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思い出なんかいらん6

「‥ほんとよくあの態勢から上げるよねえ。アンダーでいいじゃん。アレは。」

 「セッターは、セットするんが仕事やで?適切な位置にボールをセッティングするんや。」

 「‥で?」

 「アンダーは、腕2本。オーバーは、指10本。よりいっぱいのモンで支えたんねん。セッターやもん。」


 …これこそ宮侑。お調子者であったり、時に高圧的でありながらも、スパイカーに対して、誰より真摯で献身的だ…



 …あんな風に、バレーをやる人と一緒のチームに居って、俺は、なんちゅう中途半端をやったんや。‥絶対もう呼ばれへん思とった…

 「世界一の奴らかて、同じ事ずーっとやっとったら、すぐ世界一から引きずり下ろされんねん。日本一にもなってへん俺らが、去年を、昨日を守って、明日何になれる?何かひとつでいい。今日、挑戦しいや。」


 …全国2位が何やねん。2位?3位やったっけ?どっちでもええわ。昨日の事や…

 …昨日は、もう消化した。たくさんの昨日は、もう筋肉になっとる…

 …今日、何をする…

 『ハイキュー』稲荷崎高校‥思い出なんかいらん‥のプロローグです。




 私は、あなたが、あなたの人生を、生きていく為に、必要な事は「記憶」であると考えていました。

 朝、目覚めた時、これまでのたくさんの昨日の「記憶」があるからこそ、あなたは、今日も、あなたの人生を生きていく事が出来ます。


 2005年に行われたアメリカ政府の組織であるナショナル・サイエンス・ファンデーションの研究によると、平均して人は1日に12,000~60,000個の考えを持ち、そのうち80%はネガティブ、そして、95%は昨日と同じ考えであるという結果が出ています。


 しかし、上記の私の考えは、少し揺らいでいます。




 「これはなぁ、今に始まったことやなくて、お前がさー行方不明になって帰ってきてから、ずっと思っとったことなんやけど、お前光ちゃうやろ?」

 「え……なんでや完璧に模倣したはずやのに‥」


 「前は結構なんでも話しとったと思うけど!?言いたいことあんなら‥ッ。」

 「前‥って、さも自分のことの様に言うけどな。」

 「‥やっぱ、そうなん?おれが本当の光とちゃうから?なぁ‥やっぱりおれじゃ、だめなん?」

 「当たり前やろ。お前はッ声も見た目も喋り方も、光そっくりやけどさあ、光ちゃうやんか‥ッ!!」

 『光が死んだ夏』よしきと光の会話です。



 仮に、あなたが死んだとして、あなたの見た目と喋り方、そして「記憶」までも、受け継ぐ事が出来るような存在がいて、私の前に現れたとしても、それは、あなたではありません。

 多くの人は、騙せるとしても、家族や親友等、あなたの事を、本当に大切にしてきた人の事は、騙せないでしょう。




 思い出せないという事は、生きていなかったも、同然という事かもしれません。

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