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伊坂幸太郎のデビュー作 「地上から数センチ浮いた日常だ」

このnoteは、本の内容をまだその本を読んでない人に対してカッコよく語っている設定で書いています。なのでこの文章のままあなたも、お友達、後輩、恋人に語れます。 ぜひ文学をダシにしてカッコよく生きてください。

【伊坂幸太郎の作品を語る上でのポイント】

①経歴を語る
②キーワードを使う
③登場人物のリンクを指摘する

の3点です。

①に関して、伊坂幸太郎は東北大学を卒業後システムエンジニアとして働いていたため、彼の作品には「宮城県」や「システムエンジニア」というワードが度々出てきます。そこを指摘することで博識だと思われます。

②に関して、伊坂作品は「地上から数センチ浮いた日常」を書いていると表現されます。この表現を、さも自分で考えた言葉かのように言うとカッコ良いです。

③に関して、伊坂作品の登場人物や舞台設定は、複数の作品にリンクしていることが多々あります。「その登場人物は別の小説にも出てくる」と言うことで読書の幅を見せられます。


○以下会話

Chaptersのお客様へ
ここからは存分とネタバレが展開されます。Chaptersのお客様は、本を読んでからの方がお楽しみいただけるかと思いますが、読んでから選ぶというスタイルもありますね。お任せ致します!

■地上から数センチ浮いた日常

 「スカッとできる小説か。そうだな、そしたら伊坂幸太郎の『オーデュボンの祈り』がオススメかな。この小説は、伊坂幸太郎のデビュー作なんだ。デビュー作ではあるんだけど、読みにくさとか、ここが弱いなとか、足りない部分が見当たらない、クオリティの高い作品なんだ。そして伊坂作品の特徴である「地上から数センチ浮いた日常」の物語をしっかりと描いているんだよ。デビュー作だよって言われなければ気がつかないと思う。今や超人気ミステリー作家になった伊坂幸太郎の、初々しさを感じさせないクオリティの高い作品なんだ。

■鎖国された島

ミステリー小説だから、ネタバレはできないけれど大体のあらすじだけさらうね。

『オーデュボンの祈り』は、元システムエンジニアでたった今コンビニ強盗をした28歳の伊藤が、目を覚ましたら見知らぬ島にいた、というところから話が始まるんだ。この島は日本ではあるんだけど、江戸時代から外の世界との関わりを絶っていて、島の住人は一度も島の外に出たことのない「鎖国」をしている島だったんだよ。そこには、未来が見える喋るカカシがいたり、殺人を許された人がいたり、嘘しか言わない画家がいたり、常識では考えられない人が暮らしているんだよ。

伊藤は一体何が起きているのか、この島が何なのか理解できなかったけれど、犯罪をおかしている身寄りのない自分を省みて、この島のことを頑張って受け入れようとしたんだ。そんなある日、未来が見える喋るカカシがバラバラになって「殺されて」いたんだ。伊藤は、未来が見えるカカシが、なぜ自分の死を阻止できなかったか疑問を持って、この島の秘密を探って行くことにしたんだよ。そんなお話なんだ。

■信頼できる主人公

この小説の魅力は大きく4つあるんだ。

1つ目は、主人公への信頼。『オーデュボンの祈り』は、目を覚ますと見知らぬ土地にいて、そこは住人が一度も島の外にでたことのない「鎖国」の島だった、という設定から物語が始まるよね。他にもカカシが喋ったり、殺人を許されてる人がいたり、「地上から数センチ浮いた日常」を描いてる小説にはたくさんの不思議な設定が出てくるんだよ。読み手の僕らとしては、どうしても「え、どういうこと?」って気持ちになるんだ。

小説を書いてる作者の立場としては、ちょっと変な設定でも、登場人物に「カカシも喋ることあるよね!」って言わせれば、ここはそういう世界なんですって丸め込めることもできるんだよ。

だけど『オーデュボンの祈り』の主人公伊藤は、めちゃくちゃまともな感覚の持ち主で、僕らが引っ掛かるような疑問に「カカシが喋るってどういうこと?」って毎回引っかかってくれるんだ。この生真面目な主人公の感覚を信頼できるから、読み手としては安心してページをめくれるんだよね。置いてきぼりにならない。

これはかなり伊坂幸太郎の優しさが出てると思うんだ。ミステリー小説の中には、凝ったトリックを作るのを優先して無理のある設定になっていて、「なんだその設定」って突っ込みたくなる小説も結構あるんだ。だけど、『オーデュボンの祈り』では、少し飛んだ設定には必ず主人公が「なにそれ、どういうこと?」ってまともな感覚で突っ込んでくれるんだよ。

だから例え変なことが起こっても、安心して主人公の一歩後ろをついていって、主人公と一緒に問題を解決していくことができるんだ。一緒にお化け屋敷に入って、暗くて不気味なものがたくさんあるけど、手を握って時々後ろを振り返りながらリードしてくれる感じ。

■離陸する飛行機

2つ目は、滑走路を走るような期待感。この小説は話の中でとにかく色んな疑問が出てくるんだよ。あちらこちらに伏線のように思える仕掛けがあって、読み進めていると「これ本当に全部回収できるの?」って不安になるくらいなんだ。「〜という夢を見た」みたいな、いわゆる「夢オチ」は勘弁してねって半ば祈る気持ちになるんだよ。

不安を感じながらページをめくると、急な展開が起きてドキッとして、残りのページ数を確認して心配になって、段々と全貌が明らかになってワクワクして、最後は綺麗に納得させてくれるんだ。『オーデュボンの祈り』を読むことは、飛行機が離陸する時の感覚に似てるんだよ。

キャビンアテンダントの顔は穏やかで周りの乗客もリラックスしてる。僕も当然の顔してゆったり本でも読もうとするけど、やっぱり少しの緊迫感がある。「本当に飛ぶの?」、「ちゃんと目的地に着いてくれるの?」。そんな僕の気持ちは無視して飛行機は動き始めて、徐々にスピードが上がりがら滑走路を走っていく。ガタガタと機体が揺れはじめてジェット噴射もしてる。唾を飲んでお尻の穴をキュッと閉めて、でも顔は無表情で、ぐうっと重力を感じて、うわんと飛ぶ。心臓がはやく打つのを感じながら、窓の外をみて「あ、飛んでる」と、高揚と安心を感じる。

『オーデュボンの祈り』の読書体験は、まさに飛行機の離陸の時の緊張感があるんだ。

■スッキリスカッと

3つ目は、勧善懲悪。スッキリスカッとさせてくれる小説は、やっぱり読後感が良いよね。小説は、いろんな感情にさせてくれるメディアで、時には嫌な気持ちになったり、気分が下がったりすることもあるんだ。その点『オーデュボンの祈り』は、決めるところはしっかりと決めてくれて、納得感がある終わり方をしてくれるから、スッキリした気分になれるんだよ。

小説は、言ってしまえば虚構の物語な訳で、そんな虚構に振り回されて、僕らの大切な実生活が暗くなったりするのは、やっぱり避けたいよね。『オーデュボンの祈り』に限らず、伊坂さんの作品はスッキリと前を向かせてくれるものが多いと思う。ここもきっと伊坂幸太郎が人気な理由のひとつなんだろうね。

■他の小説にも出てくる人物

そして最後、伊坂幸太郎の作品全体の魅力として、登場人物が複数の作品に横断的に登場するという点があるんだ。例えば今回の『オーデュボンの祈り』で出てきた主人公の伊藤をはじめとする登場人物たちが、伊坂幸太郎の他の小説でも出てくるんだよ。

例えば『オーデュボンの祈り』の2年後に出版された『ラッシュライフ』には主人公の伊藤が登場していて、アルバイト先の店主に「経歴が怪しくてね、昔はシステムエンジニアをやっていたと言うが、警察にお世話になったと言う噂もあった。」と言われているんだ。「あ、これ『オーデュボンの祈り』のことじゃん!」って思わせて、人に共有したくなるワクワク感があるんだよ。伊坂作品を読むたびに「この小説には誰が出てくるんだろう」って期待感があって、宝探しをしているような楽しさがあるよ。読者を離さない戦略としてすごい上手。

『オーデュボンの祈り』は、トリックが楽しくて、スッキリできて、他の伊坂作品にも触れたくなる優れた小説なんだ。あまり読書をしてない人でも気持ちよく読めると思うから、ぜひ読んでみて。」

このnoteは、本棚で手と手が重なるような、偶然の出会いを生み出す書店「Chapters」で選ばれた小説を取り上げて書かせて頂きました。
2021年2月の選書にて本作が紹介されていますので、この本が気になる方、そしてすでにこの本が好きでたまらない方も、Chapters覗いてみてください。
また、以下のnoteも「Chapters」で紹介されている小説を取り上げて書いたものです。合わせてご覧ください。


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