カイ書林 Webマガ Vol 13 No6

このメルマガおよびWebマガは、弊社がお世話になっている先生方に毎月配信します。毎月「全国ジェネラリスト・リポート」と「マンスリー・ジャーナルクラブ」を掲載しています。

【近刊案内】


・梶 有貴、長崎一哉 編集:ジェネラリスト×気候変動―臨床医は地球規模のSustainability にどう貢献するのか?ジェネラリスト教育コンソーシアム Vol.17 (7月末刊行)B5判 140ページ ¥2500


【好評発売中】

1 筒井孝子著:必携 入門看護必要度

2 筒井孝子著:ポケット版 看護必要度

3 鎌田一宏・東 光久編集:再生地域医療in Fukushima(ジェネラリスト教育コンソーシアム vol. 16)

4 東 光久編集:「患者力」を引き出すスキル・ツールキット(日常診療ツールキットシリーズ③)

5 金子惇・朴大昊監訳「医療の不確実性をマッピングする」

6 島田長人編集:急性腹症チャレンジケース―自己学習に役立つ18症例(日本の高価値医療シリーズ⑦)

7 石丸裕康・木村琢磨編集:ケア移行と統合の可能性を探る(ジェネラリスト教育コンソーシアム vol. 15)

8 樫尾明彦・長瀬眞彦:問診から選べる漢方薬ツールキット(日常診療ツールキットシリーズ②)

9 徳田安春:新型コロナウイルス対策を診断する

10 沖山 翔・梶 有貴編集:ジェネラリスト× AI 来たる時代への備え(「ジェネラリスト教育コンソーシアム」vol.14)


■ジェネラリスト教育コンソーシアムのご案内

・第19回:「チーム医療を本音で語ろう」(2022年秋、世話人:森川 暢、大浦 誠各先生)

* Mook版ジェネラリスト教育コンソーシアムは、科学技術振興機構(JST)の文献データベース収録(JDreamIII、J-GLOBAL等)および「医中誌」に収録されています。


■全国ジェネラリストリポート

医療は地域に対してどのように貢献できるか

奥会津在宅医療センター 押部郁朗

 3年ほど前のことである。「より充実した地域医療のために、医療は地域に対してどのように貢献できるか」に関心を持った私は、福島県の奥会津地域でフィールドワークを行なった。「医療が地域にとってさらに役に立つものとなるために、どのような取り組みや活動があったらよいと思うか?」をコア・クエスチョンとし、医療や地域づくりと接点のある方々にインタビューを行なった。

 奥会津地域は県内屈指の少子高齢化・過疎化地域である。医療に対する期待や要望も多いのではという想定のもと、本番に臨んだ。しかしほとんどのインタビューでまず語られた言葉は、「わからない」であった。

 今思えば質問が曖昧すぎた。地域の方々にとっては、答えのイメージが湧きにくかっただろう。インタビューではその後、地域や医療に関して様々な見解が表明された。中でも地域で活動する専門職者への信頼と感謝、そして地域にもたらされる安心感についての語りが、様々に形を変えながら通奏低音の如く現れた。そしてこれらの心情は、医療施設内も含めた地域における専門職者との対話から生まれるものであった。

 ナラティブを重視した医療が求められている、ということを強調したいのではない。科学のエビデンスを提示するのにも、話し合うことは不可欠である。対話を重ねることで価値観の擦り合わせが進み、住民と専門職者の双方において、地域における医療の価値や充実感も高まっていくのではないだろうか。


■マンスリー・ジャーナルクラブ

ネットゼロのヘルスケアへ 臨床医への呼びかけ

医療生協こうせい駅前診療所 佐々木 隆史

Net zero healthcare: a call for clinician action
Jodi D Sherman, associate professorら
BMJ(British Medical journal) on 20 September 2021.
  https://www.bmj.com/content/374/bmj.n1323

4つの主な提言
①疾病の発生率と重症度を下げ、必要なケアの量と強度を減らすよう努めなければならない

②適切なケアを行い、不必要な検査や治療を避けることにより、資源の利用を最適化する

③サービスの重複を避け、移動に伴う排気ガスや不必要な建物の使用を減らすために、異なる医療機関間のケアの調整を促進する必要がある

④個人の臨床行動、医療機関での仕組み、ガイドラインや政策への貢献を通じて、変化を促すべきである

Planetary healthcare
 
Planetary healthcareとは、「first do no harm」の原則の視野を広げます。臨床医は、患者個人へのケアだけでなく、世代を超えて健康と幸福をもたらす地球の自然システムを保護する義務も負います。生態系の変化と人間の健康、そして人類が存在し続けることには決定的な関係があります。

 臨床医は、医療が有限な資源を消費し、有害な汚染をもたらすことを認識し、環境の資源管理が私たちの基本的なケアに不可欠であることを理解しましょう。他の産業と同様、気候変動が健康と福祉にもたらす最も悲惨な結果を避けるために、医療も温室効果ガスの排出を迅速かつ大幅に削減しなければなりません。

 ネット・ゼロ・エミッションの達成、すなわち自然および人工的な吸収手段と釣り合うまで炭素排出量を削減するためには、医療提供の効率と環境パフォーマンスを最適化することが必要です。しかし、それだけでは十分ではありません。私たちは、疾病の発生率と重症度を下げ、必要なケアの量と強度を減らす努力もしなければなりません。さらに、適切なケアを保証し、不必要な検査や治療を避けることによって、医療サービスの供給をその必要性に合わせなければなりません。このようにして、絶対的な排出量を削減する一方で、医療へのアクセスを拡大し、医療汚染による害とコストを軽減することでコベネフィットを実現することができます。

(もっと知りたい方は上記リンクおよび「ジェネラリスト教育コンソーシアム vol.17」掲載の原文・図表翻訳文を参照願います)

【コメント】温室効果ガス対策先進国での論文ですので、ヘルスケア分野では野放しの日本と比べて、実現への本気度が全く違います。英国のNHSでは2040年に医療業界でもCO2ネットゼロを目指して、現実的なプランを打ち出して実施しています。プライマリケアでの実臨床では、不必要な薬剤処方を減らすこと、吸入器では噴霧式をドライパウダー式に変えることより、大きな温室効果ガス排出削減となります。また、患者・職員の移動による温室効果ガス排出も多くなっています。ただ、入院と外来では一人当たりの温室効果ガス排出量が10倍程度違うので、入院を避けるように、外来でしっかりケアをすることも温室効果ガス排出抑制の大きな手段です。


■カイ書林図書館

アイルランド元大統領 Mary Robinson著
Climate Justice: Hope, Resilience, and the Fight for a Sustainable FutureBloomsbury Pub Plc USA, 2019

 先日TVのニュース番組で、グラスゴーの気候変動会議に参加した日本の若者の部屋に気さくに会いに来て彼らの質問に真剣に答える女性がいました。それがメアリー・ロビンソンでした。その対応に喜ぶ彼らに彼女が手渡したのがこの本です。

 彼女は、異常な温暖化に負けないで創意工夫で対応した一般庶民の方々に出会いました。力強く人間性にあふれたこの本「気候に正義を」は、現代の最も差し迫った人類の問題についての感動的な宣言の書であり、明快で、首肯でき、十分に検討された希望の書です。

 「忘れられた人、無視された人を擁護することで、メアリー・ロビンソン女史は、人間の苦しみに光を注いだだけでなく、私たちの世界により良い未来を照らし出した。」(バラク・オバマ)

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