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思いに目を向けられるか

こんにちは。
牧得生(マキヨシオ)です。
障害のある人のヘルパーをしています。

僕は、福祉に携わるようになって13年ほどになります。
その中でも、自閉症の人との関わりは、僕の人生をとてつもなく豊かなものにしてくれています。
とある1人の自閉症の方との関わりを通して、僕の心境がどのように変化し、僕の人生がどのように豊かになってきたのかを記したいと思います。

毎日ゲロを吐き続ける人

今は障害のある人のヘルパーをしています。
ですが、以前は生活介護施設(障がいのある人が、主として昼間に通う事業所)
に勤務していました。
その事業所に来られる利用者さんは、ほぼ皆さんが自閉症スペクトラムという特徴をお持ちでした。

僕が働き始めたころ、とても苦手な利用者さんがいました。
仮にAさんとしましょう。

Aさんは、
・男性
・体重100キロくらい
・言葉によるコミュニケーションはできない
という特徴を持っていました。

笑顔はキュートなのですが、
・他者への噛みつき
・物を壊す
・激しい叫び声
という一般的に見てネガティブな面も持ち合わせていました。

その中でも、僕が苦手だったのは、
・昼食後に食べたものを全部吐き続ける
という行動です。
本当に全部吐いてしまいます。
一気に吐いてしまうのではなく、何回にも分けて吐きます。
床の上、ソファ、流し、自分の手の上。
そしてそれをぐちゃぐちゃに踏んだり、手でこねくり回したり。。。

その光景と、それに対処することが、とても嫌でした。

床の木目、上靴の裏のスキマに入り込む吐物。
何度も拭き取り、直後にまた吐き、また拭き取る。
その繰り返し。

毎昼食後がゲロとの闘い。
気持ち悪いし、その行動がなくなる予兆すらない。

気づけば僕はその人のことがめちゃくちゃ嫌いになっていました。

ゲロを吐き続けるAさんを、心の中でずっと責め続けていました。
「なんでこんなことすんねん!!」
「やめてくれ!!」
「もうイヤやー!!」
こんな感じですね。

イライライライライライライライラ。。。
ずっと心の中はこんな感じ。
こんな心境で、
「僕は、(誰かの)支援をする仕事をしています!!」
なんて言っていたのですから、恥ずかしい限りです。

Aさんの行動、それもネガティブな行動にしか目が向いていない僕がいました。。。

ふと我に返る

当時の職場には尊敬する2人の上司がいました。
1人は事業所の創業者(Mさん、男性)
1人は上司(Iさん、女性)
その事業所は当時創業直後でしたので、主な職員は僕を含め、3人しかいませんでした。

2人とも、とても厳しい人でした。

毎日イライラしている僕。
けど、2人は僕を強く咎めるということはありませんでした。
おそらく、僕の心境を察していたでしょうし、僕を咎めても根本的に解決はできないと考えていたのでしょう。

ただ、
「Aさんは、なんでゲロ吐くんやろな?」
と一言。。。

物事には、原因と結果があります。

Aさんがゲロを吐くのも同じ。
僕がAさんにイライラするのも同じ。
必ず原因があります。

Mさん、Iさんはそのことを身に染みて理解していたのだと思います。
なので、
・ゲロを吐き続けるというAさんの行動
・Aさんにイラつき続ける僕の行動
を直接的に咎めることをしなかったのだと思います。
行動にのみ直接アプローチすることの無意味さを知っていたのでしょう。

「Aさんが何故ゲロを吐き続けなければならないのか?それをマジで考えろ!!」
がMさん、Iさんから僕への暗黙のメッセージだと捉えました。

ふと我に返る。
というか、ふと我に返らされた感じがしました。

思いに目を向けられるか

「Aさんは何故ゲロを吐かなければならないのか?」
Aさんの行動そのものではなく、その原因を探ること。
これが、僕に暗黙に与えられたミッションでした。

詳細は省略しますが、一般的に自閉症の方はその特徴として
・コミュニケーションの困難さ
・イマジネーションの困難さ
・視覚からの情報に強い(全員とは限らないと思いますが)
・逆に音声情報に弱い(こちらも全員とは限らないと思ますが)
があります。

Aさんは、すべての特徴を強く持ち合わせていました。
つまり
・他の誰かが言っていることの理解が極めて困難
・自分の言いたいことを誰かに伝えることが極めて困難
・次に何が起こるのか(何をすべきなのか)わからない
・言葉で伝えられても、理解できることは極めて少ない

要は
「ここで僕は何をすればいいのかわからないし」
しかも
「誰もわかるように伝えてくれないし」
しかも
「僕がわかってないということを、僕は誰かに伝える術を持ってないし」
「そんな状況で僕はどうしたらいいのー!!」(ゲロゲロー!!)
という心理状況が生み出した行動なのではないか??

これが、Aさんがゲロを吐き続けなければならない理由に対する僕の仮説でした。
Aさんと同じ状況で毎日過ごしていたら、僕なら(あなたなら)どうなるでしょうか?
しかもその状況が、一生変わらないかもしれないと思ったら、僕は(あなたは)どうなるでしょうか?

自閉症の方を支援する際、色々と方法があります。

詳細は別に譲りたいと思いますが、支援者と呼ばれる人ができることは、必ずあります。

「自閉症の人(に限らず)の思いに、きちんと目を向けられるか?」
これは自分自身に向けられた、本質的な課題です。

は、吐かない?!

試行錯誤しながら、色々な事を試みました。
方法論だけでなく、自分の心の土壌みたいなものを変えていく努力をしてみたり、、、

1年くらいかかったような気がします。
どれ時間が経ったのか、はっきりとは覚えていませんが、Aさんが突然吐かなくなりました。

そのころには、
「Aさんがゲロを吐く」
という行動自体なんてどうでもいいことになっていました。

大事なのは、Aさんの心の中にあるもの。

それを見ようとするのは、技術ではなく、心構えだと思います。
その人を大切に思うこと。

その人を思うこと。
本当に大切なことだと思います。

自分の心構え、行動、言葉、そういったもので、自分以外の誰かが幸せを感じたり、安らぎを感じたり、ポジティブになれたり。
そういったことは、僕の人生をも、もとてつもなく豊かにしてくれます。

少し今の自分への戒めも込めて、書き記しておきたいと思います。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
皆さまの今日が、昨日より少しでも良くなりますように!!






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