見出し画像

『私の猫』感想 海野月歩

こんにちは。そしてお久しぶりです。海野月歩です。初夏の騒がしさが耳に響く季節、皆様はいかがお過ごしでしょうか。

今回は十文字青作『私の猫』について好き勝手記していこうかなあと思います。

私の猫 | 刊行物一覧 | 書肆imasu (thebooks.jp)

【十文字青先生について】


十文字青先生の作品は数作読んだことがあります。特に『薔薇のマリア』シリーズは私の人生に大きな影響を与えたくらい思い出深い作品です(『薔薇のマリア』のリンクも貼りたいのですが、KADOKAWAさんが大変なことになっていますので今回は控えさせていただきます。ちなみにレーベルは角川スニーカー文庫です)。
多作なライトノベル作家として知られていて、本屋で新作を見かける機会も多いです。『灰と幻想のグリムガル』は2016年にアニメ化されています。私も円盤すべて揃えてあります。

灰と幻想のグリムガル level.1 ささやき、詠唱、祈り、目覚めよ|オーバーラップ文庫 (over-lap.co.jp)

十文字青先生の作風といえば、泥臭いバトル描写、作り込まれた世界観、そして繊細な心情描写にあります。今までラノベ業界でめまぐるしい活躍を見せている十文字青先生の一般書、買わないわけがありませんよね。

【私の猫】

私の猫 | 刊行物一覧 | 書肆imasu (thebooks.jp)


ラノベを読まなくなって数年。すっかり一般エンタメやら純文学やら読むようになったので、一般書である『私の猫』が出版されると聞いて大層喜びました。十文字青先生の一般文芸が読める。大人になってしまった私からすればこれほど嬉しいことはありません。
『私の猫』は4編からなる短編小説集です。タイトルどおり、猫を題材にした短編小説集みたいです。登場回数に雲泥の差はあれど、4編すべてに猫が登場していました。しかし、メインは猫ではなく、あくまで人間たちの織りなす物語に焦点を当てています。猫はまるで空気のようにそこにいるだけなので、ネコチャンカワイイスーハーしたい人には不向きかもしれません。猫という存在について独特な視点を持っているなと感じる作品群でした。以下、短編4編のざっくりとした感想です。

父と猫

猫好きの父を私視点から見るお話。田舎……というよりも家族にはよくある出来事で、共感しやすかったです。家族間に発生するなんともいえない、もどかしい距離感を描いていました。親の心子知らずと言えばそうなのですが、親子間というのはどうしてうまく言葉にできないのでしょうね。

19981999

4編の中で一番アクが強くて一番ショックが強かった短編。主人公含め登場する人物たちが皆一様にクズ。よくこんなに多種多様なクズが描けるなと感心してしまいました。あまりにも多種多様なので、この短編のことをクズのレインボーと名付けてしまいました。そういえば『薔薇のマリア』にも多種多様のクズがいましたもんね。クズの引き出しが多くてすごすぎる。クズを描くのがうますぎる。強い物語で頭をガツンと殴られたい人向け。良くも悪くもエネルギーを使う作品なので、元気があるときに読みましょう。

愛はたまらなく恋しい

刹那的に生きるそれぞれの男女二人が、二人でいるときだけ穏やかな時間を過ごせるお話(だと判断しました)。優しくて悲しくて救いようがなくて、切ないお話。エネルギーは使いましたが結構好きなお話でした。この二人がちゃんと幸せになれる社会であれば良かったのにと思わずにはいられない作品でしたね……。恋にはならなかったけどこの二人の間にはちゃんとした愛があったんだなあ……。
こちらもエネルギーを使う作品なので、元気があるときに読むのをオススメします。19981999よりは優しい後味です。
そういえば十文字青先生ってこういう関係性を描くのがすごく得意なイメージあります。性別を超えた愛っていうのかな? そういうところがすごく好きな作家さんだなあと思います。十文字青先生の作品で救われた思春期の私がいます。

私の猫

こちらは2012年に掲載された作品らしいですね。全然知りませんでした。お恥ずかしい……。
やはり表題作だからなのでしょうか、4編の中で個人的に一番好きでした。私も家に猫がいるので、泣きそうになりながら最後まで一気に読んでしまいました。猫を愛している人は泣いちゃうかもしれません。
19981999と途中まで設定が同じだったので、もしかして自伝的な意味も込められているのでしょうか? 十文字青先生の人となりをあまり知らないのでなんとも言えないのですが、音楽も嗜んでらっしゃる作家さんなのでもしかして……? と思ってしまいます。19981999みたいにならなくて良かった。生きていてくださってありがとうございます十文字青先生……。
猫にも長生きしてもらいたいですけど十文字青先生にも長生きしてもらいたいですね……。できるだけ平穏に生きていてほしい……(クソデカ感情)。

【まとめ】


今回の短編小説集『私と猫』は純文学的な作品だったと思います。一つ一つの短編が軽い調子で描かれているのにも関わらず、内容はどれもヘビーで読むのにかなりのエネルギーを費やされます。強い物語でフルボッコにされたい人向けです。
なんだろう、既視感がある……と思ってたのですが、『薔薇のマリア』で十文字青先生のファンになったときに「十文字青先生の作品もっと読みたい!」と思って十文字青先生が当時webに掲載していた作品をしらみつぶしに読んで強い物語に頭を殴られた感覚に似ていますね……。『薔薇のマリア』ファンよりは、当時のweb作品ごと愛していた人向けかもしれません。そんな私ももうそれなりの大人になりました。懐かしさを覚えつつ、良くも悪くも成長してしまった自分はこれから先十文字青さんの作品を読むことがあるのだろうかと心配していたところもあったので、今回の『私の猫』出版は本当に嬉しかったです。

こちらの短編集では、猫は自然体の生き物として描かれていて、決して「ネコチャンカワイイネエ!!!!!!!スーハースーハー」する本ではないです。なので猫に癒しを求めている人が読むと肩透かしを食らう可能性があります。どちらかというと、普段から猫を共同生活を送っている人向けの物語かと。家族として自然体な猫の姿がこの小説にはあります。

もしこれからも十文字青先生の一般小説が出版されましたら読みたいですので出版社の皆様はよろしくお願いします(!?)。
装丁も素敵ですので、もし興味がおありの方は読んでみてくださいね!