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クリスマス カウントダウン #7 ゆきのまちかどに

私は青色が好きである。
藍色、濃紺などの深い色から
スカイブルー、まさに晴れ渡った青空のような明るい色までさまざまだが、時に心を穏やかにし、時に明るく前向きな気分にさせてくれるさまざまな青色どれもが好きである。

この絵本はまず、「色」に強く惹かれた。
表紙の絵であるが、雪降る夜の暗闇が街灯の灯りにより霧がかかったような色となり、あたたかみのある濃紺を演出している。
ページをめくるとこれまた霧がかかったようなスモーキーな感じの色で人物の表情が細部まで丁寧に優しいタッチで描かれており、絵を見ているだけでもしあわせな気分になり、癒やされる。

クリスマスが近づいたある日の夕暮れ
小猿を連れたオルガン弾きの老人と少女の出会いによって物語は始まる
街角に立つオルガン弾きの老人を近くに住む少女が窓から眺めている
小猿はオルガンの上でブリキのカップをさしだし、道行く人々からコインをもらっている
少女はお母さんに聞く
「あのひとたち、よるは どこへかえるの?」
お母さんは少女がクリスマスに教会で行われる聖劇で演じる天使の衣装作りに忙しく、かまっていられないといった様子
それでもオルガン弾きと小猿が気になって仕方ない少女
夜、ベッドを抜け出し、窓辺へ向かう
まだそこにいたオルガン弾きと小猿
少女は小声でささやく
「こっちをむいて。わたしをみて。」
気づいたオルガン弾きは少女に手を振る
翌朝、自身の質問の答がわかった少女はお母さんにオルガン弾きと小猿を家へ招待し晩ごはんを共にしたいと伝えるも、よい返事はもらえず
やがて教会へ向かう時間となる
教会へ行く前に少女はオルガン弾きのところへ駆け寄る
「わたし、これから教会でクリスマスのおしばいにでるの。てんしのやくよ。セリフもひとつあるの。見にきてちょうだい」
オルガン弾きは少女にほほえみかけるも、その目はかなしげである
聖劇がはじまり、少女の出番がくる
しかし舞台に立ちつくし、ことばがでてこない
しんと静まり返る中、後ろの扉が開き、中にはいってきたのはオルガン弾きと小猿
その姿を見た少女の顔はパッと明かりがついたかのように明るくなる
にっこりして大きな声でよびかける
「うれしい おしらせです。
よろこびを おとどけします!」
劇が終わり、皆で会食を共にする
どの人も明るい笑顔に満ちている

物語のラストシーン
オルガン弾きと小猿が教会に現われた場面
かすかな光の中でその表情はぼんやりとしか見えないのだが、その目は悲しげではない。
その目は少女をしっかり捉えている。
抱きかかえられた小猿の目もまた前を見据えている。
その力強いまなざしに応えるかのように、少女の目は光り輝く。
その輝きはまるでベツレヘムの星のようである。

オルガン弾きはホームレスであり、弱者という立場にあるのだが、この時ばかりは少女を救うヒーロー、救世主である。
その堂々とした風格を感じさせるたたずまいに胸を射抜かれた。

誰もが誰かのヒーローになれる。
誰もが輝く星となれる。


そんな希望を感じさせてくれる。
またひとつ大切な作品に出会うことができた。
クリスマスが来るたびに読み返したい素敵な絵本である。


「ゆきのまちかどに」
 ケイト・ディカミロ 作
 バグラム・イバトーリーン 絵
 もりやま みやこ 訳
 ポプラ社刊








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