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演劇のおもしろい 第6回 「場」を支える

毎回レッスンが終わると、その日の流れから次回はこんなメニューにしようとメモすることにしている。
一週間後、そのメモと当日の参加者の様子を見ながら、あれやこれやとレッスンを組み立ててゆく。

予めひとシーズン全10回の中で扱うであろうプログラムは一度上げてあるのだが、いつやるかはレッスンの流れの中で決めることにしている。

さてそのメニューだが、ニシワキが独自に考えたものはほとんどない。かつて体験したワークショップで自分が楽しめたものや、本などで紹介されているものが多い。それをニシワキなりにアレンジしてるものもあるけれど、目新しいものはない。

自分の劇団の稽古を日常的にやっていた頃は、メンバーの誰かがどこかのワークショップを受けてきたら、どんなメニューだったか集団内で共有するようにしていた。昨日受講した者が、今日はそれを講師として教えることになる。

教えることは「学び」になる。演劇だけではない、学校でも職場でもよく経験することだと思う。
誰かに教えるとなったら、「相手をよく観察する」「伝える言葉を吟味する」「その人の可能性に想像力を膨らませる」といったことをやらざるをえない。それだけでとても演劇的だったりもする。
だから、うまく伝えられるかはあまり問題ではない。解説できる必要もない。「いやー、私も昨日あまり意味わからなかったんだけど。とにかく、楽しかったから、一緒にやってみない」てなことで構わないのだった。

機会があれば、誰かにこのスタジオで体験したことを伝えてみて欲しい。学校や職場で、試せることも多いかもしれない。

さて、今日のテーマは《「場」を支える》だ。

まずは、「場」を作ることからはじめよう。

それぞれの頭の中で、なにか一つ具体的な「場所」をイメージしてもらう。
具体的というのは、たとえば家の中なら「キッチン」「リビング」といった場所のことで、でも「私の部屋」といったプライベートな場所だったり、その場所になにがあるのかイメージを共有しづらい場所はなし。
学校の教室、ラーメン屋、バスの中…屋内にかぎらなくていい、グラウンド、海水浴場、ディズニーランド…どこだってかまわない。

頭の中で一つ「場所」を決めたら、その場所を具体的にイメージしながら動いてもらう。しゃべっちゃダメで、動作も無対象のパントマイム状態で行う。
そこがキッチンなら…まな板を出して、包丁を取りだし、冷蔵庫を開け、野菜を取りだし、ついでに缶ビールも取りだし、プシュッとやりつつ、まな板の上でトントントントンとなにかを刻みはじめ、また一口ビールを流し込み、お皿を出し…すごいテキトウに書いてるけど、ビールとつまみをこしらえる芝居をたとえばしてみる。

他のメンバーは、それを見ながら「ここはどこだろう?」とイメージを膨らます。で、わかったと思ったら(間違っていてもかまわない)、その空間に入って行く。
もちろん、それまでの演技に使われた冷蔵庫やまな板の形や置き場所を勝手に変えてはいけない。前の人の演技で現われた空間に入って行くこと。
それまでになかった物をつけ加えるのはあり。でもそれも、あくまでも「空間を豊かにする」方向でつくること。ここでもまた、「こわす」おもしろさは必要とされていない。

そうやって、どんどん人数が増えてゆき、空間も豊かになっていくといい。
単純だけど、おもしろい。
特に人数が増えると、すべての人のすべての動きを把握できるわけではないので、アクシデントも起きる。なん人もが一斉に包丁をあつかい出したら危ないだろ!といったことが。それは、それでトラブルを楽しめばいい、
でも調子にのって「こわす」方向に流れてはいけない。しつこいようだけど。
その空間をリアリティのある「場」としてキープすること。

つまり「場」を支えて欲しい。

たいてい、一度やってみると感じがつかめる。

では、次の人の決めた空間でやってみよう。

すぐに空間に入ってくる人もいれば、常に慎重に入ってくるひともいる。それぞれでかまわない。
《「場」を支える》意識がまずは大事。

この日現われた場所は、スーパーパーケット、体育館、公園など。

慣れてきたら、会話もしてみる。

ある程度「場」に人が増えたところで、スイッチオン!と声をかける。
テレビやパソコンの「消音」ボタンを解除した感じ。その瞬間から、声を出しておしゃべりが始まる。
それまで無音で演じていたところが、急に騒がしくなる。一斉にしゃべりはじめるので、すべての言葉が聞き取れ分けでもないのだが、それはそれで賑やかで楽しい。

ポイントとしては。

ひとりだけで演じないこと、完結しないこと。誰かとコミュニケーションをとっていると「場」を支えやすくなる。
それから何かしらその「場」にいる目的を見つけると、会話が生まれやすくなる。
そんなことに気づいてもらえるといい。


あいうえお劇場

今度は、場所はこちらで指定する。
とりあえず「ラーメン屋」としてみる。
カウンター席とテーブル席をイメージして、椅子をいくつか並べる。

大ざっぱに役割も決める。
店の人が2、3人いて、その他の人はお客さんといった具体に。

でも、そのくらいにして、あとは即興で演じてもらう。
店員役の人は、調理している人や配膳してる人と役割を勝手に決めていい。
お客さん役の人は、すでにラーメンを食べていてもいいし、これから店にやってきてもいい。
おしゃべりもあり。

ただし、一つだけルールがあって、会話の頭が「あいうえお順」でなければならない。

どういうことかというと。
よーい、はい!ではじまったら、誰が話をしてもいいのだけど「あ」から始まらなければならない。

お客「あのー、味噌ラーメンまだですか?」

とか。
すると、次は「い」から始まることしか言ってはいけない。

店員「今、できますよ。おまちくださーい」

とか。
それぞれが、役割に応じて言葉を探していく。早く言ったもん勝ち。いや、べつに勝ち負けじゃないんだけど。
でも、そうやって五十音順でセリフが交わされていく。

お客「うめぇー、このチャーシュー!」
お客「ええ!ちょっと食べさせてよ!」
店員「お客さん、静かにお願いします」

とかとか。
そうやって、なんとか「わ」「を」「ん」まで続ける。

なかなか思いつかなければ強引な会話の展開でもかまわない。

「ぬ」や「る」から始まる会話はかなり難しい。

言葉を探すことだけに一生懸命にならないこと。
演技を続けながら、なんとか会話になるように、その「場」にふさわしい、その「瞬間」その「役」にあった言葉を探してみてる。
繰り返しだけど、強引でもかまわない。
ゲームだと思って楽しんで欲しい。


UNOというカードゲームがある。
場に出されたカードの数字や色、記号に関わるカードが次々に場に出されていく。少し似ているかもしれない。
演劇の場合、ことばは、その場に残らず時間の遠方に消えていくけど。
一つの言葉が舞台上の人物の口から発せられる。次の瞬間、違う誰かの口からの言葉が重ねられる。もう前の言葉の姿は見えない。積み重なり山となってゆくことはなく、次々と消えていく。

俳優は台詞を言い続けることで、その場を見続けることで、その場に居続けることで、場を支える。

勝手におりることは許されない。
さあ、がんばれ!

あ、そうそう、この「あいうえお劇場」はニシワキのオリジナルに近い。もう忘れてしまったが、はじめにやった「場」を作るレッスンから、ある時いろいろ発展していって、こんな形になった。

決められたメニューと時間通りに進行していると、そういった楽しいことが起こらなくなってしまう。

さて、次回はなにをやろうか…。


また来週。


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