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コバルトのワンポット反応

概要

コバルトイオンに他の物質が結合して起きる様々な変化を、1つのフラスコ内でお見せします。


実験試薬

溶液1・塩化コバルト(Ⅱ)六水和物水溶液(CoCl2・6H2Oaq) 4.2×10−2mol/L 10mL
溶液2・炭酸ナトリウム水溶液(Na2CO3aq) 0.1mol/L 4mL
溶液3・水酸化ナトリウム水溶液(NaOHaq) 0.4mol/L 2mL
溶液4・塩酸(HClaq) 3mol/L 0.5mL
溶液5・酒石酸カリウムナトリウム水溶液(C4H4KNaO6・4H2Oaq) 0.9mol/L 11mL
溶液6・35%過酸化水素水(H2O2aq) 5mL


使用器具

2mLピペット×2、5mLピペット×1、10mLピペット×3
200mL三角フラスコ、スターラー(攪拌機)&回転子、湯煎器
実験準備
1.溶液1、溶液4をそれぞれ10倍、4倍希釈する。
2.溶液6は氷水に浸しておく。


実験手順

1.溶液 4 まで入れたフラスコと酒石酸カリウムナトリウム水溶液を湯煎。
2.三角フラスコに回転子を入れ、スターラーにセットする。
3.駒込ピペットを用い、溶液 1~4 を指定量ずつ順番どおりに入れていく。
4.湯煎しておいたフラスコと入れ替える。
5.駒込ピペットを用い、溶液 5~6 を指定量ずつ順番どおりに入れていく。


原理説明

※noteの仕様上、イオンの正負符号などを小文字で表記できていません。
 気になる方は、PDF版をご覧ください。

<経過>(反応の重要な部分を中心に)
溶液1:ヘキサアクアコバルト(Ⅱ)イオンのピンク色溶液
CoCl2 + 6H2O → [Co(H2O)6]2+ + 2Cl-

溶液2:炭酸ヘキサアクアコバルト(Ⅱ)の紫色沈殿
[Co(H2O)6]2+ + CaCO3 → [Co(H2O)6]CO3 + Ca2+

溶液3:水酸化コバルトの青色沈殿
[Co(H2O)6]CO3 + 2NaOH → Co(OH)2 + Na2CO3 + 6H2O……(*)

溶液4:溶液1と同じピンク色溶液
Co(OH)2 + 2HCl + 4H2O → [Co(H2O)6]2+ + 2Cl-

溶液5:赤色溶液(溶液 4 に酒石酸イオンC4H4O62-などが加わったのみ)

溶液6:二酸化炭素(CO2)と酸素(O2)の泡が発生し緑色になった後赤色溶液に戻る。(詳細後述)
C4H4O62- + 2H2O2→ 2C2H2O4〔シュウ酸〕+ 2H2O + 2e-
2H2O2 → O2 + 2H2O [Co(H2O)6]2+、C4H4O62-


解説

本実験で反応が起こる原理は、中心となる金属イオン(ここではCo2+)に水、水酸化物イオン、酒石酸イオンなどの溶液中の粒子が結合し、金属イオンの電子の状態が変わることで溶液の光の反射の仕方や水への溶けやすさが変化することによるものである(この状態を錯体という)。銅や鉄など他の金属イオンでも同様の反応が起きる。……(*’)(詳細後述)

最後の泡が出る反応について詳説する。酒石酸イオンC4H4O62-は高温で[Co(H2O)6]2+と反応し、二酸化炭素を放出して緑色のコバルト―酒石酸塩活性錯体を形成する。活性錯体は、遷移状態(化学反応が起こる際に必要なエネルギーを持ち、実際に反応が起きようとしているor起き始めている状態)にあり、非常に壊れやすいため、酒石酸イオンはすぐに過酸化水素に酸化されてシュウ酸(C2H2O4)となり、コバルトは元の[Co(H2O)6]2+に戻る。この過程で酸素が発生する。
また、活性錯体が壊れる際の発熱で、反応後のフラスコは非常に高温になり、場合によっては湯気が出る。反応全体としては、酒石酸イオンは酸化されて減少し、[Co(H2O)6]2+の量は変化せず触媒としてふるまう。

なお、実験経過で示したように反応後も未反応の酒石酸イオンが溶液中に残っているため、過酸化水素水を追加すると、溶液中の酒石酸イオンがシュウ酸に変化しきるまで繰り返し反応が見られる。ただし、徐々に反応は穏やかなものになってゆく。また、同じ反応をより多くの薬品で行うと、泡の出る勢いがかなり激しくなり、細心の注意を払う必要が生じる。

※(*)の化学式から分かるように、NaOHaqを加えると、それまではCo2+の配位子として働いていたH2Oが独立している。そのため(*)をろ過すると、ろ液は完全に無色透明な水となり、ろ紙にはCo(OH)2やNa2CO3が付着する。


補足説明

1.ワンポット反応とは?
ろ過や分離などをせずに、一つの反応器の中で複数の反応を連続して行い生成物を得ること。低コスト・低エネルギーで合成ができ、近年注目されてきている。工業化に向けた触媒研究などが進んでいて、日本でもインフルエンザ治療薬「タミフル」の合成などが研究されている。本実験は工業的に役立つものではないが、同じビーカーで次々と反応を起こしていく点でワンポット反応の一種と言える。

2. なぜ湯煎するの?
原理の解説で記したように、酒石酸―コバルト錯体は高温でないと生成しないので、反応熱だけで生成するのを待っていると3~10分程もかかり、文化祭での実験として成立しない。そのため、コバルトイオンを含むフラスコと酒石酸ナトリウムカリウム水溶液の両方を湯煎して反応を速めている。なお、過酸化水素水は低温にしておかないと分解してしまうため、湯煎できない。なお、フラスコを入れ替えずに素早い反応ができないか模索中である。

3. (*’)コバルト以外の金属ではどのような結果になるのか?
前述したように、今回の実験ではコバルトイオンが中心となって反応が進んでいるが、原理上はほかの金属イオンでも同じように成立するはずである。そこで塩化亜鉛、塩化アルミニウム、塩化クロムなどで試したところ、以下のような結果となった。

上図より、すべての金属で反応するのではなく、一部の金属のみで反応することが分かった。そのうえで、泡が生じた金属(コバルト、銅、アルミニウム)の共通点はそれらの金属イオンの配位数が6個であることである。しかし、この仮説が正しければ、FeCl3でも泡が生じるはずである。

この実験においてまだ解明されていないことは数多くあるが、今後の活動を通してそれらを解明し、理解をさらに深めていきたい。


参考文献

・中原勝儼  『色の科学』  培風館
・日本化学会編  『実験による化学への招待』  丸善出版
・海城学園化学部  『白クマの化学』  2005 年
・日本化学会 『環境・安全化学・グリーンケミストリー・サスティナブルテクノロジー ワンポット合成反応』 

https://division.csj.jp/div-report/18/1820112.pdf

・千葉県教育委員会 『反応速度・化学平衡の指導方法の研究』

https://www.chiba-c.ed.jp/shidou/k-kenkyu/H19/k200715.pdf

・日本学術振興会 『KAKEN タミフルのワンポット,ワンフローでの集積化全合成』


KCC Quiz ワンポット反応編

Q1.ヘキサアクアコバルト(Ⅱ)イオンの「ヘキサ」は「6個の」と言う意味だが、何語か。
①ドイツ語 ②ラテン語 ③ギリシア語 ④イタリア語

Q2.ヘキサアクアコバルト(Ⅱ)イオンの「ヘキサ」は「6個の」という意味の言葉だが、では「2個の」を意味する言葉は次のうちどれか。
①モノ ②ジ ③トリ ④テトラ

Q3.ワンポット反応は廃棄物を抑えられるため、「グリーンケミストリー」という観点において比較的優れているとも言われる。この考え方を提唱した機関はどれか。
①EPA ②WHO ③UNIDO ④OECD

Q4.溶液6を加えた時の過酸化水素水の働きは以下のうちどれか。
①酸化剤 ②還元剤 ③消化剤


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