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〜医療・介護系企業分析シリーズ②〜メディカル・ケア・サービス株式会社

2018年9月4日、学研HD(9470)がグループホーム事業展開のメディカル・ケア・サービスを子会社化しました。取得価額は8,900百万円となる業界では大型のM&Aとなりました。
今回は、その対象会社となった、メディカル・ケア・サービス株式会社(以下MCS)と、今回のM&Aを分析していきます!

サマリー
MCSは認知症グループホーム事業を主軸とする企業。事業所数も日本一。
現在、売上は毎年上昇しているものの、営業利益が不安定な状況。
今後は、傘下となった学研HDとの協業が鍵。
記事の構成:
1.会社概要
- 1_a 歴史
- 1_b 事業内容
- 1_c 業績推移
2.認知症グループホーム事業の分析
- 2_a 自社分析(売上・利益、KPI)
- 2_b 市場分析
- 2_c 競合と自社ポジションの分析
- 2_d 今後の戦略
3.簡易財務分析
4.評価
- 4_a 現状に対する評価
- 4_b 今後に対する評価
- 4_c 今後取るべき戦略の提案

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1:会社概要

1_a 歴史
1999年設立以降、認知症グループホーム事業で成長。
2006年、名古屋証券取引所セントレックスに上場。
同年、(株)SORAを設立し人材派遣業に進出。
2010年、当社100%出資子会社MCSハートフル(株)を設立。
2012年、グループホームキノシタ(有)の全株式を取得。子会社化。
2013年、名古屋証券取引所セントレックス市場から株式を非上場化。
2018年、学研HDの傘下に。現在も認知症グループホーム事業を主軸とし、積極的に事業所数を拡大。

1_b 事業内容
・【認知症グループホーム事業】認知症対応型共同生活介護施設の事業
・【その他】10の事業を持つ。
具体的には、介護付き有料老人ホーム・都市型軽費老人ホーム・小規模多機能型居宅介護・居宅介護支援サービス・デイサービス・中国介護事業・東南アジア介護事業・フードサービス事業・福祉用具販売事業・アウトソージング事業


1_c 業績推移
売上
認知症グループホーム事業・その他事業ともに増加傾向。
売上構成比は、グループホーム事業90%その他10%となっている。

営業利益率
営業利益率は不安定。


2.認知症グループホーム事業の分析

2_a 自社分析
【事業所数】2014年を境に事業所増設のスピードが減少。
【売上】直近5年は増加。介護付き有料老人ホームの入居率が上昇し売上増加を牽引していると考えられる。
【営業利益率】不安定。介護保険制度改定による介護報酬減額の影響、市場全体の人材不足による採用コストや派遣社員利用等のコスト高が原因なのではないかと想定される。

続いて、KPI分析。
5年間で施設数を30%を増設。1事業所当たりの売上高も上昇。
恐らく、介護付き有料老人ホームの入居率上昇が牽引していると想定。

2_b 市場分析
これまで、認知症グループホーム市場は、順調に拡大。
但し、2006年を境に、その拡大スピードは鈍化。
同年度実施の介護保険制度改定より変更された以下の2点に起因する。

1. マイナス0.5%の介護報酬額改定。事業の収益性悪化が懸念された
2. 受入対象者が「中程度の認知症の高齢者」 から「認知症に伴って著しい精神症状や行動障害が現れている重度の高齢者」に変更。入所の対象人口が狭まるとともに、従業員1人あたりの負担も増加。

今後は、要介護認定者数・認知症患者数は共に増加傾向。
グループホーム市場も拡大すると考えられる。
その一方で、介護職員の人材不足が業界全体で課題に。
2025年には、 全国で38万人、東名阪で2万人の人材不足と想定されている。

【参考:介護業界における人材の需給ギャップ予測】

なお、当社でも人材確保の大変さから、採用費用や派遣会社利用に伴う人件費増が原因で、営業利益は後退しているのではないかという印象がある。
今後も、人材確保が課題と考えらえる。


2_c 競合と自社ポジションの分析
小規模分散市場。 全国のグループホーム事業所は13,346箇所(2017年度)。当社は事業所数1位であるが、事業所数上位3位を合計しても全体のわずか5%。

2_d 今後の戦略
今回、学研HDとの協業を発表。
学研のサ高住事業と、MCSの認知症ケアとの関連性を高め、より高品質のサービス提供を図ることで、企業価値の向上を目指すとされている。


3.簡易財務分析

2017年度の財務安定性分析。
同業の企業として、ニチイ学館とユニマット・リタイアメント・コミュニティとの比較。自己資本比率は業界内でも高い水準である。


4. 評価

4_a 現状に対する評価

学研への売却については、MCSとの元オーナー視点に立てば、良いタイミングでの売却と言えるのでは無いか。2025年以降の介護市場の成長鈍化・人材 不足による継続的な利益率低下を考慮すると、単体での利益額向上が難しく、適当な意思決定であると想定。

一方、今回のM&Aで、MCS・学研間での顧客の融通は期待できる印象。
これまで、学研HD、当社共に全国展開を行なっており、事業所を多く展開する地域での地理的な重なりもある。
例えば、東京都におけるサ高住とグループホーム の5km圏内の組み合わせは14通り。神奈川県も17通りある。かなり出店地域が一致しており、地域ドミナントの形成には理想的な組み合わせだった印象。


4_b 今後に対する評価

市場成長が鈍化しており、差別性も打ち出しづらい中では、認知症グループホーム単体では収益性の向上が見込みづらいと想定される。
また、3年毎の介護保険改定による介護報酬減額のリスクもある。

今後は、学研HDとのM&Aによる地域ドミナント形成、包括的なケアの提供といったところが実現出来るかがポイントとなる。
両社の地域的な重なりは大きく、実現可能性は高いと言えそう。
但し、短期的に顧客の融通が出来るかというと、学研のサ高住顧客(20~35万円/月の利用料)と、MCSのグループホーム顧客(10~20万円/月の利用料)の顧客セグメントが異なり、顧客の融通が簡単には行かない可能性は存在。


4_c 今後取るべき戦略の提案

今回の2社が展開している地域において、更に複数のサービスセグメントを持つことにより、地域ドミナント・地域包括ケアを展開していき、ある意味で顧客の囲い込みをしていく形が良いのでは無いか。
例えば、訪問看護・介護事業や、通所介護(デイサービス)など、在宅系サービスも絡めた展開も良いのでは無いか。
こうした視点でさらなる業界内でのM&Aを進めていくべきと考える。


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