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ウィルソンと休む

  ダニエル・クロウズは米国のグラフィックノベルの旗手と言えるだろう。これまでもダニエル・クロウズの作品は紹介してきた。ダニエル・クロウズの作品を邦訳で手軽に読めることについてはプレスポップ社さんには本当に感謝しかない。

 本作品は、題名と同名のウィルソンという中年の男が主人公の作品だ。ウィルソンは皮肉屋で孤独で嘘つきの中年男だ。このウィルソンが父と死にたちあったり、離婚した妻に会いに行ったり、親戚に会ったりしていく中で厭世的な気分をどうにか晴らそうとする物語だ。

 以下では、本作品の特徴をみたあとに、ダニエル・クロウズ素晴らしい名言を紹介したい。

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まず大きな特徴として、本作品は色んなスタイルで描かれる(ちなみに、ダニエル・クロウズの横線は何か邪悪な雰囲気を感じるのは私だけだろうか)。

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最初のコマのような少しリアルな造形で描かれる場所もあるが、一転フォルムもかなりデフォルメした形で描かれるページもある。いずれも同じウィルソンであるが描き分けがされている。この描き分けについて意味がありそうだし、あまり脈絡がないような感じもする。

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 もう1つの特徴が、上記のページのように1ページごとにタイトルがつけられ、同じページの中ではデフォルメ具合が統一されて描かれている。ちなみに、本作品は描き下ろしのグラフィックノベルということらしいので、これらの作画の特徴は掲載された雑誌の関係ではなさそうだ。また、この1ページごとの塊で物語が進むのが、4コマのようなものが連続して1つの物語を織りなしているように感じられとても興味深い手法だ。ある意味で映画的なシーンを構成しているように見えなくもない。

 最後に物語の最後に出てくるウィルソンのセリフはなかなかに奥が深い。

「もうウンザリなんだよ!ふさぎ込んだ気持ちでいるのには!死を待つ運命・・・根源的な孤独・・・混迷を極める世界情勢・・・そんなものにいちいち思い悩むのにも!」

 このセリフのあとの最後のシーンも興味深い。ウィルソンは何を悟ったのか。本作品を読んだ方と意見交換をしてみたいものだ。

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