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輸出免税から消費税が経済活動に中立かを考えてみよう。

消費税の適格請求書等保存方式(インボイス制度)が開始される前後に「輸出企業は消費税の還付を受けてズルい」との声をよく聞きました。

確かに消費税の還付を受けていると聞くと、自分は買い物のたびに消費税を取られているのにズルいという気持ちになります。でも、商品を輸出している事業者が消費税の還付を受けるのは、特にズルいわけではありません。むしろ、消費税の還付を受けられないのなら、輸出している事業者は国内で販売するより利益が少なくなって不公平になります。

今回は、輸出している事業者が消費税を還付される輸出免税について簡単に説明します。なお、消費税の仕入税額控除について自分の言葉で説明できない方は、いったん以下の記事を読んでから今回の記事を読み進めてください。

輸出は売価に消費税を乗せない

まず、330(税込)で仕入れた商品を国内で550(税込)で販売した場合の消費税の計算から見ていきます。消費税率は10%とします。

消費税の納税額は、売上げに係る消費税から仕入れに係る消費税を差し引いた金額となるので、上の例では20が納税額になります。

国内販売の売上げに係る消費税
=税込売価 × 10/110
=550 × 10/110
=50

国内販売の仕入れに係る消費税
=税込仕入 × 10/110
=330 × 10/110
=30

国内販売の消費税の納税額
=売上げに係る消費税 - 仕入れに係る消費税
=50 - 30
=20

次に全く同じ商品を輸出した場合を見ていきましょう。
輸出の場合、売価に消費税を乗せないので、500で海外に輸出することになります。仮に輸出の場合も、売価に消費税を上乗せすると、海外に住んでいる人が日本に税を納める形になります。これは、日本人にとってはありがたいことですが、海外に住んでいる人にとっては、他国のために税を負担することになるので文句を言いたくなります。だから、輸出の場合は、売価に消費税を乗せないことになっています。
一方、仕入価格は、輸出の場合も330(税込)です。
消費税の納税額の計算は、基本的に国内で販売する場合と同じですが、輸出の場合、売価に消費税が含まれていないので、売上げに係る消費税はゼロとなり、仕入れに係る消費税30だけが計算されます。そのため、輸出の場合は、仕入れに係る消費税30の還付を受けることになります。

輸出の場合の売上げに係る消費税
=税抜売価 × 0
=500 × 0
=0

輸出の場合の仕入れに係る消費税
=税込仕入 × 10/110
=330 × 10/110
=30

輸出の場合の消費税の納税額
=売上げに係る消費税 - 仕入れに係る消費税
=0 - 30
=-30

納税額が-30となったので、30の還付を受けます。

国内販売も輸出も利益は同じになる

上の例では、国内販売だと20の納税、輸出だと30の還付になっています。これだけを見ると、輸出が有利に思えます。でも、国内販売でも輸出でも、利益は同額の200になるので、どちらが有利ということはありません。

国内販売の利益
=売上 - 仕入 - 納税額
=550 -330 - 20
=200

輸出の利益
=売上 - 仕入 + 還付額
=500 -330 +30
=200

もしも、輸出した場合に仕入税額控除(還付)が認められないと、利益は170になります。これでは、不公平ですよね。だから、輸出の場合は、仕入れに係る消費税を還付して、利益が国内で販売したのと同じ結果になるようにしているのです。この点では、国内販売の場合も輸出の場合も、消費税は中立の立場にあると言えます。同様に観光地でよく目にする免税店が、海外からの旅行者に商品を販売したときに売価から消費税を値引きした場合も、仕入れに係る消費税の還付を受けられます。

国内販売と輸出の比較

免税店が日本人に販売する気がなかったら

輸出の場合も、免税店が海外からの旅行者に商品を販売する場合も、通常、消費税の還付を受けることはズルくありません。でも、時に還付を受けることがズルいと思えるような場合もあります。

例えば、先の例のように日本人には550(税込)、海外からの旅行者には500(税抜)で販売していた免税店が、どうせ日本人はあまり買い物をしていかないのだから、海外からの旅行者だけを相手に商売をしようと考えたとします。
そして、海外からの旅行者は、値段が少々高くても買い物をしていくはずだと考え、売価を500(税抜)から550(税抜)に10%値上げしたとします。したがって、この場合、税込売価は605になります。

値上げしたことで、日本人は買い物をしなくなったとしても、海外からの旅行者がこれまでと変わらず買い物をしてくれれば、免税店にとっては問題ありません。しかも、売価を10%値上げしているので、これまでより多くの利益を見込めます。この場合、免税店の利益は250になります。

免税店の利益
=売上 - 仕入 + 還付額
=550 - 330 + (330 × 10/110)
=550 - 330 + 30
=250

全く同じ商品を日本人向けに550(税込)で販売しているお店は、利益を200しか得られません。対して、免税店は550(税抜)で販売して250の利益を得ています。なんかズルく感じますよね。日本人向けに販売しているお店も、免税店も、顧客から受け取っている代金は550です。それなのに免税店の場合は、消費税の還付を受けられるのですから。

国内販売と輸出の比較(免税店が10%値上げ)

605(税込)から550(税抜)に値引きすると、海外からの旅行者は得した気分になります。免税店は、605という価格をダミーで設定しているだけなのですが。

ただ、このような売り方がいけないわけではありません。売価は、販売店が自由に設定すればよく、通常は、同じ商品なら他店と同じ価格にしなければならないという決まりもありません。買ってくれる顧客がいるのなら、高めの価格設定にした方が良いですよね。

日本人に販売する気がない免税店が消費税率の引き上げと法人税率の引き下げを政府に要求したら

ここで、国内販売の場合と免税店(輸出)の場合の法人税についても見ておきましょう。なお、法人税等の法定実効税率は30%とします。

国内で550(税込)で販売していた場合の消費税引後の利益は200でした。この200に30%を乗じた60が法人税の納税額になります。

国内販売の法人税
=利益 × 法人税率
=200 × 30%
=60

よって、国内販売の法人税引後の利益は140になります。

国内販売の法人税引後利益
=利益 - 法人税
=200 - 60
=140

一方、免税店(輸出)が税抜価格を10%値上げし550で販売した場合の法人税の納税額は以下の計算より75になります。

免税店(輸出)が10%値上げした場合の法人税
=250 × 30%
=75

よって、免税店(輸出)が10%値上げした場合の法人税引後の利益は175になります。

免税店(輸出)の法人税引後利益
=250 - 75
=175

このように税込か税抜かの違いはあるものの、売価を同じ550に設定した場合では、免税店(輸出)の方が利益が多くなります。

法人税率30%の場合の国内販売と輸出の比較(免税店が10%値上げ)

また、納めている税額を見ると、国内販売は消費税と法人税を合わせて80(20 + 60)なのに対して、免税店(輸出)は45(-30 + 75)でしかありません。

このような場合、免税店(輸出)に対して不公平だと思う気持ちはわかります。でも、先ほども述べたように売価は販売店が自由に決められるので、このような価格設定をする免税店を非難してはいけません。

消費増税と法人減税でさらに不公平感が増す

さて、先ほどの免税店が、こんなことを考えたらどう思いますか。

「法人税率が引き下げられれば、もっと利益が増えるな。よし、政府に消費税率の引き上げと交換に法人税率の引き下げを要求してみよう」

ますます免税店の納税額が少なくなって、不公平な気分がふくらみますよね。

例えば、消費税率が20%に引き上げられ、法人税率が20%に引き下げられた場合を考えてみましょう。

国内販売の場合は、消費税率の引き上げで商品を360(税込)で仕入れることになります。そして、売価は税抜500なので、税込だと600になります。
消費税率が引き上げられても、本体価格を値上げしなければ、消費税引後の利益は、増税前の200と同じです。

国内販売の消費税の納税額(税率20%)
=600 × 20/120 - 360 × 20/120
=100 - 60
=40

国内販売の消費税引後利益(税率20%)
=600 - 360 - 40
=200

そして、法人税(税率20%)を差し引いた後の利益は、160になります。

国内販売の法人税引後利益
=200 - 200 × 20%
=200 -40
=160

国内販売に専念している事業者は、消費増税、法人減税で利益が20(160 - 140)増えたと喜ぶことでしょう。でも、免税店が税抜売価を当初から20%値上げし600で販売した場合には、もっと利益が増えます。

免税店の消費税の還付額(税率20%)
=600 × 0 - 360 × 20/120
=0 - 60
=-60

免税店の消費税引後利益(税率20%)
=600 - 360 - (-60)
=300

免税店の法人税引後利益
=300 - 300 × 20%
=300 - 60
=240

免税店が20%値上げした場合の法人税引後の利益は240となり、国内販売の場合の利益160より80も多くなっています。それにより、両者の利益の差は、さらに拡大しています。

消費税率20%/法人税率20%の場合の国内販売と輸出の比較(免税店が20%値上げ)

日本人に販売する気がない免税店(輸出)が、消費増税、法人減税を政府に求め、その通りになったら、ますます不公平感が大きくなります。でも、何度も言いますが、売価は販売店が自由に決定できるので、このような免税店があっても非難してはいけません。

上の図を見ると、免税店は、60の法人税を納めていますが、60の消費税の還付を受けているので、税負担がゼロになっているのがわかると思います。なんか、もやもやしたものが心に残りますが、それでも、免税店を非難してはいけません。

YouTubeの広告収入に消費税は課されない

最近は、YouTubeにチャンネルを開設して動画を投稿し、その動画に掲載される広告から広告料を受け取っている人が増えています。副業として動画投稿をしている方も多いかと思います。

さて、YouTubeから受け取る広告料ですが、これに消費税はかかりません。消費税は、国内取引が対象となりますが、YouTubeの広告は、アメリカのGoogleが配信しているため、国内取引とはならず、課税対象外取引(不課税取引)になります。ちなみに2015年までは、Googleから受け取る広告料は輸出免税でした。

これ、ちょっと変だと思いませんか?
動画を投稿するのも見るのも日本人ですし、その動画に広告を出すのも日本の事業者です。

  • チャンネル運営者は日本人

  • 動画の視聴者は日本人

  • 動画に広告を出稿しているのは日本の事業者

だったら、YouTubeから発生する広告料は国内取引じゃないのかと思いますよね。でも、国内取引とはならないことになっています。

もしも、YouTubeと同じサービスを日本企業が提供していた場合には、もちろん、課税取引となり消費税がかかります。

あなたが、これから動画配信で広告収入を得ようと思っていたら、YouTubeと日本企業の動画投稿サイトとどちらを選択しますか。
YouTubeを選びますよね。消費税の申告も納税も必要ないのですから。

動画投稿者、視聴者、広告主の間にGoogleをかますだけで、課税対象外取引にできるのなら、誰だってYouTubeで動画を投稿します。これだと、日本企業が、YouTubeと同じサービスを提供しても勝てませんよね。
先ほど、国内販売の場合も、輸出の場合も、消費税は中立だと述べました。しかし、インターネットの普及で、国境を越えた電子取引をできるようになっている現代においては、国内取引に対象を絞ることで、逆に税の中立性が損なわれてきています

YouTube同様にウェブサイトやブログにGoogleが配信する広告を掲載した場合も、広告料がシンガポールのGoogleから支払われるので、国内取引とならず、消費税の課税対象外です。

YouTubeやウェブサイトの広告から受け取る広告料についての消費税の取扱いについては、以下のブログで詳しく解説しているので、ご覧になってください。

上記ブログは、消費税について大変詳しく解説されています。会社の経理で働いている方や個人事業主の方は、ブラウザのお気に入りに追加しておくことをおすすめします。

YouTubeの広告収入がどんなに巨額でも課税事業者にはならない

年間の課税売上が1,000万円を超える場合、消費税の課税事業者になります。ところが、YouTubeの広告収入が1,000万円を超えても、課税事業者にはなりません。YouTubeの広告収入は課税対象外取引のため、課税売上とはされないからです。

だから、有名なチャンネル運営者が、年間数千万円や数億円の広告料をYouTubeから受け取っていても、1円も消費税を納めなくて構いません。ズルいような気がするでしょうが、脱税でも租税回避でもないので、YouTuberの方を非難してはいけません。

インボイス制度に賛成し、免税事業者が益税で得しているとの動画をYouTubeに投稿している人が、多くの広告収入を得ていても非難してはいけません。「そんなことは、日本企業が運営するサイトに動画を投稿し、広告収入に対して消費税を納めてから言えよ」とは思いますけどね。

今後、消費税率が引き上げられ、法人税率が引き下げられた場合、YouTubeから広告収入を得ている人は、さらに税の優遇を受けられます。消費税率が20%に上がっても、消費税を納めなくても良いですからね。しかも、個人で動画投稿をしている人は、法人税率が30%から20%に引き下げられた場合、会社を作れば、さらに節税できます。
なんか不公平に感じますよね。

新聞社のニュースサイトに掲載しているGoogleの広告も消費税はかからない

2023年12月現在、食品と新聞は、軽減税率の8%が適用されています。そのため、新聞社は、定期購読の新聞については、8%で計算した消費税を納めています。

新聞社は、紙の新聞以外にも、ニュースサイトを運営していることが多いです。その中にGoogleの広告を掲載している場合がありますが、これは、先ほども述べたように課税対象外取引なので、広告収入について消費税を納める必要はありません。新聞社は優遇されているなと思いますが、新聞社を非難してはいけません。

Googleと同じような広告を配信している企業は、日本国内にもあります。最近では、広告枠の相互乗り入れが行われており、Googleの広告を掲載しているウェブサイトに日本の広告会社の広告が表示されることがあります。反対に日本の広告会社の広告を掲載しているウェブサイトにGoogleの広告が表示されることもあります。

このような場合、消費税のやり取りがどうなっているのか、さっぱりわかりません。

インターネット上では、国内取引と海外取引が混在するのは当たり前になっています。それなのに国内取引に限定している消費税は、時代遅れのガラパゴス税(略してガラゼー)と言わざるを得ません。

インターネットがなかった時代であれば、国内取引に対象を限定しても、消費税は経済活動に中立だったでしょう。しかし、今は、そのような時代ではありません。

日本だけでなく、他国も、消費税(付加価値税)の廃止を議論すべき時が来ていると思うのですが。

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