#16 KJR物語 ~Origin~
春の声がした。
それは、毎日痛いほど寒かった朝が少し楽になったこと。
それは、目が痒くなり、鼻が詰まり、息をする事が当たり前じゃないと実感させられること。
それは、煩わしい厚手のアウターを着なくてすむこと。
それは、SNSでそれぞれの思い出が詰まった友との写真と文章を見かけ、青春を思い出すこと。
それは、新たなスタートに期待と不安で胸がいっぱいになること。
そんなところから感じる。
暖かいが、どこか切ない。
そんな声がした。
気付けば春です。
読者の一部から続編は?との問い合わせがちょこちょこ寄せられるので、
下書きしたまま凍っていた文章を解凍して、この最初の文章だけを書いて、
投稿しました。
いつ書いたかも覚えてないけど、ちょっと今回重たい感じですね。笑
ご了承ください。
そんな続編です。
第六話 運否天賦
蛙、高校3年の春。
高校ラストシーズンは思いがけない展開で幕を開けた。
左膝半月板損傷。
そして手術。
約半年間の戦線離脱を強いられた。
(詳しい事は「#3 一番辛かったこと」に書いてあるので、興味ある方はご参照下さい)
時は流れ、夏。
インターハイを終えた蛙は、後期のリーグ戦を闘っていた。
しかし、チームは決して上手くいってはいなかった。
怪我人が続出していたのだ。
普段7人程座るリーグ戦のベンチにはGKとフィールドプレーヤー1人の計2人だけという、漫画の弱小校みたいな事態が発生するほどチームは怪我人で溢れていた。
無論。蛙も怪我人リストに常駐していた。
元々怪我をしにくいタイプだったが、膝の手術からバランスが崩れた身体は様々な箇所にトラブルを抱えていた。
一年に20試合弱あるこの年のリーグ戦には3試合程しか出場できないほどに怪我が止まらなかった。
選手権を目前に控えた秋。
今まで経験したことない屈辱的な試合の敗戦後、3年生のみでのミーティングが行われた。
なぜ勝てないのか。何が問題なのか。一人一人が、提起された答えのない課題に思い思いの回答を投げていく中、蛙は押し黙っていた。
最後にキャプテンに話を振られるまで。
しばらくの沈黙の後、蛙は重い口を開いた。
「お前らから本当に試合に勝ちたい気持ちが感じられない。もうお前らとサッカーしたくない。」
周りからはきっと「なんだこいつ。」と思われたと思う。(私も思う。笑)
伝えたい事は「もう一回気持ち切り替えて頑張ろう」だったが、なんでこんな言葉選びになったのかは私だけが知ることだし、周りからは関係がないのだ。
そこで発された「お前らとサッカーしたくない」という言葉が、みんなにとっての全てだった。
その後監督にも呼ばれた。
ミーティング内容は当時の若いコーチが聞いていたので、きっと監督にも伝わったのだと思う。
監督は諭すように優しく話してくれた。
だがこの時、不安定だった蛙に言葉が届くことはなかった。
一時間程で話を終え、誰もいなくなったグラウンドで一人シュートを打った。
ボールが見えなくなる程に暗くなってから、崩れるように横たわり空を見上げた。
(こんな漫画の主人公みたいな恥ずかしいことを私は平気でよくやっていました笑)
自然と涙が溢れた。
蛙は昔からとことん泣き虫だった。
先生に怒られたり、試合に負けたり、事あるごとによく泣いていた。
先生は怖いし、負けたら悔しいし、だいたい泣く時は決まってネガティブな感情の時だった。
しかし、この時は違った。
誰もいなかったはずのグラウンドに横たわる蛙の横に、一人の部員が座った。
何か言葉をかけるわけではない。
元気づけようとするわけでもない。
ただ横に座っていた。
蛙は高校時代、あまり他を寄せ付けないように振る舞っていた。自分には才能が無かったから、周りと同じペースでやっていては上手くなれない。のし上がっていけない。
そう考えていたからだ。
だから、正直部員の中に親しい友達は片手で数えられる程しかいなかったと思う。
だけど、みんな仲間だった。
苦楽を共にし、一つの目標を目指した。
間違いなく、仲間だった。
身も心もクタクタになって、空っぽになってからそんな当たり前の事に気づいた。
自分のことばかりで忘れていたことに気づいた。
隣に座った仲間のおかげで。
仲間がいる。
某海賊漫画の名シーンのようにこの瞬間に大事なことを再認識できたことが嬉しくて、涙が出た。
「なんかありがとね」
「全然」
この時の会話は帰る前のこれだけだった。
冬。
全国高校サッカー選手権大会
全ての高校サッカー部員にとっての全て。
ここが最終地点。
蛙も広島県大会を無事勝ち抜き、全国一回戦を迎えていた。
当時のチームはそれなりに前評判も高く、何より自分自身がチームに自信を持っていた。
大会前の全国の強豪校との強化試合も良い結果を重ねていたのがその理由だと思う。
日本一も本気で狙える力はあったと思う。
だが、勝負は時の運。
運は天の定めによるもの。
蛙のチームは、一回戦で姿を消した。
試合終了のホイッスルの後、いつもなら大号泣するはずだったが涙は出なかった。
感情がどこかに飛んでいったようだった。
あまりこの時のことは覚えていない。
綺麗に記憶が抜け落ちているのだ。
覚えているのは、インフルエンザでベンチに入れなかった幼馴染のマネージャーが泣いてる顔を見て、なんか泣いてしまったこと。
センター試験を控えながら、地元から応援に駆けつけてくれたメンバー外になった3年生の顔を見てなんか泣いてしまったこと。
その日の宿舎の夕ご飯がカツで、なんか気まずい思いをしながら食べたこと。
そのくらいだ。
「負けたことがあるというのがいつか大きな財産になる」
私の大好きな漫画の名言だが、
勝っていた方が絶対に大きな財産になるし、
正直この敗戦からは何も得れていない。
あいつ嘘ついてんなー。
蛙はそんな事を、帰りの新幹線で考えながら窓の外のうつろう景色をぼんやり眺めていた。
大事な何かが壊れた気がした。
TO BE CONTINUED
P.S.花粉症のせいで春嫌いなんですけど同士おる?個人的に春と秋どっちもアレルギーでやられるので、周りが生き辛い夏とか冬とかの方が比較的のびのび生きれます。いや、もはや春と秋嫌いです。春と秋好きってやつも嫌いです。
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