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飲み屋でポン

某夜。時々顔を出す飲み屋にて。Max10席前後の小さなその店は、繁華街から10分ほど歩く場所にあって、お客さんは近所の人ばかり。何回か通えば顔見知りになり、事前に予定を合わせなくても誰かに会える、そういう場所になっている。

K「こないだ、ここの常連メンバーで飲みに行ったんだよね。2軒目で女性のいるお店に行って、シャンパン開けてさ。地元のお店に友人を連れて行ったら、お店にも友人にも振る舞いたいじゃん。それに、なんか『ポン』ってやりたいし(笑)」

I「Kさんは『ポン』好きですよねー」

K「シャンパンの味も好きだけどさ、『ポン』って感じがいいよね。華やかな気分になるじゃん。10月になったら『ポン』しようよ」

I「10月って、ずいぶん先ですね」

K「俺と界外さんの誕生日が10月だから、『ポン』『ポン』ってやりたいじゃん」

H(マスター)「ぜひ、うちの店を貸切でやりましょう」

私「いいねえ。もう、『ポン』『ポン』やりましょう(笑)」

K「Hちゃん、もう一杯ビールちょうだい」

I「あれ、Kさん、Hさん(マスター)のこと、いつのまに『ちゃん』付けになったんですか。この間会った時は、『くん』だったのに。最初なんて、『さん』だったのに。いつのまに『ちゃん』まできたんですか」

私「そうですよ、私のことはいつまでたっても界外『さん』なのに」

K「界外『さん』は界外『さん』でしょ。『ちゃん』とかありえないよ」

私「マスターはさすがだなあ。私なんかいつまでたっても『さん』なのに。いつのまにかKさんの懐に入り込んでさ(笑)」

I「僕も未だにI『さん』ですよ。マスターはさすがだなあ」

H(マスター)「まあ、もちろんそういうの考えてますけど、やめてくださいよ(笑)」

K「君らふたり、うるさい(笑)」

I「Kさんとはよく飲みにいくんですよ」

K「Iさんから『今日何してますか』ってLINEが時々くるんだよね。『呑んでますか』とか『呑みにいきませんか』じゃなくて、『何してますか』なんだよ。誘い方がいいよね」

I「お互いが呑み助だから、そうしてるっていうのもありますよ(笑)。どうせどこかで呑んでるんだろうなって前提で、『何してますか』ぐらいがちょうどいい」

私「それわかるなあ。最高の誘い方だなあ」

I「『何日の何時に店を予約しましょう』とか、本当はなんか嫌なんだよね。こっちの方が普通の誘い方だと思うけど、なんかめんどくさいなって」

私「わかるなあ。誘った時の自分は吞みたい自分だけど、約束した日の自分が呑みたいかどうか、わからないもん」

K「Hちゃん(マスター)からLINEで『○○さん来てますよ』って時々連絡もらうの。一回も返事返したことないんだけど(笑)。でも、『○さん来てるのか。じゃあ、何時までには仕事切り上げて行こうかな』って考えたりできるから、これもうれしいんだよね」。

私「『○○さん来てるんで来ませんか』だと重いけど、『○○さん来てますよ』だと、ただの情報提供だからいいんですよねー。これもさっきの、約束して呑むのは重いのと同じかも。そのときの呑みたい気持ちとか明日の予定とか、もろもろタイミングがちょうどいい人と、待ち合わせるんじゃなくて居合せる感じがいいんですよね」。

K「そうなんだよ。だからIさんの誘い方もいいんだよね」

I「Kさんはいつも居酒屋で鶏皮ポン酢頼むよね」

私「え、Kさん、どんだけ『ポン』好きなんですか(笑)」

I「ああそうか、シャンパンの『ポン』と鶏皮ポン酢の『ポン』ね」

私「Iさん狙って言ったんじゃないんですか。私、きちんとこのボケを拾わなきゃって思ったのに(笑)」

I「いや、今のは偶然(笑)」

私「今度からKさんが『ポン』って言ったら、シャンパンの可能性もあれば、鶏皮ポン酢の可能性もあるね(笑)」

K「君らふたり、うるさい(笑)」

こんなくだらない話を『ポン』『ポン』繰り出して過ごす夜の飲み屋が私は好きなんだよな。人はこれを遊びというけれど、そんな人には高村光太郎の詩「人に」を送ります。

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人に

遊びぢやない
暇つぶしぢやない
あなたが私に会ひに来る
――画もかかず、本も読まず、仕事もせず――
そして二日でも、三日でも
笑ひ、戯れ、飛びはね、又抱き
さんざ時間をちぢめ
数日を一瞬に果す

ああ、けれども
それは遊びぢやない
暇つぶしぢやない
充ちあふれた我等の余儀ない命である
生である
力である
浪費に過ぎ過多に走るものの様に見える
八月の自然の豊富さを
あの山の奥に花さき朽ちる草草や
声を発する日の光や
無限に動く雲のむれや
ありあまる雷霆(らいてい)や
雨や水や
緑や赤や青や黄や
世界にふき出る勢力を
無駄づかひとどうして言へよう
あなたは私に躍り
私はあなたにうたひ
刻刻の生を一ぱいに歩むのだ
本をなげうつ刹那の私と
本を開く刹那の私と
私の量はおんなじだ
空疎な精励と
空疎な遊惰とを
私に関して聯想してはいけない
愛する心のはちきれた時
あなたは私に会ひに来る
すべてを棄て、すべてをのり超え
すべてをふみにじり
又嬉嬉として

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だからなにってことはないのですが、飲み屋トークの延長線みたいなものです。

で、あなたは「今日何してますか」。

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