分でもあるため十分な援助ができるかどうか。

父は私とよく似ている面がある。
私は正直、父ほど仕事に打ち込むタイプではない。
会社に尽くしたいであるとか、上昇志向があるわけでもない。
しかしながら、私の一人の時間を大切にするところ、生き物が好きであったり工作がすきなところは、ほとんど父からの遺伝的な影響を感じている。

なんだか、
モヤモヤした気持ちで過ごした帰省だった。

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