火星に航行中の社長よりお話があります (前編)
「まったく! どういうことなの、いったい。もうこれで何回目? 袖がちゃんとついていないとか、ふつうありうる?」
スマートグラスの画面に浮かぶ近藤さん ―シモムラ宇都宮店の仕入れ主任― は、さわやかな笑顔を見せている。しかし、それはそれが登録写真であるからにすぎない。
杉村の頭の中にギンギンと響いてくる近藤さんのどなり声からは、彼がどれだけ怒っているかが痛いほどよく伝わってくる。
「ほんとうにすみません。まったく、弁解のしようもございません」
とにかく、謝るしかない。文字