<旅日記⑭ Sep.1995>(バンコク・アユタヤ・マレー鉄道の旅へ④)
ちょっとアユタヤに行ってみよう!
タイ、マレーシア、シンガポールの3か国を串刺し状に縦断する国際列車・マレー鉄道に乗る日まであと1日あったので、この日はバンコックの駅から郊外に向かうローカル列車でタイの古都アユタヤに出掛けてみることにした。
朝8時50分に出れば、約1時間20分後の10時10分にはアユタヤに着くことができた。駅の近くのレンタル屋さんで大切なパスポートを“質”にして自転車を借り、のどかで緑豊かな田園風景の中へ走り出した。
雨期のあとだったせいか水路から道路に水があふれ出ていたが、快晴だったのでこれが逆にキラキラ、瑞々しい風景と映った。
追記 アジアの大湿地帯のような国土が多くを占めるタイでは、雨季ともなれば洪水があふれるのだろう。ただ、アユタヤで目にした道路にあふれた水は瑞々しかった。他に方法はないのでその上をレンタルサイクルで走ったが、気持ちよかった。途中、道路にあふれた水でクルマを洗っている人たちとも出会った。生活の知恵だ。
銀行が、「シャワーを使ってはどうですか」と、もてなし。
とはいえ、暑いタイだから半日も自転車に乗っているとすっかり汗だくになっていた。駅の近くに戻り、銀行の窓口に行き、日本円からタイ・バーツへの両替を頼むと、奥から男性の行員が飛んできた。また、これはこの前のオリエンタルホテルの一件のように追い払われるのかと思えば、「まあ、どうぞ、こちらへ」と招かれたのであとについていったところ、「シャワーを使ってはどうですか」という気遣いだった。
まさか、銀行でこのような歓待を受けるとは思ってもみなかった。さっぱりしてその行員さんと応接室でお話することになったが、この地域に進出する日本企業が増えているということだった。わたしは、タイという国にほとんど経済的貢献のない貧乏旅行者ではあったが、わたしの後ろ盾には日本国が存在していることを認めざるを得なかった。
丁重にお礼を述べて、街に出た。
カフェのスイス人の男が、Congratulations!
ローカル列車に乗るまでに少し時間があったので、西洋風のカフェに入りカウンターに腰をおろした。カウンターの中にいたのはスイス人の男で、わたしが仕事を辞めて旅行をしていると言うと、「Congratulations!」と祝福を受けてしまった。さっきの銀行では先月まで新聞記者だったことを話したところ、企業進出と経済の話題だったが、こちらでは「さあ、お前も俺といっしょだ。さあ、楽しく、気楽に生きようぜ!」という“祝福”だ。
まあ、しようがない。グラスに冷たいハイネケン・ビールを注いでもらった。
「そうか、今からヨーロッパに行くなら、どこに行くと良いか、ルートを書いてあげるよ」。「アムステルダムから、ベルギーだろ。 ベルギーへ行ったら・・・・」と、オススメの旅程表を書いてくれた。
「グッド・ラック!」。かれの笑顔に見送られた。
頭の中は、アジアから徐々に、未だ見ぬ欧州へと切り替わりつつある。
「タイは天国のような国だよ」。
バンコックに戻る列車で久しぶりに日本人と会った。
タイに住み、ときどき、インドを旅しているという。
に、しては色は白く、服装も白いワイシャツと、このあたりではフツウだ。「タイは天国のような国だよ」。
インドなどユーラシアの国々と比べての話だった。かといって、わたしは竜宮城のようなタイに居ついてしまうわけにはゆかない。そこが、スイス人から冗談とも本気ともわからない「Congratulations!」と祝福されても、一歩距離を置く自分と重なる。
(1995年9月27日)
「てらこや新聞」97号 2013年 05月 04日掲載
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