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【こうばを訪ねて vol.6】金属3Ⅾプリンターで描く新たな未来

金属加工品の一大産地、新潟・燕三条で30社以上の工場と一緒に家事道具をつくる、家事問屋。毎日の暮らしの「ひと手間」を助ける道具をお届けしています。

私たちが大切にしていることは、道具と共に、つくり手の想いもみなさんへ届けること。

そのために日々工場を訪ねて、つくり手と意見を交わし、新たな製品づくりを進めています。

今回訪ねたのは、2023年で創業100周年を迎える株式会社和田助製作所。ホテルやレストランで使用する、ステンレス製の角盆やシャンパンクーラー、鍋など、さまざまな業務用向けの金属製品を製造しています。

近年は金属3Dプリンターを導入し、既存製品に点字や立体的な文字をつけることにも挑戦。次の時代を見据えた新しい取り組みにも力を入れています。

日本製へのこだわりと業務用製品の高い技術力を活かし、家事問屋では調味料を計る「計量スプーン 5-15」と「計量スプーン 1-2.5」を製造していただいています。頑丈で使い勝手のよいつくりは、固まってしまった塩や砂糖に使っても曲がらないと高い人気を誇る製品です。

▲ 【上】大さじ(15ml)小さじ(5ml) 【下】小さじ1/2(2.5ml)ひとつまみ(1cml)の調味料を計れる、家事問屋の計量スプーン

和田助製作所さんとの出会いは、2016年。家事問屋のスタッフが計量スプーンに見惚れ、ぜひ家事問屋でも取り扱いたいと考えたことが始まりでした。

既存製品を取り扱わせてもらった後には、小さじ1/2とひとつまみを計れる計量スプーンを開発。レシピによく出てくる“小さじ1/2”や“ひとつまみ”も正確に計りたいというお声を叶えるため、新たに開発しました。特に、お菓子づくりは分量をきっちりと計ることがとても大切なので、重宝する製品です。

そんな家事問屋の要望にも応えてきてくれた和田助製作所。自社製品の計量スプーンが長年愛される理由、家事問屋との関わり、これからの金属3Dプリンターの可能性も含め、営業主任の山田さんにお話を伺ってきました。

【プロフィール】山田 貴生(やまだ たかお)
株式会社和田助製作所 営業主任
生活用品の問屋で勤めたのち、実際にものをつくるメーカーで働きたいと和田助製作所に転職。いざ入社してみると素材や工程、機械技術などを覚えることに苦戦した。工場の営業は職人と問屋などを繋ぐ仕事。培った知識を活かして双方の意向を反映しながら、新たな製品を一から作っていけることにやりがいを感じている。

▲手前が、営業部の山田さん

― 和田助さんの計量スプーンは、主にどんなところで使われているのでしょうか?

ホテルやレストランなど、さまざまな飲食にかかわる業界で使っていただいています。特に飲食チェーン店では北海道から沖縄まで同じ味にしなければいけないので、誰でも扱いやすい和田助の計量スプーンが重宝されているようです。

この計量スプーンは一枚板のステンレスでつくるので、スプーンと持ち手の溶接部分に汚れが溜まる心配がありません。使用頻度の多い道具だからこそ、安心してお使いいただけるようにしています。

― 全て和田助さんでつくっているのでしょうか?

協力工場さんにお願いしている部分もたくさんあります。例えば、スプーンの部分。ここは半円以上深く絞っているのですが、この絞りは技術的に難しいので自社ではできません。円の中心が少しでもずれると、バリ(※)が出たり、しわが寄ったりしてうまくいかないんですよ。

しかも、工場の温度や湿度、仕入れ材の状態によって、金型の力加減を調整する必要もある。長年の経験と勘がないとできない仕事です。

※バリ:金属や樹脂などの素材を加工した際に発生する、出っ張りやトゲのこと

▲スプーンの部分は直径よりも少しだけ深く絞っている

― 職人の技術力が詰まった製品ですね。家事問屋で取り扱いさせていただいたのは、2016年からですね。

2016年に「家事問屋の製品としてもぜひ扱わせてほしい」とご提案いただいて、ラインナップのひとつだった「計量スプーン 5-15」を家事問屋さんのブランドとしても販売し始めました。その1年後にひとまわり小さなサイズ「計量スプーン 1-2.5」も開発しましたね。

ー どちらの製品も厚板で安定していますよね。

深いと安定するので。醤油やお酢などの液体物を入れても運びやすいと言っていただくことが多いです。「計量スプーン 5-15」は板厚1.5mm、「計量スプーン 1-2.5」は板厚1mmです。野菜のくり抜きにもつかえるくらい丈夫なんですよ。

▲厚板なので、カボチャのわた取りに使っても変形しない

調理用品に点字をつけて、誰でも楽しく料理ができるように

― 現在は、新しい挑戦を始めていると伺いました。

点字や立体的な文字がついた製品をつくれないかと試行錯誤している段階です。金属3Dプリンターを使って、スプーンやフォークに点字を入れたり、パイプ状のステンレスに立体的な文字を入れたりしています。

ー なぜ点字の製作を始めたのですか?

高齢化によって燕三条内で廃業している工場が多くなっていることに危機感を覚えたことが始まりでした。お願いしている工場が廃業してしまったら、和田助の製品は納品することができません。

納品を止めないためにはどうしたらいいかと考えているときに出会ったのが、ステンレスを金型なしで造形できる3Dプリンターでした。「今すぐに必要なくても、起こりうる未来に向けて今のうちから扱い方を学んでおこう」と3Dプリンターの購入を考え始めました。

3Dプリンターを検討している時に機械メーカーの担当者がふと「点字をつくることもできるんだよね」とお話されたんです。その話に興味を持って購入を決め、まずは3Dプリンターで点字をつくる事業から取り組み始めました。

▲専用の粉末を使って立体を造形していく

ー 今は視覚障がい者の方と接する機会もあるのですか?

視覚障がい者の団体や盲学校に実物を持って行って感想を教えてもらっています。そのときに「点字を読めない人もいるから、計量スプーンに大さじ 15ml・小さじ5mlと数字を入れてほしい」という話を聞いて改良もしました。他にもご飯の1合と半合を表裏で計れるライスメジャーも開発しています。

そうやって視覚障がい者のみなさんとお話していると、「私たちも料理をしたい」「自分で炊いた、炊き立てのご飯が食べたい」と話してくださる方もいらっしゃいます。点字を入れることで誰でも楽しく料理ができる。これらの製品をつくることで、そんな未来の実現のために少しでも力になれたらと思っています。

▲自社の既存製品がヒントとなったライスメジャー。上が1合、下が半合になっている

今回、視覚障がい者も晴眼者も一緒に使える浮き出し文字入り「計量スプーン」を、数量限定で販売させていただくことになりました。大・小の文字を、特殊加工で立体的な浮き出し文字に表現し、目(視覚)と指(触覚)のどちらからでも読めるようにしました。

職人・工場の安全を保つことが、安心安全な製品をつくる

ー 製造の現場で心掛けていることはありますか?

先代からの教えで常に安全を保つように意識しています。研磨の集塵機(しゅうじんき)で吸いが悪いとすぐに修理したり、材料は国産のステンレス材にしたり。お客様の手元に届くまで不具合がないように安全な工場環境を整えるようにしています。

職人や工場の安全を保つことは安心安全な製品の製造につながるもの。これからもその前提は崩さず、お客様に満足していただける製品をつくり続けていきたいです。

▲どの工程も傷をつけないように丁寧に製造しなくてはならない
▲研磨の質が高く、人数もいるので、他の工場の依頼を受けることもある

和田助さんは既存の製品・お客様を第一に考えながら今後起こりうる可能性にも目を向けています。

時代は常に変わっていくもの。この前提を理解した上で業界の一歩先を見据えて、いまから対策を練っているのです。

100年間で積み上がった信頼と先代からの教えの土台の上に立つ、3Dプリンターによる造形という新たなジャンル。

大きな一歩を踏み出した和田助さんと共に家事問屋は燕三条の未来を模索していきます。

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〈取材協力〉
株式会社和田助製作所
〒959-1286 新潟県燕市小関989-8
https://wadasuke.co.jp/

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