2023最恐体験

先日、人生で5本の指には入る恐怖体験にあった。

 その日、私は図書館でもなければ塾でもないなんだかよくわからないスペースで勉強していた。小さな机に向かいあう形で椅子が二つ置いてある。それが何個かあり、その一つを使っていた。近くにキャバクラや居酒屋があるため治安は悪い方だったが、一度上裸の男性がもう一人の男性に担がれているのを見たことがあるくらいだ。勉強していたのは日曜の昼だったし、親子連れの姿もあったのであまり心配はしていなかった。
 テストも近かったので勉強にも身が入る。そうしてペンを走らせていると後ろから

「あの、ちょっとすみません」

後ろには二十代前半くらいの男性がいた。

男「あのー、ここにあったカード屋さんって知りませんか?」

確かにここには昔カードゲームショップがあった。しかしここ最近別の場所に移動した。

私「あー、ありましたね。でも違う場所に移動しちゃったんですよ。」

男「あー、そうだったんですか、、、」

この男性は、確かにカードゲームが好きそうな、いわゆる”オタク”のような雰囲気だった。灰色のダウンに、色褪せた緑色のズボン、白い無地のトートバッグ、顔は芸人のカラタチ前田のような感じだった(わからないなら調べてほしい)。ただどこか変な感じがする。

男「っていうか、受験生?」

私「いや、違います」

急な質問に戸惑ったが答えた

男「ふーん、でも数2やってるじゃん」
(机に広がっている私のテキストを指さす)

私「あっ、これは予習ですね」

なんだろう。この違和感。別に普通も人なのに、、、

男「へー、てかそこ座っていい?」
(私の向かい側にある椅子を指す)

私「え、あ、はい」

ここで私は初めてこの違和感の正体がわかった

こいつ、絶対オタクのくせにめっちゃガツガツくる!!!!!!!!!!

私の偏見もあるが、まずオタクは見知らぬ人に話しかけてこない。人見知りという点もあるが、オタクは常人には計り知れない量の情報を持っている。もしオタクならこの時点でカードゲームショップが移動していたことは知っていて私には質問してこないだろう。さらに、オタクは自分からフリートークなんてしてこない。オタクは他人には一切興味を示さない。世間話すらも好まない。すべて偏見で申し訳ないが。
 そして何といっても、オタクは、いや普通の人でも世間話で向かい側の椅子に座るなんてことはしない。私の知識の範囲でこの行動をしていたのは映画でアメリカ兵士がバーで女を口説く時くらいだ。
 こう考えると、私の目の前にいるこの人はオタクのような振る舞いをしているアメリカ兵士?いやそんな訳はない。この人は誰だ?私の目の前にいるオタクのようでオタクではない何か。まさに日常性の欠如から来る恐怖そのものであった。

~男が席に座る~

男「学校ここらへんなの?」

私「まーはい。ここらへんですね」

このような世間話をしているが、私はこいつの目的はなんなのか、考えることに必死だった。もうカードゲームショップ目当てではないことは明らかだった。自分を守ることを第一に考えた。もし、なにか私の私物を盗もうとしたら?もし私を拘束しようとしてきたら?色々なピンチを創造した。だが、私は、この目の前の平均的またはそれより少し小さい身長のこの男には勝てる気がした。毎日部活三昧な高校生の本当のポテンシャルを舐めるなよ。覚悟は決まった。椅子を少し浅めに座る。

 しかし、いつまで経っても世間話をしてくる。一定の緊張感が続く。。。

男「高校どこなの?」

私「A高校です」

男「へぇーあそこ頭いいよね!すごいじゃん」

私「いや、もう全然っすよ」

男「俺もそこ行こうとしたんだけど、結局B高校に行ったんだよね」

ちなみに私が通うA高校は県内ではほどほどに偏差値が高いが、男が行ったとされる(多分嘘)B高校は県で一番頭のいい高校だった。その上で私をほめたのだ。つまり、この男はおだてるという会話の技法を用いてきた。もちろんこんなのオタクにはできない。

私「いや、全然俺より頭いいじゃんかよ!」

初対面の人にガツガツツッコむというカマシが今回はじめて役に立った。目には目を歯には歯をだ。やばい奴にはこっちもやばいやつ。一矢報いた。そんな気分だった。しかし

男「いや、ふふ、ははははは」

こいつ笑いやがった。。。普通の人間なら一回はえ?となるものだ。それをあたかも、面白い一言を言ってきただけのような反応。逆に距離が縮まったような感触に陥った。やはりこいつ一枚上手だ。。。。

ここから

「最寄りどこなの?」「小学校どこ出身?」など明らかに俺を知ろうとしている。可能な限りうやむやにしたが、さすがに喋らざるを得なかった。こいつが明らかに私に興味を示している。ナンパされる女性の恐怖を初めて理解した。

 


 かれこれこのような会話が40分以上続いた。私はこの会話を終わらせたい気持ち、この男から逃げる覚悟を決め、

私「そろそろカードゲームショップ行ってみたらどうですか?」


男「あっ、う、うん、そうだね」

意外とすぐ手を引くのか。すこし安心した。しかしまた

男「いやー、話合うわ」

合ってねーよ。お前に合わせてやったんだわ。


男「またどっかで会おうよ」

会わねーよ。さっさと消え失せろ

私「そうですね。また機会があれば」

男「あ、そうだライン交換しようよ」

え??????????????
え?マジで?どうすればいいんだ?
結論から言うと、交換するわけない。しかしどう断ればいいんだ。さすがに焦った。女の子泣かせたときくらい焦った。でもここは率直に言うしかない!!

私「いや、、すみません、初対面の人とは、、、」

頼む!この場は!耐えろ!

男「。。。」

頼む!

男「。。。」

無理だから!マジで!


男「まーそうだよね。また機会があったら喋ろうよ」

男はその場を後にした。

一時間ぶりの安心感だった。椅子の背もたれに寄りかかり、深呼吸をする。初対面の人にラインの交換を求められたのはさすがに人生初の体験なので本当に怖かった。そこからしばらくその場所には行けていない。

ただ、改めて考えてみると、、、俺、、、男の人にはモテるんだ。




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