【ラジオドラマ】イフェイオン

*展示してある原本をそのまま載せています。
*Webサイトに合わせて多少見やすくしています。

イフェイオン

嘉島かじま


○→ナレーター(俺が主体、俺以外は都度記載)

健斗→主人公、武蔵原健斗むさしはらけんと、男、高校一年生

幸太→俺の親友、笹木幸太ささきこうた、男、高校一年生

クリスト・D (ドラム)・ハーツ→英国人、男、アビスの隊員(上位層・強い)

バルドル→セメンタリーの一人、男、強い、(クリスと互角)

九重ここのえ→アビスの最高責任者など肩書き多数、三十代後半、男、良く徹夜する

ボス→セメンタリーの最高位、男、存在だけは確認済それ以外何も分からない

?→ボスの側近、二十代後半、男、冷酷、無慈悲

父→健斗の父、愛妻家、四十代後半、温厚

母→健斗の母、ぎりぎり四十代前半、ポジティブ、気が強い

サブキャラクター↓

警官①→新人、男、怠け癖なまけぐせあり、いつも中途半端、二十代前半

警官②→ベテラン、三十代、男、極秘でアビスと関係している、生真面目

モブ①→四十代、おばさん、噂好き、ご近所のリーダー枠

モブ②→四十代、おばさん、噂好き、ご近所さんのNo.2

担任→五十代、男性、妻子有り、人当たりは良い、白髪混じり

SO①→男性、二十代、最近の悩み:視力が落ちてきた事

SO②→女性・二十代、最近の悩み:彼氏ができない


●→メモ・状況説明など。参考程度に。


●(作者より)今回、ラジオドラマと言うよりもドラマCDに近いものとなっています。大人と言うよりか若者向けに作りました。ラジオドラマやドラマCDに興味のない人、よく分かっていない人に少しでも面白いと思って頂けたらと思っています。


あらすじ

 一般的で平和な学生生活を送る武蔵原健斗むさしはらけんととその親友笹木幸太ささきこうた。しかし、最近多発している、ある事件に親友が巻き込まれてしまう。その犯人として警察に連行されてしまった健斗。そこで、目にした少し現実離れした裏の世界。それは罪か美徳か。様々な思考が交差する群青劇。少しファンタジックなミステリードラマ。


SE 複数の話し声(後ろの方で)

○ 俺とこうたは生まれて間もない頃から一緒だった。親同士も仲が良く家も近かったので、毎日のように遊んでいた。ある日は俺の家でテレビゲームをしたり、ある日はこうたの家の庭でピクニックしたり。楽しくて、楽しくて、しかたがなかった。俺達は友達で親友で。この先、何年も何年も……。

 間三秒

○ それから俺らは、中学三年生になった。五月中旬、その日の五限目は、進路説明会があった。夕方の帰り道、俺はあいつに今日の事について話かけてみた。

SE 車が走る音、がやがや(少しずつフェードアウト、会話中も)

健斗 「なぁ、こうた、高校どこにするか決めたか?」

幸太 「ん?あぁ~、あそこ、ここから一番近いとこ」

健斗 「終わりの方に説明してたとこか、確かに近いよな」

幸太 「俺の学力的にもあそこにするつもり。将来とかも分かんないし……」

健斗 「(動揺)た、確かに。将来かー……」

 間二秒

○ それから受験に向けて俺らは定期的に勉強会を開いたした。各々の友人も集めて開催した。苦手な所は互いに聞き合った。夏休みは夏期講習に参加し、希望の高校に絶対合格しようと思った。あいつと一緒に希望校に行くためだ。それから時間が過ぎるのは速かった。

 間二秒

● 場所:俺の自室 一月~二月頃

SE ヒュー、カタカタ(空っ風で、窓が少し揺れる音)

○ 寒くなって来たなと思って、ふと勉強机に向かっていた顔を上げ窓の外を見た。

健斗 「あっ…、雪、か。つか寒。ヒーターつけよ」

SE 足音(俺がヒーターに近寄る) ピ、チチチッボッ(ヒーターがつく音)

健斗 「(ゆるい)はぁー、あったけー」

 間二秒

SE コンコン(俺の部屋のドアをたたく)

健斗 「(ゆるい)どうぞ~」

母 「けんと~?買い物行ってくるから、留守番よろしくね。後、夕飯何が良い?文房具とか欲しい物とかもついでに買って来るからさ」

健斗 「えー…、カレー? かなー? 欲しい物は今のとこない、あったら連絡する」

母 「分かった、はやめに連絡してよ。じゃ、行ってくるね」

健斗 「(ゆるい)んー」

SE バタン(扉を閉める)

 間二秒

● 場所:リビング

○ その日は、俺の希望通り夕飯はカレーだった。父が辛いのが苦手で昔から俺の家は甘口のカレー。俺や母は中辛でも食べられるが、甘口も好きだ。母曰く、”隠し味二つ。ケチャップと、とんかつソース。コクが深まるから” らしい。

父 「(惚気気味)やっぱり、母さんのカレーは美味しいな」

健斗 「(少し呆れ)そうだね、父さん」

母 「(惚気気味)そう言ってくれると、作った甲斐があるわ~」

○ いつもと変わらない日々、幸せな日常。俺にとってはこれが普通で、変わらないものだ。

 間一秒

○ 雪が溶け、桜やハナズオウが咲き始めた頃。朝から、俺はこうたと一緒に第一志望の高校に来ていた。

● 場所:公立高校の生徒玄関付近

SE ガヤガヤ  人混みの音 会話中も後ろで流れる

健斗 「(少し、緊張で震えてる)うえー…、緊張するー…」

幸太 「はははっ、けんとは緊張しぃだね」

健斗 「だって、仕方ないだろぉー?合格発表だぜ?緊張しない方がおかしいというか…」

幸太 「でもさ、俺ら試験日の前日まで頑張ったじゃん?絶対大丈夫だって!」

SE 心臓の音 直ぐフェードアウト

○ そして、運命の時がきた。合格者の番号が書かれた紙が、一斉に公開された。

SE 人混みの音がフェードアウト。布を引っ張る音 バサッ

健斗「(せっかちに)ある!?俺の番号ある!?」

幸太 「(少し慌てる)落ち着いて、えっと…えーっと…」

○こうたは焦る俺を心配しつつも、自分と俺の番号を探していた。いくつもの番号から二つを探すのは大海の一滴だろう。それでも懸命に探していた。

幸太 「あっ、あった!健斗の番号あったよ!」

健斗 「マジ!こうたの方は⁉︎?あった⁉︎」

幸太 「(呆れ)あるよ、けんとは一旦冷静に、な?」

健斗 「(泣き出す・鼻声)だってぇー」

幸太 「えっ、泣くほど???」

○ 俺は情けない事に、人前で泣き出してしまった。嬉しくて思わず、だったから仕方ないと思う。けど、本当に嬉しかった。こうたと一緒に高校生活を送れるそう思うと感情が抑えられなかった。

 間三秒

● 場所:俺のクラス 季節:9月頃

SE ガヤガヤ→学校のチャイム(被せ)→ガヤガヤ(フェードアウト)

担任 「帰りのホームルーム始めるぞー、席につけー」

○ 入学して、早くも二ヶ月が経とうとしていた。新たな生活にも慣れ、新たな友人もできた。しかし、少しの不安もあった。今は、なんとか授業について行けているが学年が上がる事に難しくなればついて行けないのではないか。勉強と部活の両立ができるのだろうか。何より…

健斗 「(少し心配・心の声)(今日もこうたの奴来てないのかな…)」

○ こうたとはクラスが別になった。と言っても隣なのだが。そのクラスの中では、特に悪い噂もなく、仲間内では笑顔で話しているらしい。だが、今月に入ってから頻繁に欠席するようになったらしい。原因は体調不良。こうたは昔から風邪をひく事が多かったから、俺の中では納得している。

SE 学校のチャイム

 間二秒

● 場所:廊下

担任 「武蔵原、隣のクラスの笹木と知り合いだったよな?」

健斗 「(疲れ気味)はい、そうですけど……」

担任 「最近休みが多くてなぁ……。すまんが、帰りにこの書類渡してきてくれんか?」

健斗 「(疲れ気味)いいですよ、家近いんで」

担任 「(少し嬉しそうに)そうか、助かるよ」

間三秒

● 場所:幸太の家の玄関前

SE ピンポーン(玄関のチャイムを鳴らす音)

 間一秒

健斗 「(心の声・不思議そうに思う)(あれ、可笑しいな……)」

SE ピンポーン、ピンポーン(玄関のチャイムをもう一度鳴らす)

○ 俺は不思議に思った。こうたが居れば、各部屋に置いてある内線の受話器で応対できるはずだ。”出ない”と言う事は寝ているか、作業に集中しているかの二択だった。

健斗 「(心の声)(……後で、謝れば良いか)」

○ 軽い気持ちで玄関のドアノブに手をかけた。

SE ガチャ(鍵が開いており、回る)

健斗 「(少し大きな声で)こうたー、いるかー?」(←は玄関で家中に向かって呼びかける)

 間一秒

健斗 「(不思議そうに)こうたー?寝てるのかー?」

○ 靴を脱ぎ、一旦リビングに向かう事にした。玄関を開け入ってすぐ右にリビングがある。幼い頃から、こうたの家に遊びに来ていたので良く知っていた。

SE ガチャ(リビングと廊下の仕切りのドアを開ける)

健斗 「(少し小声・尻すぼみ)お邪魔しまーす…」

 間二秒 (目の前の光景に理解出来ず、固まってる時間)

SE 健斗が腰を抜かして、膝から崩れ落ちる音(ガラガラ?)

健斗「(絶叫)うわあああああああっ!」

○ 俺は”ソレ”を見て驚き、恐怖のあまり絶叫し、腰を抜かしてしまった。

健斗 「(焦り・パニック状態)こ、こうた…?こうた!」

○ 必死に名前を呼んだ。肩も揺らした。が、反応はなかった。 どうしたらいい。 それしか分からなかった。警察か、救急か、そんな考えも分からなくなった。目の前の光景が…。 ”ソレ” が理解できなくて。

 間三秒

SE (パトカーと救急車のサイレンの音・三秒後からフェードアウト)

間二秒

● ↓井戸端会議・全体的に少し楽しそうに

SE ガヤガヤ(人混みの音。会話中も音小さめで後ろで流す)

モブ① 「(小声)ねぇ、聞いた?笹木さんとこの息子さん。”例の変死体”で発見されたんですって!」

モブ② 「(小声)しかも、一番初めに発見したの息子さんの親友だって話よ!怖いわねぇ」

モブ① 「(小声)若いのに可哀想にねぇ。恨みとかあったんじゃない?」

SE ガヤガヤ(元の音量に戻した後、フェードアウト)

● ↑井戸端会議終了

 間三秒

● 場所:取調室

SE バン!(強め・古びたスチール製の机を叩く)

健斗 「(焦り・必死)だから!俺はやってませんって!信じて下さいよ!」

警官① 「(ため息)はぁ(少し呆れ・面倒臭そうに)でもねぇ、けんと君…君が第一発見者には変わりないんだよ?」

 間二秒

○ 現代の警察機関は腐りきっていた。就職すれば楽して定年を迎えられる、とまで言われる程だ。理由は明確だった。「犯人=第一発見者」と決めつけ逮捕する。授業で習った昔の警察官とは正反対だった。証拠も言質も「意味のないもの」と決めつけていた。世間には「経費の削減」「専門家の意見を聞いた結果」など嘘を並べていた。

警官① 「(面倒臭そうに)とりあえず、未成年だし親御さんから何らかの連絡がなければ、留置所確定ね」

健斗 「(絶望気味に)そ、そんな……!」

 間二秒

● 場所:留置所

○ 取り調べを受けてから、何日経っただろうか。三食の飯は出でくる、不自由はあまり無い。しかし、常に孤独を感じ、虚無感に襲われていた。両親からの連絡もない。何故?(少しためて)何故だ?

SE ガチャ、きぃぃぃ(古く重い・備え付けの鉄製の扉が開く音)

警官② 「(冷徹に)武蔵原健斗、食事だ」

SE カチャカチャ(食器どうしが当たる音。○が話している後ろでも流す・話終わりに向かってフェードアウト)

○ 俺は飯を食べている間、かすかな記憶を頼りに、あの日の事を思い出していた。あの時見た”アレ”は何だったのか。

 間二秒

○ あの日の”アレ”は、胸部に大きな穴が空いており、最近多発していた事件に全く同じだった。血を流しておらず直径十センチほどの穴が空いている変死体が、自宅にて発見されると言うものだ。まさかと思った。親友がそんな状態で目の前にいた。ソレを見た俺は、頭が真っ白になって何をしたらいいのか分からず、本能が「誰か自分以外の人物を呼ばなければ」と。後になって、現在の警察の仕組みについて思い出し後悔したが、親友が供養されるのであればそれで良いかと思う。

警官② 「(冷徹に)武蔵原むさしのはら健斗けんと、面会だ。立ちなさい」

健斗 「(無気力に弱々しく)……俺に?」

 間三秒

SE コツコツ(靴を履いて歩く音・警官)・ペタペタ(裸足で歩く音・健斗)←二つはバラバラになるように

○ 部屋の外に出て、鉄でできた冷たい廊下を警官と共に歩いた。自分達の足音以外何も聞こえない。

健斗「(心の声・冷静に)(……長いな。つか、どこに連れて行かれるんだ?)」

○ あの部屋に何日もいたおかげか、怖いといった感情があまり出てこなかった。無気力にぼーっとして、自分に自身に全く興味がなくなっていた。

健斗 「(心の声・少し壊れぎみに)(あー、もしかして、面会と言っておいて監獄いきとかー?)」

 間二秒

警官② 「(冷徹に)ここだ、入れ」

SE ガチャ…キィィィ…(鉄製の重い扉を明ける音)

警官②(男・三十代) 「(冷徹に)クリス、後は任せる。俺はここまでだ……くれぐれも面倒事は起こすなよ」

クリス 「(元気よく・間違えに気づき尻すぼみ)ディオーる…(一旦落ち着く・”ありがとうは元気よく”)違う、えっと、(少し考える・ためて)ありがとう!」

 間二秒

クリス 「(ハキハキと)では、改めて、僕はクリスト・Dドラム・ハーツ。母国はブリテン。皆、”クリス”やドラム”と呼んでいるよ。まあ、好きに呼んでくれ!」

健斗 「(困惑・ちょっと引きぎみ)はあ……じゃあ、ドラムさんで」

 間二秒

○ よく分からない部屋に連れてこられ、入ってみたらドラムさんがいた。警官ではないのは確実だが、どうも一般人とは言いがたい服装だった。英国の騎士団のような服装に腰には…

健斗 「(心の声・少し引きぎみ)(腰についてるあれって、確実に剣だよなぁ…何に使うんだよ……)」

クリス 「(少し大きめに)ケント!(少し怒りながら・少し可愛く)聞いてるかい?君は世界にっとっっっっても重要な人物なんだよ!」

健斗 「え、重要?なんですか?俺は犯罪者ですよ。親友を殺しったって…」

クリス 「(ため息・呆れ・長め)はあーーーーーー。(ハキハキ・説得)あのね、君は特別な人間なんだよ。(元気に)しかも、世界を救えるおまけ?付き!凄い事だよ!」

健斗 「(重めに・少し絶望)でも、俺、あいつの事、救えなかったし……」

クリス 「(冷静に・ため)……笹木ささき幸太こうたの事かな」

健斗 「(驚き・苛立ち)は?」

クリス 「(冷静に)もしかしたら、彼も救えるかもね。君が僕達の仲間になってくれたら……の話だけど」

 間二秒

○ ドラムから説明された事を俺なりに整理した。

一、俺やドラムさんを含めて、特別な人間がこの世には何人か存在する事。

二、魔法や空想的な能力を持っている奴がいる事。

三、ドラムさん達は”アビス”と言う組織の一員という事。

四、アビスは、最近多発している変死体事件に関わっているらしい。

五、変死体事件は世界中で起こっており、対策本部は日本という事。

SE パンッ (クリスの「と、」に手を一回叩く)

クリス 「と、言う訳で、(元気よく)ようこそアビスへ!」

健斗 「(ツッコミ・少し早口)待て待て待て!まだ、入るとは言ってねーよ!なんで、そうなるんだよ!?」

クリス 「(少しテンション下げ)えー、今のは入る流れでしょ?もー」

健斗 「(心の声・呆れ)(なんだこの人、ノリは良いのにどーも掴めねぇ……)」

SE ビービー&ジリリリリ(サイレン系・そこそこ大きめの音量で)

クリス 「(冷静)おや、タイミングが悪いな。(元気よく)よし、ケント、初陣だよ!」

健斗 「えっ、ちょ!ドラムさん!?腕、引っ張らないでください!制服がっ!」

SE 二人が走る音。クリスはメンズヒール、健斗は裸足。○が話し終わるまで、終わりに向けてフェードアウト

○ ドラムさんに連れて来られた部屋は近未来的な機械が多く、普段生活している中では全く見ないものばかりだった。部屋に入る前に表札のような物が見えた。そこには……瞬間移動装置室しゅんかんいどうそうちしつ

 間二秒

○ 物騒な名前だと思った。そもそも、瞬間移動が現代において可能なのか。いや、空想的な能力を持った人がいるくらいだから有り得るのかもしれないが。どちらにしろ、ドラムさんが初陣と言うくらいだ、俺は戦場に飛ばされるのだろう。

SE 機械音(キーボードを叩く音やピピピ等のシステム音。イメージはエヴァ)(クリスの「ディオールフ」まで後ろで流し続ける)

クリス 「(冷静に・鋭く)二名、現場に飛ばしてくれ。一般人に危害を与えるな。対象は一人か」

※SO=システムオペレーター(System Operator)

SO① 「(冷静・少し切羽詰まる)いえ、対象者は二人。内、一名は過去のデータがありません」

SO② 「場所でました。横浜繁華街、被害者軽傷。まだ死亡してません」

クリス 「(冷静・鋭く)分かった、急行する」

健斗 「(切羽詰まって)ちょ、ドラムさん!待ってくださいよ!」

○ ドラムさんはここに来るまでずっと、俺の腕を強く握ったままだった。そのせいもあって、ここにきて恐怖が襲ってきた。それを察したのかドラムさんは俺の腕から手を離した。

クリス 「(落ち込み)ごめん痛かった……(恐る恐る)よね……?」

健斗 「(しどろもどろ・戸惑い)いえ、腕は大丈夫です。その、あの、俺、武器とか持ってないし素手で戦うとかはもっと無理だし、行っても足手纏いになるだけだし……」

SE ぎゅぅ…(レザー手袋で手を握る音・少し力を込めて・重め)

      ↓の部分に入れる

クリス 「(キリッとした声で・間一秒)……大丈夫、僕がいる。(0,5秒ほど置く)それに、武器もある。いざとなったら、君だけでも逃げくれ」

健斗 「(困惑・間抜けな声)えっ、えぇ……」

○ 俺を落ちつかせようとドラムさんは手を握ってきた。どうやら現場に行くのは決定事項のようだ。その上、武器まで用意していると言う。あまり筋力もなく普通の人間である俺に、どうしろと言うのだ。

クリス 「(キリッとした)急ごう、ケント。(最後は少し濁す感じに)このままだと被害者が増えてしまう。彼のように…」

健斗「(息を呑む感じ・苦く・重い)……っ!?」

○ 瞬間的に、脳裏に浮かんだのは親友の”こうた”だっただった。あんな死体が増えるのか?友人も、家族も、街の人たちも?犯人は無差別に人々を狙うのか?良いのかそれで?

健斗 「(震えながら・やっと声が出た感じ)……ドラムさん、その……敵を倒したら、こうたみたいな人は、増えないんです、よね?」

クリス 「(優しく・落ち着いて)もちろん」

健斗 「(震えながら・やっと声が出た感じ)俺……絶対、役にたたないし……すぐ逃げるかもしれませんよ……?」

クリス 「(優しく・落ち着いて)構わないよ」

 間一秒

健斗 「(覚悟を決める・震えながら・弱々しく)…俺、行きます。アビスにも入ります。他の人が、こうたの様になって欲しくない」

クリス「(嬉しい・息を吸う)!?(優しく・力強く)ケント、ディオールフ!」

 間二秒

○ その後、俺好みの私服と武器を渡された。武器は刀を二本。打刀と脇差らしい。脇差の方が打刀より少し小さい。インカムも渡された。ドラムさん曰く(「」の文字内は俺がクリスの真似をする)「リーダーが絶対着けて行けって言ってたから」だそう。どうやらアビスは、少しゆるい所がある様だ。

 間三秒

九重 「(インカム越し・緩い・ちょっと疲れてる)あーあー、テステス、聞こえますか~?」

クリス 「(少し楽しそうに・微笑む)聞こえてるよ、リーダー・ジン。すまない、急に呼び出して」

九重 「(インカム越し・緩い・ちょっと疲れてる)本当ですよ、おじさんが徹夜明けなの、知ってるでしょ~?」

クリス 「(わざとらしく・ニコニコしながら)ん~?そうなのかい?」

健斗 「(心の声・引き気味)(ドラムさんって、もしかしてヤバイ人なのでは…?)」

○ 現場である横浜の繁華街に着いてすぐ、リーダーにあたる九重ここのえ仁じんさんがインカム越に話しかけてきた。現場までは遠くなくすぐに向かってくれとの事。

SE そこそこの速さで走る音(二人分)クリスはメンズヒール、健斗は厚底のスニーカーを履いている。

九重 「(真面目に・冷静)クリス、そこの十字路左、すぐだ。気をつけろよ」

クリス 「(冷静)分かってるよ、リーダー」

九重 「(面倒臭そうに・イラつきながら)そうじゃね、敵さんの話だよ!なんせ…(間一秒・鋭く)バルドルだからな」

● ここから、現場がピッリした感じに。緊張が走る。一歩間違えれば死、くらい。

SE 走る音が消える 瞬間にキンッ(金属どうしがぶつかる音)(クリスは剣・バルドルは鉤爪)→グググ(鍔迫り合いつばせりあい)→キンッ(クリスが剣ではね返す)ザザザーッ(地面との摩擦音)

バルドル 「(口笛・SE可)ヒュー、(陽気に・フワフワ)さっすがだね~、ハーツく~ん?でも、ざぁ~んね~ん、もう、(子供っぽく)殺しちゃった☆」

クリス 「(鼻から息を吸う)っ!(怒りMAX)バルドル!貴様!」

○ 短時間ではあるが、ドラムさんは優しく、人の為に動く様な人だと分かっていた。だから、怒りを顕にした声に隣にいた俺は驚いた。さっきまで優しい顔をした彼はどこへと思うほどに、そこにいたのは鬼以上の化け物だった。

バルドル「そんな怒んなよ~、何億っている人間の一人だぜ~別にいいだろ~?」

クリス「ふざけるな!ヒトの命を何だと思っているんだ!」

SE ダッ(地面を蹴りバルドルに急接近)キッン(金属どうしがぶつかる)グググ(鍔迫り合い)

バルドル「(高揚)ぁはっ!いいね~!ハーツ、最高だよ!」

クリス「(耐える)クッ…!(切羽詰まる)健斗!被害者の方へ!」

健斗「(硬直・緊張)はっ、はい!」

バルドル「(高揚)ハァ~ツ~?余所見は(力を貯める)……(力を込める)良くないぜぇっ!」

SE キンッ!(少し重めな音・クリスが吹っ飛ぶ)ザザザー(足とコンクリが摩擦で擦れる音)

● 健斗は被害者の方に行く途中に踵を返しクリスのもとに駆け寄る

健斗 「(困惑・焦り)ド、ドラムさんっ!(震え・怖くて上手く話せない)あ、あ、あぁ」

● 「それより~」目線を健斗→被害者の方へ

クリス「(少し息を切らす・優しく)ケント、落ち着いて、僕は大丈夫だから。(尻すぼみ)それよりも被害者…は…」

○ この状況を受け入れられない俺を落ち着かせていたドラムさんの声が、消えた。不思議に思った俺は、ドラムさんの顔を見た。

健斗 「(息を吸う)っつ!」

○ 先程と同じ、怒りの表情をしていた。俺はこの状況と相まって、全身が震えて動けなかった。

クリス 「(怒りMAX)バルドル!被害者をどこにやった!」

バルドル 「(言われて初めて気づく・ニコニコしながら)ん?あ、本当だ~!新人くん仕事はや~い」

● 健斗とクリスは新人か誰か分かっていない。バルドルは知ってる。この時点では新人が誰か分からない

SE カツカツ(幸太がバルドルに近寄って来る・カンフーの靴・次のセリフの終わりまで)

● ワンテンポ遅れて話し出す

幸太? 「(冷静)バルドルさん、ボスから 任務遂行後速やかに帰還しろ との電令です」

バルドル 「(駄々をこねる)え~、マァ~ジィ~?もっと、遊んでたい~」

健斗 「(困惑・呆然)あ、お、お前、こうた…?(切羽詰まる)こうただよな…!?」

バルドル 「(楽しそうに)えっ?何、ナニ~?知り合い~?」

○ 新人と呼ばれ路地の影から出てきた人物に、俺は息を呑んだ。そこにいたのは、親友のこうただった。何故?(少し狂った様に・間一秒)なぜ、なぜ、ナゼ……?

幸太 「(冷静・少し呆れ)知りませんよ。俺には家族も、友人もいませんので」

バルドル 「(楽しそうに)だってさ~、残念だったね~」

健斗 「(絶望)そっ、そんな…こうた…(間一秒・鼻から息をすう・何かを決心する)」

SE ダッ(健斗がこうたに向かって走る・厚底スニーカー)ガシッ(健斗が幸太の襟元を掴む)

健斗 「(険しく)こうた、何言ってんだよ!親友の顔を忘れたのか!」

○ この時の俺は何を思ったのか、後先考えずこうたに詰め寄っていた。きっと、一時的な記憶喪失で、何かキッカケを与えれば思い出すかもしれないと思った。だが、その考えは脆もろく、簡単に崩れていった。

幸太 「(冷静・少し怒り)手を話せ」

健斗 「(芯のある)嫌だ」

幸太 「(冷静)なら……(重く)殺す」

● 次のSEの説明。健斗と幸太が同じ場所にいて、二人の近くにバルドルがいる。バルドルが後ろから健斗を命を狙って武器を振り下ろす。しかし、クリスが対抗する。

● バルドルとクリスの会話は、少し早口に。瞬きの瞬間くらいの時間で会話してる。

SE キンッ!(金属どうしがぶつかる音)グググ(鍔迫り合い)カチャカチャ(鍔迫り合い中の音)

バルドル 「(重い・青筋を立る)仲間庇って何になる、ハーツ」

クリス 「(怒り・声を荒げて)貴様は、命を軽く見過ぎだ!」

SE キンッ(武器同士が弾く)

健斗 「(驚く)うわっ、ドラムさん!」

● この時点で健斗は、こうたから手を離している。その隙にこうたは健斗から離れる。

バルドル 「(楽しく・語尾は上がり)さ~てと、仕事も終わったし、ハーツとも遊べたし、帰りますか新人くん♪」

● 健斗の「待て」くらいでクリスの台詞を入れる

健斗 「(焦り)っは!こうた!待てよ!」

クリス 「(激昂)ケント!」

SE ブウォン(魔法陣から異世界空間への扉が開く音)

バルドル 「(楽しそうに)そーゆー訳で、ハーツー…(ねっとり)また、遊ぼう、ネ?」

SE ブウォン(魔法陣から異世界空間への扉が閉じる音)

 間三秒

SE ザザー(ラジオが電波の悪い時に流れる音)

○(九重ここのえ) 事後報告。霜月下旬しもつきげじゅん、横浜繁華街にて変死体の事件が発生。被害者は男性、二十代前半。アビスの隊員の目撃より、死亡確認済み。セメンタリーとの交戦、容疑者二名。内、一名は過去の情報なし。今後調査予定。交戦後、容疑者二名は次元虚構陣により被疑者を拉致し、現場から逃走。現在、被害者・容疑者ともに捜索中。アビスの隊員に負傷なし。以上、報告を終了する。

SE ザザー(ラジオが電波の悪い時に流れる音)

 間三秒

? 「(淡々と・感情は薄め)ボス、新人の初陣は上手く行ったようです。バルドルを行かせて正解でしたね」

● ここの高笑(ボスのセリフ)は、担当さんに任せます。ともかく、傲慢な悪の親玉を演じてください。最後は、フェードアウトで。

ボス 「(高揚)呵呵呵かかかッ、順調、順調。(間一秒)怖いくらいに順調だぁ!このまま、(どんどん大声に)アビスを、日本を、世界を!(息吸う)我が手に……!(間一秒・高笑い)ふふ、ふふふっ、はははははははっ!」

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