エメラルドグリーンの太陽が、夜に溶け滑り落ちた春の日
4月、始まる新生活に、新たな人とのめぐり逢いや、かぐわしい日々の香りが広がり始める季節だ。僕は日々、同じ道を歩いて同じ場所へ赴き、同じように命をつぎ込んでいる。そこで毎日同じようで少しだけ違う、いや、少しずつ変わっていく空気感を傍観している。
暖かさや彩りをまとっている春の空を見上げると、少し霞んでいるようだった。この世界も僕らと同じように、暖かさをまとって空に舞い上がっているのだ。だから太陽は、本来放つ光とは違う色をしている。眩いのではない、散乱して朝を感じるような優しい光だ。
そんな柔らかい光を放つにも関わらず、この世界は誰の主張も、横暴も、権利も尊重してなんてくれない。ただあるがまま、あるべき方向に流れていく川のようなもので。僕らがこうあってほしいと願うものは、簡単に裏切られる。裏切られて悲壮や憎悪にまみれて弱くなり、あらゆるものを億劫に感じてしまう。些細なネガティブも、小さな幸せも留めることができなくなる。それでも、裏切りは悲しいものではない。自分が欲張りであるから、期待と違ったものを、裏切りという鋭利に錆びた言葉にして発してしまう。裏切られたと思ったら、自分を見つめ直して、省みるときなんだろう。穏やかに人を眺め、建物を眺め、提灯のような車のテールランプを流しながら自分を見つめてみるといい。小さな幸せを見出してみるいいって、緑に輝く薄い太陽が教えてくれた気がした。
物々しい閉塞空間を出て、帰路につく。僕のカラータイマーは騒がしすぎるくらいに点滅し、はりつめた心に平静を取り戻すべく歩を進めていた。昼にやさしさを帯びていた道は、冷たく沈んでいるようだ。まるで人の心のように。やさしく抱いてくれていたはずが、瞬きの刹那には酷く突き放してくる。自分の見ていた人は偽物だったのではと疑う。ドッペルゲンガーかと思って瞼が四方八方に踊るように向けられて、偽物ではなかったと自覚して瞳が揺らぐ。それほど時間によって違う表情を見せる世界に戸惑い、浦島太郎のような錯誤を自覚して、支配される。
だから僕は目を閉じて、ゆっくりと上を向いてみる。同じ情景が見せる違う景色に、愛おしさを抱いてみる。霞んで見えていたビルは光を放ち、厳かに存在を主張し続けていた。ぼやけた街灯にピントを合わせるように、手元のこれまた厳かなブラックボックスを触ると、世の中が音に包まれ四次元に飛ばされる。こうして、毎日が終わっていくのだ。
昼に漂っていた優しさが溶け落ちていた。夜に静かさを求めて息を吐いていた。混ざり合わない水と油のような二人が、共鳴しあう日を待ちわびて、来る日を祝うための祝福のハイボールを調合しよう。
その、カランカランとグラスの中で鳴る氷の音が、この世の愛おしさを孕んでいると信じて。
2024年4月22日 髙橋開成
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