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リプレイにはまった年末年始の読書記録

読書記録の2022年1月分。
去年のnote運用の反省は、映画一本や本一冊に対して記事一本は荷が重すぎるというものだった。今年は月ごと(あるいは数カ月になるかもしれないが)の読書体験や映画体験、ほかあらゆる体験を振り返って感想の出力機会としたい。

ダブルクロスリプレイ

最近ダブルクロス(TRPG)のリプレイを読み漁っている。正直こんなに時間を使ってしまっていいのだろうかと思うくらいだ。ひとつ前の版であるDX2ndのリプレイから読み進めていて、去年はダブルクロス・リプレイ(薬王子結希が出てくるやつ)、リプレイ・トワイライト(1930年代のステージ、ウィアードエイジを舞台にした活劇)、リプレイ・ジパング(戦国時代もの)、リプレイ・デザイア(現代京都を舞台にした『悪の組織』FHの物語)、リプレイ・ストライク(ギャグラノベ風味)あたりを読了した。

実は無印リプレイを読了したあとにリプレイ・オリジン(高崎隼人と玉野椿のバディを中心としたシリーズ)を読み始めていたのだが、京都を舞台に自分がDX3rdのキャンペーンを企画した都合などがあり途中でリプレイ・デザイアに鞍替えしてしまった。なのでシリーズ最終巻だけが読み終わらないまま、新潮文庫の「YONDA?」ブックカバーの中に眠ってしまっていたのである。現在はこれをやっつけようとしているところだ。

リプレイを読みながらTRPGサークルでDX3rdを数カ月遊んだ感想としては、DX3rdはリプレイを読んだ方が数倍面白い。パーソナリティーズの背景や物語の理解が深まるし、世界観への没入度がぐっと高まると感じた。ダブルクロスは版を重ねるうえでリプレイの事件が公式の世界設定に組み込まれており、もはや設定資料の一部を成しているともいえる。DX3rdのGMとして、リプレイの摂取はシナリオソースとしてもTRPG体験としても、買い支えとしても今後継続したい読書ジャンルだ。

話が逸れるが、去年はダブルクロス制作陣の三名(矢野俊作、田中天、中村やにお)の肉声CoCセッションを聴く機会があった。

配信者とは違ったプレイテクニックが見られ、こうしてリプレイが生まれているのかと大変参考になった。
去年読んだリプレイの中ではデザイアに次いでトワイライトのインパクトが凄まじく、僕もすっかり田中天のファンになったので、今後は出演陣に着目して他システムのリプレイにも手を出してみたい。


『農村と精神更生』賀川豊彦

年末に実家帰省の際、親戚宅の整理に駆り出され土蔵の古い品物などを整理した際、医師だった大叔父の仕事道具とともに出てきた古本である。
かりにも若月俊一を追って農村医学を志す身、題名とお洒落な表紙に惹かれて思わず持ち帰った。

著者の賀川豊彦はガンジー、シュヴァイツァーと並んで現代の三聖人とも称されるキリスト者にして社会運動家とのこと。日本よりもむしろ世界で有名らしいのだが、この本を見つけるまでこの人物のことは知らなかった。

20代で神戸の貧民街に住み路上伝道を開始、貧民問題や農村問題、反戦運動、組合運動に関わり、現在のコープ神戸にあたる組織を創設した。すごい人だ。貧民街に移った若年の情熱や葛藤がwikipediaからも伝わってくる。
第二次大戦中の当局を擁護する言動と、それまでの主張の矛盾がさまざまな想像を生む人物でもある。

内容は日本の農村の荒廃を嘆き、序盤ではモノカルチャーの脆弱性を指摘して「多面的農業」「立体的農業」を提唱している。

これだけなら普通の社会運動家(と言っては普通の社会運動家に失礼)なのだが、この本の面白いところはこれらの主張に聖書の解釈を混ぜ込んでくるところだ。
曰く、知恵の実が林檎なら生命の実は胡桃や栗などのナッツ類、そしてイチジクである。脂肪やビタミンを多く含み、収穫が安定する生命の実を捨てて糖の享楽に走ったために、人は飢えることになったというのが賀川的失楽園らしい。

賀川は頑張って科学と聖書を整合させて神秘を感じているのだが、医学生としては「アダム(男)の肋骨からイブ(女)が作られた」という箇所にどうしても難癖をつけたくなってしまう。
発生学的には人間身体のデフォルトは女性である。男性ではY染色体にコードされたSRY遺伝子がこの「デフォルト発達」から脱線させ、アンドロゲンシャワーなどの機構によって男性の身体を作る。
B.ボークンの「堕ちたサル」では、人間社会はもともと女性がリーダーであり、それに反旗を翻した男性ギャングの打ち立てた叛逆の旗の大きなものがキリスト教だとしている。この本もかなり科学性からは遠いものなのだが、僕にはこの本の言いたいことがわかる気がする。

いずれにせよ、一人物の内面における宗教と生活、運動のかかわりという点では非常に面白い本で、何より賀川豊彦という人物に出会えたのが最大の収穫だった。会ったこともない大叔父から受けた初めての薫陶である。

『異常論文』樋口恭介

同居人に勧められて。
異常論文とは現実と虚構の境界を曖昧にするような創造的文章で、スタニスワフ・レムの架空書評「完全な真空」に通じるものがある。

まず、巻頭言がかっこいい。ドゥルーズ・ガタリの「アンチ・オイディプス」を彷彿とさせる。

色々な人の異常論文が収められているが、僕が読んだのは最初の円城塔の「決定論的自由意志利用改変攻撃について」、柞刈湯葉の「裏アカシック・レコード」の二編。二編だけ取っても全く違った趣だ。
「裏アカシック・レコード」はまだ「読み物」として容易に楽しめる作りだったが、円城塔のほうは自分が群論に関してあやふやなこともあって難解な内容だった。それでもSFの流儀に従って雰囲気で読み進めていくと、いつの間にかファンタジックな結論が導き出されていて、胡散臭い面白さがある。群論やろうかな。

『都会のトム&ソーヤ』 17, 18 はやみねかおる

小学生時代から読み続けているはやみねかおるの現代冒険小説シリーズ。去年は実写ドラマ化・映画化され、シリーズを追っている者として感慨深かった。2022年1月時点で、その最新刊が18巻である。

17巻「逆立ちするライオン」

17巻は、内人と創也の通う中学校が舞台。転校生・加護妖の出現によってそれまでのお約束(男女の境界、内人と創也の砦の不可侵性、真田女史の能力、真田女史と健一の関係)が揺らぐ。内人と創也はクラスのレクリエーションゲームを利用してこれらを解決しようとするが、そのゲームの内容はむしろクラスメイトの関係、絆を揺さぶるスパイゲームである。
栗井栄太の乱入とセキュリティシステム・AKB24PGUの暴走は、ロボット三原則とプログラミングにおける無限ループを紹介するシーンだろうか。僕には少し脱線的に感じられたが、児童文学ならではの工夫なのかもしれない。

ゲームは真田女史の能力が戻ることで解決を見るが、中盤にかけて能力が不安定だった関係上、解決のためのアイテムが直前に渡されていて、序盤の伏線が回収された爽快感は感じられなかった。
ゲームの流れ自体は以上の通り、そこまでの「ドキドキ感」はなかったのだが、エピローグ以降ははやみねの世界観に接続する手掛かりが示されており、想像力をかきたてる。親世代の一幕が描かれたのも嬉しかった。

18巻「未来からの挑戦」

18巻は、栗井栄太・ユラ・梨田と創也・内人がチームを組んで、世界的ゲームデザイナー・ウォーレン・ライトのゲームに挑戦するという内容。
この巻は面白かった。最初にチームリーダーを決める段で「明らかに後半で回収される」ギミックが提示され、それでいて(僕が注意不足だったこともあるが)回収の仕方は意表を突くものだった。それでいて、膝を打つ納得感があるのが流石。

マチトムシリーズ(というより、はやみねかおる作品)は、「自由意志 VS 決定論」、そして「物語世界のメタ認知」が大きなテーマである。17巻では漫画に描かれたことが現実になるという決定論と、加護妖の「現実世界を物語世界にして、俯瞰的なプレイヤー視点で解釈する」立場。18巻ではウォーレン・ライトが、人智を超えたコンテンツによって人類を啓蒙する上位存在的なふるまいを見せる。また、「頭脳集団」のメンバーとして登場する「ことばつかい師」は、「時見」と同様に未来にアクセスする能力かに思われた(実際は催眠術的なものであり、受け手の解釈や態度に左右される、『わりと窮屈な』能力だったのだが)。
はやみね作品はクロスオーバーが多く、他の作品を読むと物語世界全体の理解が深まるのだが、残念なことに僕はマチトムシリーズしか読めていない。今後暇があればはやみね作品を読破するのも、勉強の息抜きによいかもしれない(結構なボリュームだが)。

ほか

「日本神話」マーク・エステル

古事記をテーマにした画集。日本語と英語、フランス語が併記されていて語学学習に使えるかもしれない。

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