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白リン弾への誤解:国際法の視点から

2023年10月7日早朝、パレスチナ自治区・ガザ地区を実効支配するイスラム主義組織・ハマスの軍事部門カッサーム部隊の攻撃により、イスラエルは戦争状態となった。
イスラエルはガサ地区に対して報復として精密誘導弾等による攻撃を激化させており、少々ではあるが白リン弾の使用も確認された。
これに対してパレスチナ側は白リン弾の使用に「非人道的」「国際法違反」と避難しており、一部メディアにおいてもイスラエルへの非難がされている。
だが実際のところ白リン弾に対する批判の中には誤った認識によって批判をしている人が多い。

イスラエル軍が運用する白リン弾

イスラエル軍が運用している白リン弾は「M825A1白リン弾」で155mm榴弾砲から発射されている、空軍による爆撃によるものという情報もあるが、これは誤報である。
イスラエル軍による白リン弾の使用は2009年以来であり、下のデータからも使われた回数はあまりない。

以下過去のイスラエル軍使用例

  1. 2009年 パレスチナ・ガザ(イスラエル軍:白リン弾

  2. 2023年~パレスチナ・ガザ(イスラエル軍:白リン弾)

国際法上における白リン弾の定義

白リン弾が国際社会に広まったのがイラクファルージャの戦いで使用されてからであり、2009年のガサ紛争で使用された際も白リン弾を「非人道的兵器だ」として規制を主張する意見がみられた。
しかし、現在のところ白リン弾には国際法上明確な規制はされておらず、特定通常兵器使用禁止制限条約では市街地への使用を禁じべき兵器としてナパーム弾、クラスター爆弾、テルミット焼夷弾が対象とされたが「白リン弾」は対象となっていない。
そもそも、特定通常兵器使用禁止制限条約にイスラエルは批准していないという事実があり、禁止制限条約はなんら関係ない。

国際法に基づいた理解が重要

戦争や有事においては国際法に基づいた対応や判断をしなければならないのは当然のことである。
特定通常兵器使用禁止制限条約では白リン弾は対象となっておらず、そして白リン弾は発煙弾であり焼夷弾ではない。
今回の件でロシア側はイスラエル側を批判しているが、2022年5月15日ロシア軍がウクライナ東部のマリウポリで焼夷兵器を使用し、これは戦時国際法と特定通常兵器使用禁止制限条約の焼夷兵器制限に違反していると指摘されている。
まさにブーメランである(笑)
「焼夷兵器の使用の禁止又は制限に関する議定書」第二条の1と2

第二条 文民及び民用物の保護
1 いかなる状況の下においても、文民たる住民全体、個々の文民又は民用物を焼夷兵器による攻撃の対象とすることは禁止する。

2 いかなる状況の下においても、人口周密の地域内に位置する軍事目標を空中から投射する焼夷兵器による攻撃の対象とすることは禁止する。

当然のことながらイスラエル側がジュネーブ条約における「人口密集地域への無差別な攻撃」に該当する攻撃をしている場合は批判が必要だ。
しかし、それは白リン弾に限らずその他の通常兵器にも該当するもので、白リン弾を特別扱いするのは的外れだ。
そもそも、白リン弾が注目されたのはファルージャにおける戦闘からであり、その際も多くの誤情報が拡散された。
今回も白リン弾の使用は「条約上禁止されている」という情報が見受けられておりそれは間違いだ。
国際法に基づいた冷静な議論・意見は結構だが、そうではないものは私からすれば、誤情報を拡散しているに過ぎない。


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